高←緑

※高尾が教師、緑間が教え子設定です。
年齢操作あります。
高尾→24歳、担当教科数学
緑間→18歳(高3)

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初恋は実らないとはよく言ったものだ。
確かに初恋の人と付き合っただとか、結婚しただとかいう話はあまり聞かない。
その言葉の理由は多々あるらしいが、一番大きいのはそれが分不相応な恋だかららしい。
例えば学校の中でトップクラスの人気を誇る男子だとか、そういった多数の人から好かれているような相手。
そういった相手ほどライバルが多く、恋は実りにくくなる。
初恋は実らない、その言葉通り俺の初恋はきっと一生実らないだろう。
何故ならその相手は、
「緑間ー、ちゃんと聞いてるかー?」
「、聞いてます。」
普段あまり注意されない所為か、クラスメイトの視線が俺に集中する。
授業中だということを失念していた。
先生は そっか、と一言だけ返すと再び黒板と向き合うと、その内容の説明を始めた。
一度注意されてしまった俺は、今度は気を付けようと視線を黒板へ移す。
分かりやすく説明しようと、先生の指が数式の間を行き来する。
その度に綺麗な黒髪がさらさらと揺れるのをぼんやりと眺めていると、終業を知らせるチャイムが鳴った。
「っと、鳴っちゃったかー。じゃあ続きはまた次の授業な!」
号令が終わり、教室が一気に騒がしくなる。
もう今日の授業は今の数学で終わりなので、帰り支度をする者や放課後遊ぶ計画を立てる者など様々だ。
そんな中、数人の女子が黒板前にいる先生の元へ小走りに向かうのが見えた。
「せんせー、ここ分かんないから教えてっ!」
「あたしもー。」
その声は大きくて、俺の席まで聞こえてくる。
ノートと筆記用具を手にした女子を前に、先生が笑顔で何か答えた。
それを聞いた女子がけたけたと可笑しそうに笑い、先生の腕を軽く叩く。
それ以上は見ていられなくて、俺は帰りの支度を始めた。


時々、女になりたいと思うことがある。
それは例えば、先程のような出来事のあった後とかに。
俺のクラスの数学を受け持っていて、尚且つ担任である高尾和成先生は生徒だけでなく保護者や他の教師にも人気である。
それはあの明るく話しやすい性格や、決して悪くない見た目が理由だろう。
いつも生徒に囲まれていて、楽しそうで。
そんな先生が、俺は前から好きなのだ。
先生と生徒なんて、普通の恋よりも実る確率は低いだろう。
まず同性だし、先生は俺以外の生徒にも好かれている。
中には本気で先生に恋している女子だっているだろう。
実らない、分かってる。
それでも、俺は先生が好きで。
もしも俺が女だったら、まだこの恋が実る可能性は高かったんだろうか。
そうは思うものの、到底諦めきれる訳もなく。
「先生、今ちょっといいですか。」
放課後、生徒の誰もいなくなった教室で先生と二人きり。
そんなシチュエーションに少し緊張しつつ、教卓で何やら作業をしていた先生に声をかけた。
「おー、どした?」
俺は机の上に置いたままにしておいたノートとシャーペンを手に取ると、教卓の横に立つ。
「この問題の解き方がよく分からないんで教えてもらいたいのですが。」
「ん、任せろ…ってこれ応用問題?」
難しいの解こうとしてんねー、そう言って笑う先生を直視なんて出来なくて。
そんな俺の様子に気付いていないらしい先生は、自分のシャーペンを手に取るとノートにさらさらと数式を書いていく。
「いやぁ、緑間は真面目だね。俺にもちゃんと敬語使うし。」
「先生に対して敬語なのは当然だと思いますが。」
「普通はそうなんだけどね。俺皆と歳近いし、こんな感じの性格だからさ、敬語使う奴あまりいないんだよなー。」
数式を書き終えた先生は、困っちゃうね、と笑うと、問題の解説を始めた。

「…で、最後にこの数式をここに当て嵌めて。」
「……こうですか。」
「お、正解。いやぁ緑間は飲み込みが早くて教え甲斐があるな!」
その言葉が嬉しくて何か言おうとしたけれど、先生の教え方がうまいからですよ、なんて気の利いたことが言えるはずもなくて、ただ黙ったまま頷く。
「態々ありがとうございました。」
「いいって。てかさー、」
お礼を言い、席に戻ろうとする俺を先生が呼び止めた。
何ですか、と振り向くと、こちらを見ている先生と目が合ってしまう。
「緑間最近ちょっとおかしくない?うまく言えないんだけど、うーん、なんか悩みでもあったりすんの?」
告げられた言葉に驚いて、思わず え、と声に出してしまった。
先生はそんな俺を見て やっぱり、とだけ呟くと、ぐっと俺の方へ体を近付けた。
「一応さ、俺担任だし。教え子が悩んでたりしたら相談くらいは乗ってやりたいわけよ。で、どうした?言いたくなければいいけどさ。」
先生のことで悩んでました、だなんて言えるわけないだろう。
なんでもないです、そう言いたいのに先生に心配そうに見つめられ、ただ口をぱくぱくとすることしかできない。
そんな俺を見て何を思ったのか、先生はにんまりと笑った。
「分かった、恋の悩みだ。」
にんまり顔のまま、先生は腕を組むとうんうんと頷く。
「いやぁいいね、青春じゃん。」
「か、勝手に話を進めないでください。」
慌てて止めると、え、違った?と返された。
先生は完全に俺をからかっているのだろう。
何となく、それが気に食わなくて。
「…違わないです、あってます。」
気付いたらそんな返事が口から出ていた。
あぁ、言うつもりなんてなかったのに。
先生が目を丸くしながら まじで?と聞いてくる。
もういいや、と半ば自棄になりそれに返事をする。
「はい、まじです。」
「へぇ、意外!で、相手は?何で悩んでんの?高尾先生が協力してやろうか?」
そう言いながら笑う先生は、きっと俺の好きな相手が自分だなんて思ってもいないだろう。
何も答えない俺に、先生は再び相手は誰かを聞いてきた。
ここまで言ってしまったんだし、もう全て言ってしまおう。
まさかこんな形で言うことになるなんて思わなかったけれど。
「…相手は、先生です。」
小さな声で告げたそれは、確りと目の前にいる先生に聞こえたらしく。
「え?…あ、緑間って意外と冗談とか言ったりするタイプなんだな。」
びっくりしたわー、と先生が笑いながら俺から視線を外す。
気付いたら俺は、そんな先生の肩を掴んでいた。
「冗談なんかじゃない、俺は、本当にずっと前から先生が、」
好きです、その言葉を伝える前に俺の唇は先生の人差し指で止められてしまう。
「ストップ。本気なのは分かったわ。ごめんな、冗談とか言って。」
「…」
「でもさ、ほら、俺お前の担任だし、な。」
先生はそう言って苦笑すると、俺の唇から指を離した。
「分かってます、伝えたかっただけです。」
俯きながら返事をする。
居た堪れなくなり、自分の席に置いてある鞄を手に取ると小走りで廊下へと向かった。
「…すみませんでした、急に変なこと言って。」
最後にそう一言告げ、俺は誰もいない廊下を走った。
早く先生の前から消えたくて。


初恋は実らない


ひとり教室に残る先生が酷く泣きそうな顔をしていたことを、俺は知らない。


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続きます、多分!
なんかこういう意味深な終わり方をしてみたかったんです。
高尾の担当教科、展開的に一番やりやすかった数学にしたけれど高尾と数学…まぁいいや。
あと緑間がただの優等生。

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