緑間と高尾

※死ネタ注意です
ifの世界設定(緑間→医者)
医療などに全く詳しくないのでおかしいところがあるかもしれませんが、それでもいい方はどうぞ。























その日はいつもと全く変わらない、普通の1日だった。
いつも通り出勤し、いつも通りに患者の診察を行なって。
午後になって、普段はあまり立ち寄らない階へと出向く。
患者達に公にはされていないが、主に末期患者が集められた場所だ。
まぁ、公にされていないにしても薄々感づいている者も多いだろう。
他の階と全く同じ作りでも、何故かこの階だけは重々しい雰囲気に包まれているような気がした。
本来俺の担当する患者はこの階にはいないのだが、つい最近新しく此方へ入った患者がいるらしく、俺がその担当になったわけだ。
片手に今日のラッキーアイテムであるサボテンの鉢植えを持ちながら、シンとした廊下を進む。
角を曲がると、横に小さな休憩スペースのようなものがあった。
特に気にせず通り過ぎようとしたのだが、そこに設置されている自動販売機の前に人が立っているのに気付き、横目にそれを見る。
丁度取り出し口から飲み物を取り出したその人は、此方を振り返り、その手から買ったばかりの飲み物を落とした。
「……え…真ちゃん?」
予想もしていなかったその人物。
「高尾…」
かつての相棒、高尾和成がそこに立っていた。


「いっやー、まさか真ちゃんがこの病院で働いてるとはね!」
「以前教えたはずだが。」
「あれ、そうだっけ?」
忘れちゃった〜、とおどけた様に笑ってみせる高尾の頬は酷く痩せこけていて、笑顔の筈なのに何処か痛々しかった。
あれから二人で高尾の入院している病室へと来たわけだが、その時からこの瞬間までこいつは本当に末期患者なのかという勢いで喋る喋る。
お互い高校を卒業して別々の道へ歩み始め、会うことは疎か連絡を取ることさえ希になっていたから話したいことが沢山ある気持ちもまぁ分かる。
それにしても喋りすぎだろうこいつは。
「高尾」
高校時代の思い出話を延々と続ける高尾の声を遮るようにすると、高尾は笑顔のまま此方を見た。
「ん?」
「具合はどうだ、辛くないか?」
喋り続けて体調を崩してはいけないと思っての一言だった。
それに対し高尾は、少し頬を膨らませると 大丈夫だよ、とだけ答えた。
「俺、この程度でへばる程ヤワじゃねーよ。」
そう言って少し勝気な笑顔を俺に見せる高尾は、あの頃から何も変わっていなくて。
「…そうか、ならいいんだ。」
その後他愛のない話を少しして、俺は高尾の病室を後にした。
別れ際あの頃と同じように また明日な、と言って手を振った高尾は、何処か悲しそうな顔をしていた。


それから毎日、俺は高尾の病室へ足を運んだ。
高尾が俺のラッキーアイテムを見て爆笑したり、この病院に纏わる話(所謂怪談の類だ)をしてみたりと、話題は尽きることはなかった。
高尾と再会してから1週間と少し経ったある日いつものように病室を訪れると、いつもと違い神妙な面持ちの高尾がいた。
何処か辛そうで、今にも泣き出しそうな、そんな顔をした高尾が、俺を見て少し微笑んだ。
いつもと違うその様子を訝しみつつ、ベッド脇に置かれた椅子に腰掛ける。
俺が座るのを見計らったようなタイミングで、高尾が口を開いた。
「…もしもの話なんだけどさ。」
「あぁ。」
俺の返事を聞くと、もう一度 もしもの話だよ、と言うと高尾は続きを話し出す。
「もしも俺がさ、死んじゃったら、真ちゃんは泣いてくれる?」
「…」
質問の意図が掴めずに少し黙り込むと、高尾はそれを気にしていないように再び続けた。
「少しは悲しんでくれるといいなぁ。」
「…縁起でもないことを言うな。」
絞り出すようにやっとそう答えると、そうだねごめん、と高尾が笑った。
その顔も、体も、最初に見た時よりも随分と細くなったと思う。
今まで普通に会話をして、笑い合って、俺は忘れていたんじゃないか。
高尾は、誰でも知ってるような病気の末期患者で、助かる見込みは少ないってこと。
もしかしたら、俺の前から、消えてしまうかもしれないってこと。
「真ちゃん、ごめん。今は一人にさせて?」
本当は少しでも長くこいつの傍にいてやりたいと思った。
そんな俺に ごめんね、とだけ言うと高尾が立ち上がる。
「今日は、扉の前までお見送り。」
「……あぁ。」
黙ったまま扉の前まで行くと、俺は静かにその取っ手を引き廊下へ出る。
「…じゃあね、真ちゃん。」
笑顔で手を振る高尾が、扉を閉めようとした。
いつもは また明日、なのに、今日は じゃあね、で。
それが酷く不安で、思わず閉じかけている扉を制止すると高尾の手を掴んだ。
吃驚した顔をした高尾に、何から言っていいのか分からずに口を開閉する。
「なに、どしたの…」
「……高尾、俺は、お前が相棒でよかった。」
やっとの思いでそれを告げると、高尾は一瞬目を丸くし、それからくしゃりと笑った。
「ありがと、俺、凄い嬉しい。ありがとう。ありがと、真ちゃん。」
笑顔のまま、高尾は目からぽろぽろと涙を零した。
何度も何度も、ありがとうを繰り返しながら。
一頻り泣いた高尾は、手の甲で乱暴に目を擦ると もう大丈夫だから、と再び取っ手に手をかける。
俺の掴んでいた手が、緩やかに離れていく。
今この手を離したら、二度と高尾に会えないような、そんな気がした。
縋る様に手を伸ばすも、高尾はそれを躱すように素早く手を引っ込める。
「…っ、高尾!」
名前を呼ぶ俺に、高尾は笑いかけた。
「ありがとう、真ちゃん…じゃあね。」
パタンと音を立て、扉が閉まった。



「先生!患者の容態が!」
そんな看護師の声を聞いたのは深夜3時を過ぎた頃。
必死の努力も虚しく、その患者は帰らぬ人となった。
寝る前までは、いつもと変わらない様子だったらしい。
夜中に容態が急変、手術も意味をなさず。
ベッドに横たわるその体は、今にも動き出すんじゃないかと思うほど綺麗で。
「…高尾。」
『なぁに真ちゃん。』
いつものような返事は、もう返ってこない。
お前は全部分かってたんだな。
自分が今日死ぬんだと、もうお別れなんだと、全部。
俺の目から涙が一粒、高尾の顔に掛けられた白布に落ちてじわりと滲んで消えた。


最後に触れた指先は
(あの頃と同じでとても温かかったのに)



end.


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最後無理矢理纏めた感がありますね(;^ω^)

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