高緑

※高尾が病んでます。



















「真ちゃん。」
誰もいない部室で帰り支度をしていると、後ろから誰かに呼ばれた。
それが誰かなんて分かりきっていて、それでも振り返れないままでいるともう一度名前を呼ばれる。
恐る恐る振り返ると、そこには予想通り高尾が笑顔で立っていた。
笑っているのに目だけは笑ってないように見えて、顔が整っている部類の高尾がそんな表情をしていると余計に怖かった。
「真ちゃん。」
俺の目を見て、高尾がまた俺の名を呼ぶ。
一歩一歩、近付きながら。
「…なんなのだよ。」
何でもない風を装ってそう返すと高尾は、ははっと乾いた笑い声を漏らした。
「今日さ、真ちゃん何してたの?」
質問に質問で返されたことに若干の苛立ちを覚えたが、いちいち気にしてられない。
高尾はもう、俺の目の前まで迫っていた。
「何って…普通に、部活を。」
その場に高尾だっていたはずだ。
そう思い高尾をちらりと見遣ると、先程までの笑顔が消えていた。
「違うって、休憩時間の話。」
「休憩時間…?」
今日の休憩時間のことを思い返してみたけれど、特に何もないいつも通りの過ごし方だった気がする。
そんな俺を見た高尾が、小さく溜息を吐きながら笑った。
「本当に分からないんだ。じゃあ教えてあげる。」
あぁ、またか。




真ちゃんの肩を強くロッカーへ押し付ける。
これで真ちゃんの逃げ場はなくなった。
俺の目の前にいる真ちゃんは、近くで見ても凄い綺麗で、かっこよくて、ちょっと興奮した。
「…高尾、」
「宮地サンにさ、髪の毛わしゃわしゃされてたっしょ?あれ何?何で俺以外の人が真ちゃんに触ってるの?何で?ねぇ、何で?」
休憩時間、真ちゃんに話しかけようと思ったら宮地サンと話してて。
邪魔しちゃ悪いかな、と思い少し離れたところから見てた。
そしたら、宮地サンが何か言いながら真ちゃんの髪の毛を両手でぐしゃぐしゃにし始めた。
俺だってあまり触ったことないのに。
真ちゃんと付き合い始めて、独占欲が強くなったと思う。
大好きだから、他の奴なんかに触れさせたくないし、本当は会話だってして欲しくない。
真ちゃんに嫌われたくないから必死に我慢して我慢して、それでも、やっぱ限界ってものがあるわけで。
こうやって真ちゃんを問い詰めるのだって、今日が初めてって訳じゃない。
その証拠に、目の前にいる真ちゃんは明らかに怯えたような目で俺を見ている。
そんな真ちゃんも可愛くて大好き。
「ねぇ、何で何も言わないの?それとも、宮地サンに髪触られて、嬉しかった?」
「!そんなわけ」
「ないよね、当然。真ちゃんの好きな人は俺でしょ?そうでしょ?何で俺以外の人に触られてるの?宮地サンは先輩だし、お世話になってるから我慢したけどさ。」
真ちゃんが黙ったまま俺を見つめてくる。
俺は構わずに続けた。
「別に俺は真ちゃんを責めてるわけじゃないんだよ。質問してるだけ。もしも真ちゃんが俺じゃない誰かを好きになったとしても、絶対に別れてなんかやらない。真ちゃんは俺のだよ。別の奴が好きだとしても、俺はそれごと真ちゃんを愛せるよ…まぁ、その相手に何もしないなんて保証は出来ないけど。」
そこまで言ったところで、真ちゃんが小さく俺の名前を呼んだ。
「なぁに、真ちゃん。」
態と甘ったるい声でそれに答える。
「…今日のことは不可抗力だ。俺が好きなのは、高尾だけなのだよ。」
いつもの態度は何処へやら、小さな声で ごめん、なんて言われて。
ほんと真ちゃんって可愛い。
「嬉し、俺も真ちゃん大好き。その綺麗な目も、長い下睫毛も、テーピングが巻かれた指も、夏でもお汁粉を飲むところも、毎日おは朝のラッキーアイテムを持ち歩いてて、バスケが凄い上手くて努力家で、ツンデレで厳しくて語尾がなのだよなところも、俺が大好きって言うと顔を赤くしちゃうところも、キスすると俺の服を握りしめてくるところも、えっちの時にだけ俺の下の名前を呼んでくれるところも、今俺を怯えたような目で見てくるところも、全部全部、だーいすき。」
本当はまだまだ好きなところはいっぱいあったけど、これ以上語ると何時間かかるか分からないから適度なところで区切りをつけておく。
真ちゃんは笑いかける俺をただ見つめていた。


笑わなくなった恋人
(笑顔を奪ったのは俺だって、分かっているけれど)


end.


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もっと病ませたかった。

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