宮緑

放課後だってのに、廊下や教室は人で溢れかえっている。バタバタと忙しなく走り回る奴、大きな板やらペンキやらを数人で運ぶ奴等、その他大勢。後2日後に迫った文化祭の準備で生徒だけでなく教師も大忙しだ。そんな様子を横目に、床に広げられた作りかけの看板を踏まないように避けつつ昇降口へと急ぐ。時計の針は既に5時過ぎを指していた。
そもそも、文化祭前は全部活動が活動停止になる。期間中、生徒はクラスだったり部活だったりの出し物の準備を進めたりして構わないのだが、俺のクラスはアンケートをとって結果を纏めたものを展示するというなんともやる気のない出し物なので、もうやることは残っていない。俺は久々に何もない放課後というものを満喫するつもりだったのだけれど、その幻想は『放課後文化祭実行委員は会議室に集合』という放送により崩れ去った。元々、好きで実行委員なんて面倒臭いものになったんじゃない。委員会決めのHRがあった日の前日は丁度練習試合で、いい感じに疲労が溜まっていた。その疲労は眠気を誘い、そこからは言わなくてもわかるだろう。起きたら勝手に決められていたのだ、文化祭実行委員に。まぁこれは俺が悪いし文句を言うつもりはないけれど。それでも、せめて集めるのは別の日にしてほしかった。なんたって、今日は恋人と一緒に下校する約束をしていた日だったのだ。
「悪ぃ、待った?」
「はい、大分待ちました」
「だよな、でももう少し言い方あるだろ?」
このクソ生意気な恋人、緑間と。
結構急いで来たから大分息が切れている、そんな俺を見てあろうことか緑間は 運動不足ですか宮地さん、などとぬかしてきた。
「おま……!バスケ部レギュラーなめんな轢くぞ」
「冗談ですよ、早く帰りましょう」
そう言うやいなや、緑間はスタスタと歩き始めた。待て速ぇよ馬鹿、なんて罵声を吐きつつ、さり気なく緑間の手を掴む。するりと指を絡め所謂恋人繋ぎにすると、緑間の手が一瞬ピクリとしたけれど、特に何も言われなかったのでそのまま手を繋ぎ門を抜けた。
「なー、お前手冷たくね?」
「そうですか?」
普段から体温が高い方ではないにしても、今日の緑間の手はいつもより冷たく感じた。原因はきっと、俺が待たせすぎたからなんだろうな。そう考えると酷く申し訳ない思いでいっぱいになる。きっとこいつは、俺を待ってたからこんなに冷えた、なんて思ってても絶対に言わないだろう。
「お汁粉奢るわ」
「は、何ですか急に」
「いいから黙って奢られろっつの」
この季節なら既にお汁粉は温かいものになっているだろう。せめてそれで暖を取ってもらい、罪滅しとする。緑間は少し眉を顰めたけれど、それでも最終的には それじゃあお言葉に甘えて、と頷いた。
自販機はすぐに見つかった。確認するとちゃんとお汁粉もあったので、小銭を投入しボタンを押す。ガコンと鈍い音を立てて落ちてきたそれを掴み緑間に手渡すと、緑間は缶を両手で包むように持ち、小さく溜息を吐いた。やっぱ寒かったのであろう緑間はすぐにプルタブを開け、一口お汁粉を飲み込んだ。
「ありがとうございます、宮地さん」
「礼はいらねーって」
そう返すと、緑間は何も言わずにお汁粉を一口飲んだ。ゆっくり歩きながら少しづつお汁粉を飲む緑間が、普段の生意気で自己中で電波気味な緑間と重ならない。これはこれで可愛いな、なんて思ってると、ふとある疑問がわいた。
「お汁粉って、甘ったるくて飲みにくくねぇの?」
粒入りだし、うまく飲めないと腹立たないかそれ。なんて思ったことをそのまま言ったら、途端に緑間は顔を歪め淡々と反論してきた。
「甘いものは脳を活性化させます。粒なんかはうまく飲むコツを掴んでいるので問題はありません。それに、お汁粉は最早飲んでいないと落ち着かないのです。」
それちょっとやばくね、という言葉を無理矢理飲み込む。緑間は落ち着いた様子でまた一口お汁粉を飲んだ。そんな緑間の肩を掴み、半ば無理矢理此方を向かせる。
「んじゃ貰うわ」
「は、!?……んっ、む」
思い切り緑間の柔らかい唇に自分のそれを押し付けると、固く閉じられた唇を強引にこじ開け舌を入れた。奥へ逃げようとする緑間の舌を絡めとり、1回きつくちゅうっと吸うと、唇をぺろりとひと舐めし緑間から離れる。
「あっま……やっぱ俺にはわかんねーわ」
「……っな、何をしてるんですかあなたは!馬鹿じゃないですかこんな、道路で!」
「誰もいねーよ?」
俺の言葉に耳も貸さず 馬鹿ですか何なんですかと捲し立てる緑間の顔は真っ赤に染まっていて、思わず吹き出す。するとそれが気に食わなかったらしく、更にわーわー喚きだした。
「おま、うっせーよ」
「どう考えても宮地さんの所為でしょう!」
「誰も見てねぇっての」
まだ何か言ってる緑間をその場に残し、歩き出す。暫くして、後ろからバタバタと大きな足音が迫ってくる。宮地さん、と呼ぶその声に振り向くと、唇に何か柔らかいものが触れた。
「は?」
「し、仕返しです」
どうやらそれは緑間の唇だったらしい。本当に触れるだけのキスだったけれど、緑間の顔は先程より更に赤くなっていて、此方まで釣られて赤くなってしまう。
「お前……意外に大胆だな」
口元を押さえながら思わずそう呟くと、緑間が心外そうに頬を膨らました。
「何言ってるんですか、宮地さん。


意外と大胆なのはお互い様です


(とりあえずお前このまま俺ん家な)
(嫌な予感しかしないのですが)


end.


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素敵ネタを頂いたので。

title:確かに恋だった

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