緑高

やばい遅刻する。
放課後ということもあり、人が疎らな廊下を全力で走る。
先程まで委員会の連絡で急に呼び出されていたのだ。
時計を見ると、あと5分ほどで練習が始まってしまう。
なんで先生って皆話が長いんだよ、すぐに終わるって言っただろ!
なんて、心の中で委員会の担当教師に悪態をつく。
今は1分1秒でも長く練習時間に当てたいのに。
漸く部室の前に着くと、まだ皆着替えているのか少しだけ開いた扉から賑やかな話し声が聞こえてきて安堵する。
よかった、練習には間に合ったようだ。
扉を開けようとドアノブに手をかけると、真ちゃんと宮地先輩の会話が聞こえてきた。
内容が少し気になったので、息を潜めて聞き耳を立てる。
「なぁ、お前らっていっつもうざいくらいイチャついてっけど、お前高尾のこと好きなの?」
なんてことを聞くんだあの人は!
いや、でも確かに付き合ってはいるから向こうも俺のことはきっと好きでいてくれてるはず…。
真ちゃんはなんて答えるんだろう。
俺はより一層耳を澄ました。
「…好きなどではありません。」
少しの沈黙の後、確かに真ちゃんはそう言った。
中ではまだ会話が続いてるようだけど、とても聞く気になんかなれなかった。
分かってる、真ちゃんはツンデレだからあぁ言ったんだって。
それでもやっぱり悲しくて、どうしようもなくて。
気付いたら俺は来た道を引き返していた。



今日の練習が終わった。
各々帰り支度をしたり個人練習をしたりという中、俺はいつもの個人練習をせずに一人部室へ向かう。
何故か今日は高尾が部活に来なかった。
委員会があるから遅れるかもしれないとは聞いていたけれど、もし遅れたとしても10分程度だろう。
未だに委員会をやっているとは信じ難い。
何かあったのだろうか。
少し心配になったので、電話することにしたのだ。
部室の扉を開け、丁寧に畳まれている自分の制服のポケットから携帯を取り出す。
発信履歴を見れば、一番上に高尾の携帯番号を見つけることが出来た。
発信ボタンを押すと、すぐに呼び出し音が聞こえてくる。
3コール目で、高尾が電話に出た。
「…もしもし。」
「高尾か。何故今日部活に来なかったのだ?」
問い詰めると、高尾は ごめんごめん、と笑う。
「体調が悪くて、委員会が終わったらすぐ帰ったんだよ。」
「…委員会へ行く前まではピンピンしてたじゃないか。」
「委員会中に急に具合悪くなったの。」
でももう大丈夫だよ、と笑う高尾の声はいつもと変わらない。
それなのに、何故か違和感があるような気がして。
高尾が委員会の担当教師に対する愚痴を零すのを聞きながら、それは次第に確信へと変わっていった。
けれどこいつはきっと、俺が聞いてもはぐらかすだけだろう。
それならば直接行ったほうがいいんじゃないか。
何時もは取り乱したりなどしないのに、高尾の様子がおかしいだけでここまで不安になってしまう。
それだけ俺はあいつに惚れているのだろう。
俺は制服も着ずにスポーツバッグを掴むと、部室を飛び出した。


「それでな、その時にあいつが、」
真ちゃんに気付かれないように、俺はいつも通りのテンションで他愛のない会話を続けた。
電話の向こうの真ちゃんも、いつも通りたまに相槌を打つくらいで自分からは特に話題を出してこない。
きっとバレてない、大丈夫。
「まじありえねーよな!ね、真ちゃん。」
「そうだな。」
ぐだぐだとくだらない会話を続けていると、やたらと真ちゃんの声に雑音が混ざっているのに気付く。
「真ちゃん今外にいんの?」
「そんなところだ。」
ふーん…もう帰ってる途中なのかな。
特に深く考えず、次の話題は何にしようかと考える。
「あ、そういえば、」
話題を思いついたので口を開くと同時に、玄関のチャイムが軽快に鳴り響いた。
親は今出掛けていて、妹もまだ帰ってきてないので丁度家には俺一人だ。
「ごめん真ちゃん、誰か来たみたいだわ。ちょっと待ってて。」
「あぁ、待ってる。」
携帯を片手に、階段を降りる。
はいはーい、と返事をしつつドアを開けると、そこには予想外の来客の姿。
「真ちゃん…なんで?」
俺と同じように携帯を片手に持った真ちゃんは、何故かTシャツのまま汗だくでそこに立っていた。
「…なんではこっちの台詞なのだよ。何故なにも言わないのだ。」
「え、気付いて…?」
戸惑いつつ駆け寄ると、馬鹿かお前は、と真ちゃんが呆れ顔で溜息を吐いた。
「お前の様子がおかしいことなんて、すぐに気付いた。」
だからここに来たのだよ、そう言って真ちゃんは俺の目を真っ直ぐに見つめてきた。
あー俺馬鹿だな、真ちゃんはこんなに俺のこと想ってくれてるじゃないか。
そう思うと、視界がじんわりとぼやけてきて。
我慢しなきゃ、なんていう意思も虚しく俺の目からぽろぽろと涙が溢れてきた。
「ごめ、俺、宮地先輩と真ちゃんが話してるの聞いちゃって、それで…」
嗚咽混じりにそう告げると、真ちゃんは少し躊躇いながら俺の目に溢れる涙をそっと指で拭ってくれた。
「そんなとこだろうと思ったのだよ。どうせ途中までしか聞いてないんだろう。」
俺が小さく頷くのを確認した真ちゃんが、やっぱりな、と言いつつ俺から少し離れた。
「ちゃんと最後まで聞いていればいいことを…俺があの後なんと言ったのか教えてやろう。」
何も言えずに黙ったまま真ちゃんの言葉の続きを待つ。
「……好きなどではありません。俺は高尾を、高尾和成を愛しています。…先輩にはこう言った。」
そう言った真ちゃんの顔は真っ赤で、そんな真ちゃんが愛しくて、普段好きだとか愛してるだとか言うのは俺からばっかりだったから嬉しくて、止まったはずの涙が再び俺の目から溢れ出た。


きらきら光る
(拭いきれない涙がきらきら)

end.


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リヤ充末永く爆発しろ。

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