残連

右手に似合いもしない花を持ちながら、一人何処か冷たい印象の廊下を歩く。
幾つかある扉を通り過ぎた一番奥、そこが残夏の病室だった。
もう何回も訪れているので、ここまで来るのも慣れたものだ。
「夏目残夏」と書かれたプレートを横目に、扉を開ける。
「よー、来たぞ。」
ひらりと手を振り挨拶をすると、ベッドの上で寝ていた残夏が体を起こし此方を向いた。
「毎日ありがとね、レンレン。」
「いいっていいって。はいこれ、今日は花持ってきた。」
手に持っていた花束を見せると、残夏は レンレン花似合わないね、と笑った。
その笑顔が何処か辛そうで、やっぱり体の調子は良くないんだと悟る。
「えー、俺と花超しっくり。」
ベッド脇の椅子に腰掛け、そう返す。
いつかの凜々蝶とのやり取りを思い出し、ずきりと胸が痛んだ。
「…レンレンには寂しい思いさせちゃってるね。」
一人あいつらと過ごした日々を思い出していると、残夏がぽつりと呟いた。
「、何で」
「表情見ればすぐ分かるよ、みんなのこと思い出してたんでしょ?」
まさか視たのかと思ったけれど、違ったらしく安堵する。
それにしても、そんなに分かりやすい表情をしていたのか。
「ごめんね。」
「何で残夏が謝るんだよ。」
「ごめん、レンレンごめんね。」
何故か残夏に謝られ、戸惑いつつベッドに近付く。
声が震えているのに気付き、顔を覗き込んだけど泣いてはいないようだ。
「もうみんないなくなっちゃってボクとレンレンふたりぼっちだね。」
謝るのを止め、唐突にそう投げ掛けてくる残夏に そうだな、と返事をする。
残夏は中々続きの言葉を発さない。
言いづらいことなのだろうか、俯いてしまった。
暫く二人の間に静寂が訪れる。
何か言える雰囲気でもなかったので、ただじっと残夏の手元を見つめる。
服の袖からすらりと伸びる残夏の手首が、以前見た時よりもずっと細くなっていて、それが酷く悲しかった。
2,3分程経った頃、残夏が漸く言葉を発した。
「もうすぐで、レンレンひとりぼっちになっちゃう。」
最初は意味が分からなくて、思わず は?と聞き返してしまった。
残夏は顔を上げ、此方を向いた。
その瞳が僅かに潤んでいるのに気付く。
「ボク、もう長くないよ。」
自嘲気味な笑顔と共に、残夏がそうぽつりと呟いた。
「来月まで生きれるか分からない。今日死んでもおかしくない…そんな状況。」
その内容を受け入れたくなくて、残夏の手を強く握り締めた。
「でも、そんな素振り今までは、」
「レンレンに弱ってる姿見せたくないしね〜。」
そう言って弱々しく笑った残夏に、何も言えなくなった。
もうすぐ独りになる、そんな予感はしていた。
でも、こんなに早く来るなんて。

お別れですね
(俺に出来るのは、離れないように強く強く手を握るだけ)

end.


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