秀徳

首に巻いたマフラーの位置を調整しながら、人気のない住宅街を歩く。最近急に冷え込んできたため、11月なのにもう防寒具が手放せない。それでも、今日は朝練がない分いつもよりはマシか。朝練がある時は大分早い時間に出るため、今よりもずっと寒い。朝練がないのは少し物足りないけれど、久々にゆっくりとした朝を迎えれたので良しとしよう。
この寒さだから、自然と歩く足も重くなっていく。のろのろと進み続けて数十分、漸く遠目に学校が見えた。この距離になると、周りには同じ学校の制服を着た生徒が溢れかえっている。もう随分と経験していなかったこの朝の風景をぼんやりと眺めていると、背中に鈍い痛みが走った。ばしっという音と共に聞こえた声に振り向く。
「よー高尾」
「宮地サン、はよーっす」
振り向くとそこに立っていたのは、同じ部活に所属している俺の先輩である宮地サン。サラサラの金髪が朝日を浴びてきらきらしている。にやにやと何かを企んでいるような笑みを浮かべているのが少し気になるけれど、何も言わないでおく。寒いなー、とか、学校怠いなー、なんて他愛のない話をぽつぽつとしながら並んで歩いていると、宮地サンは 今日日直だったわ、とだけ言い残し走って行ってしまった。日直かー、めんどいよなあれ。そんなことを考えながら歩いていると、何故か色んな人からちらちらと見られた。何かついてんのかなー、なんてその時は深く考えてなかった訳だけれど、その視線の訳は教室に着いてから明らかになった。

「高尾誕生日おめでとー!」
「っうお!?」
席に着いて一息ついた所で、後ろからタックルをかまされる。若干前のめりになり、苦笑しつつ振り向く。俺の反応に満足したらしい友人が、してやったりな表情で立っていた。
「さんきゅー!ってか痛ぇよ馬鹿」
そう言いながら軽く小突くと、悪ぃ悪ぃとさほど悪く思ってないだろう返事を返される。そういえば俺、こいつに誕生日教えたっけ?女子ならまだしも、男子間では誕生日などはあまり重要視されていないため、態々教えるなんてことはしない。大して聞かれもしないし。まぁ誰かから聞いたとかそんな所だろう、と一人で納得していると、へらへらと笑っていた友人が口を開いた。
「高尾お前、自己主張激しすぎ!まじビビったわ」
一体何のことを言われているのか分からずに、は?なんて間抜けな声が出てしまう。相変わらずへらへらと笑ったまま、友人は俺の学ランを指差した。
「え、その背中の紙自分でやったんじゃねぇの?」
「背中?……あ」
学ランを脱いで背中の方を見てみるとそこには、『秀徳高校1年高尾和成、今日誕生日なので祝ってね』と書かれた紙が貼られていた。ご丁寧に、語尾にはハートマーク付きである。俺がその紙をまじまじと見つめている横で、友人はへらりと笑いながら 誰かに貼られた系か、と言った。自分で貼るわけねーだろ、なんて笑いながら答える。
「きっとアレだわ、部活の先輩」
「まじか、やるじゃん先輩」
知りもしない相手に訳の分からない賞賛の言葉を送る友人を、まーなあの人ならやりかねねぇわ、なんて適当にあしらいながら、紙を剥がした学ランを着た。
道理で廊下や昇降口などでも祝われるわけだ。他クラスの、あまり接点のないような友人からも祝われた。その段階でおかしいと思えよ過去の俺!恐らくこれは宮地サンが最初に背中を叩いた時に貼られたものだろう。その時から教室まで、俺はこの紙を背中に貼っつけたままだったのか。恥ずかしいなおい。

その後の授業は特に何もなくこなした。放課後になり、部活へと向かう。俺の横にはいつも通り真ちゃんがいるわけだけれど、何か今日はいつも以上に静かだ。というか、俺と目を合わせようとしない。え、俺なんかした?色々と原因を考えてみるも、心当たりがありすぎる。結局原因も分からぬまま、部室に着いてしまった。
「ちわーっす」
挨拶をしながらドアを開けると既に先輩達は揃っていて、着替えをしているところだった。その中に宮地サンの姿を見つけたため、すぐに駆け寄る。
「宮地サン朝の奴!」
それだけで言いたいことは伝わったらしく、宮地サンはにやりと意地悪そうな顔をした。
「いつ気付いた?」
「教室で友達に言われて」
「うわ、おっそ。恥ずかしー」
「宮地サンの所為っすよ!」
俺の様子が面白いのか、宮地サンはけらけらと笑っている。その後準備が終わったらしい先輩達が部室から出ていこうとしているのを見て、まだくすくすと笑いながらその後ろに着いていく宮地サン。ばーか、と去り際に暴言を吐かれた。笑いながら。


「よし、今日の部活はここまで!」
体育館中に大坪サンの声が響き渡る。部員達がそれに返事をする中、一人首を傾げた。何か今日終わるの早くね?いつもより1時間程早い。近くにいた真ちゃんへと話しかけてみた。
「なー今日早くね、終わんの」
「そ、そうだな早いのだよ」
何で一瞬吃ったの、変な真ちゃん。目線は俺に合わずにうろうろと宙を彷徨っているし。まぁいっか。
部員達が集まっているところへ小走りで向かうと、監督は来ていないため大坪サンの号令によって今日の部活は終了した。
タオルで汗を拭きながら、帰り支度をするため部室へ向かう。真ちゃんは何故か俺を置いて先に走っていってしまった。というか、気付いたら俺以外誰もいない。何今日なんかあんの、俺だけ仲間外れ?部室の前に着くと、中からはがたがたばたばたと物音やら足音が漏れ出している。やべーぞ、ばか、早くしろ、なんていう怒声もたまに聞こえる。何となく入るのを躊躇っていたけれど、早く着替えたいしな、と思い切ってドアを開けた。と同時に破裂音のようなものが四方八方からしてきて、思わず肩を竦める。
「「高尾誕生日おめでとう(なのだよ)!!!」」
部員達が同時にそんなことを言ってきた。小さく聞こえた なのだよは、真ちゃんだろう。部室を見渡すと、部員全員がクラッカーを持って此方を見ている。先程の破裂音はこれか。というか、なんだこの状況…!いまいち状況を把握出来ていない俺に、一番俺の近くにいた大坪サンが説明を始めた。
「今日は高尾の誕生日だと聞いてな。プレゼントっていっても何をやったらいいか分からんっていう奴が多かったから、こうして誕生日パーティーをやろうと」
「え、でも勝手に部活早く終わっちゃっていいんすか?」
「監督には許可貰った、後から合流するぞ」
「まじすか!?」
よく見ると小さな机なんかが出されていて、その上にはお菓子やジュースがこれでもかという程積まれていた。キムチまで置かれている。
「ありがとうございます、すっげー嬉しい」
「おいおい感動すんのはまだ早ぇぞ」
そう言うと宮地サンは、木村サンに何やら耳打ちをし始めた。頷いた木村サンが、大きめの箱を取り出してくる。蓋を開くと、そこには綺麗に飾り付けのされたケーキが入っていた。
「飾られている果物は俺んちで売ってる奴な」
「ケーキまで!いつの間にこんな」
「皆でこっそり集まって準備したんだぞ、感謝しろよ」
「バレないか心配だったわ、特に緑間」
「な、俺は中々上手く隠せていたと思うんですが」
いやどこがだよ、結構挙動不審だっただろ!なにかやってくれんのかなーなんて少し期待はしていたけれど、こんなに盛大にやってくれるとは思わなかった。少し目頭が熱くなる。皆に気付かれないようにそっと拭う。
あー俺いい仲間を持ったなぁ。


誕生日おめでとう
天才の相棒としてチームを支える高尾様に万歳!


end.

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高尾誕生日おめでとう!
秀徳のお話は一度書きたかったんで、書いてて楽しかったです〜。
高尾の友人であるモブ君が割とでばってますね。
一応フリーです。


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