緑高←宮

『お前いつも緑間を見てるよな』
部室で二人きりになった時、それとなく口にした言葉。
『もしかして付き合ってんの?』
軽い冗談のつもりだった。
『宮地サン鋭いっすね。まぁ別に隠してたわけじゃないんすけど、』
みんなに言うと真ちゃんが恥ずかしがるから、そう言った高尾は俺が初めて見る表情で笑った。
その後何て返したか、なんて覚えていない。
正直かなりショックだった。
俺は高尾が好きだったから。
…だった、ってかまぁ今もなんだけど。



部活が終わったってのに、体育館には未だ人が残っていた。
大会が近いからか、皆自主練をしているようだ。
俺もその中の一人で、一向納得のいくまで練習をしている。
ふと視線を横にそらすと、黙々とシュート練をする緑間。
生意気だしむかつくけれど相変わらず上手くて、余計腹が立つ。
綺麗な弧を描いてゴールへと落ちていくボールを見つめていると、真ちゃん、と緑間を呼ぶ高尾の声がした。
二人が話しているところなんて見たくなんかないけれど、俺の目は自然と高尾の方へ。
此方から会話は聞こえないけれど、高尾は楽しそうに笑っている。
その笑顔が俺に向けられることなんてないんだな、なんて柄にもないようなことを思った。
「…練習すっか。」
気を紛らわすかのように小さく呟くと、あいつらから目線を外し再び練習に戻る。
横からは、未だに楽しそうな高尾の笑い声が聞こえた。
苛々したまま俺が放ったボールは、リングに当たるとネットを潜ることなく落下した。
「あー、くそっ…本当うぜぇわ。」


その後の自主練は散々で、早めに切り上げることにした。
部室のドアを開けると、中は真っ暗だったので電気のスイッチを押そうと壁に手を伸ばす。
「…電気、つけないでください。」
「うぉっ!?」
突然暗闇の中から聞こえた声に驚き、思わず変な声が出る。
声の主は、もう一度 電気をつけないでください、とだけ言ってきた。
その声にはよく聞き覚えがある。
まぁこんな状態の声は初めて聞いたけど。
「高尾?」
呼びかけると、少しの間を置いて小さく返事が聞こえた。
暗闇に慣れてきた為、椅子に座る高尾が確認できる。
「何、お前泣いてんの?」
椅子に近寄ると小さな嗚咽が聞こえてきた。
顔は俯いていてよく見えないけれど、泣いているのは間違いないようだ。
もう一度、泣いてんのかと聞いたけれど、高尾は首を横に振るだけだった。
「いや泣いてんじゃん、どうみても。あれだろ、どうせ緑間絡みだろ?」
こいつが泣くなんて、それ以外に考えられないし。
俺の言葉を聞いた高尾が、勢いよく顔を上げた。
その頬は涙で濡れていて、眉は垂れ下がり酷く弱々しい表情をしている。
「…宮地サン、俺、どうしよう…真ちゃん怒らせちゃった、俺そんなつもりじゃ、」
震えた声で、涙を流しながらそう吐露する高尾。
なぁ、何であいつなの?
俺なら絶対に、お前にそんな顔させないのに。
そう言いたかった。
今すぐこいつを抱きしめて、俺にしとけと言いたかった。
それでも、こいつを笑顔に出来るのはあいつだけだって知ってるから。
何度も何度も奪ってやろうと思ったけれど出来なかったのは、俺が大好きなあの笑顔を失いたくなかったから。
「…何があったか知らねぇけど、大丈夫なんじゃねーの。」
「え、」
「お前なら、大丈夫だろ。」
緩く頭を撫でてやると、高尾は不安気に ほんとですか、と聞いてきた。
俺は緑間がお前を見る目が凄く優しいこと、お前を大切に思ってること、知ってる。
いつもお前を見てた俺が言うんだから間違いないだろ。
そんなこと、高尾には言ってやらねーけど。
「ほんとほんと。まぁ頑張れ、高尾。」
「…ありがとうございます、宮地サン。あ、泣いてたの誰にも言っちゃダメっすよ!」
「写メってみんなに送るかなー、高尾君の泣き顔です!って。」
態とふざけてそう返すと、高尾は やめてくださいよまじで、と慌てたように返事をした。
それがおかしくて一人笑っていると、釣られたかのように高尾が吹き出す。
どうやらすっかり元気になったようだ。
「おら、そんだけ元気あんなら大丈夫だろ。」
「え、何がっすか?」
「行ってこいよ、緑間んとこ。」
きょとんとしている高尾を無理矢理立たせると、ぐいっと背中を押す。
よろけながらも、ドアを開けた高尾が此方を振り返った。
「情けないとこ見せてすんません、俺絶対仲直りしてくるんで。」
「おー、行ってこい。」
ひらりと手を振り送り出す。
高尾はびしっと敬礼のポーズをすると、いってきまーすと元気よく返してきた。
さっき泣いてたのはなんだったんだよお前。
踵を返し走り出そうとする背中に、再び声をかける。
「高尾、」
「え、なんすか?」
「高尾をまた泣かせたらまじで轢くぞって緑間に伝えとけ。」
出来るだけ冗談っぽく聞こえるようにそう伝えると、高尾は なんすかそれ、と言いながらけらけら笑った。
「可愛い後輩の為だよ。」
「宮地サンそんなキャラじゃないっしょ!」
「うっせばーか、轢くぞ。」
いつものようなやり取りをし、もう一度高尾を送り出す。
体育館へと走っていく高尾の背中をぼんやりと見つめていると、自嘲気味な笑みがこぼれた。
きっとあいつらは仲直りをして、これからも高尾は緑間だけを想い続けるのだろう。
俺の気持ちが報われることはないのだろう。
それでもあいつの笑顔が見れるなら、俺はそれでいい。
あいつが幸せなら、それでいいんだ。


笑顔も涙も見つめてきた
(全部、あいつへのものだったけれど)


end.


-----------
え、何これ宮地先輩?え?

prev bkm next
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -