緑高

『デートしませんか!』
そう恋人である真ちゃんに誘いを持ちかけたのは、一昨日の金曜日。
昨日は一日部活だったけど今日は奇跡的に1日オフで、この機会を逃してなるものかと早速お誘い。
『…急にどうした。』
それに対する返事がこれね、これ。
はいでもいいえでもなく、どうした、って。
まぁでも断られた訳じゃないし、と持ち前のトークスキルって奴を駆使して半ば強引に丸め込み、何とか今日のデートの約束を取り付けて今に至る。
「…っは、」
待ち合わせ場所である駅前に着き、現在の時刻を確認しようと時計を見上げた、と同時に思わず吹き出してしまう。
予定では11時に駅前となっていたのだけれど、時計の針が示すのは10時30分。
どんだけ楽しみにしてたんだよ、俺。
昨日は普通に部活で、だいぶ疲れは溜まっている筈なのに。
そう独りごちてみたけれど、俺がこんなに早く来ちゃったのも仕方ないことだと思う。
だって俺、真ちゃんとデートなんてするの今日が初めてだし。
今まで部活終わりに寄り道、とか、他校の試合を見に行く、とかはあったけど、こうして二人きりで何処かへ出かける、なんて恋人らしいことは初めてだ。
だから楽しみすぎて昨日は全然寝付けなかったし、今日着てくる服を何時間もかけて選ぶ、なんて女子みたいなこともした。
まぁ、こんなに楽しみにしてるのは俺の方だけなんだろうなぁ。
「高尾。」
一人で悶々としていると、後ろから声をかけられた。
勿論、それは俺の大好きな人の声で。
「真ちゃん!来るの早くね?」
「それはこっちの台詞なのだよ。」
確かにー、と笑いながら真ちゃんを見る。
当然真ちゃんは私服姿で、いつもはユニフォームか制服ばかりだったから、新鮮なその格好を思わずガン見してしまった。
「…なんなのだよ。」
俺の視線を訝しむようにそう呟く真ちゃんに、べっつにー、と返してやると何故か真ちゃんは横を向いてしまった。
「どしたの、真ちゃん。」
「……か?」
「へ、何、聞こえない。」
「…変か、と聞いているのだよ。」
そう言いながら此方を向いた真ちゃんの顔は少し赤くて、最初はなんのことか分からなかったけど徐々に理解出来た。
「ぜーんぜん!超似合ってる、真ちゃんかっこい、っいて!」
褒めたはずなのに何故か頭を叩かれた。理不尽だ。
「お前は、態とらしいのだよ。」
えー本当なのに、と笑ったら、もう一度叩かれた。なんなんだ。
それでも、本気で怒ってるってわけじゃなくてただの照れ隠しなんだろうなーって分かるからいいんだけど。
「…ね、真ちゃん。」
「なんだ。」
「俺、今日楽しみすぎてこんなに早く来ちゃったんだけどさ、もしかして真ちゃんも?」
「…さぁな。」
微妙な間と、微かに赤く染まった耳が、同じ気持ちなのは俺だけじゃなかったことを物語っていた。
「もー、真ちゃん大好き!」
「うるさい早く行くぞ。」
「…!」
歩き出した真ちゃんの左手が、さり気なく俺の右手を握る。
さっきまで真ちゃんの方が真っ赤だったのに、今は逆に俺の方が赤くなってしまって。
そんな俺の顔を見て真ちゃんが意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「どうした高尾、顔が赤いぞ。」
…たまにこんなことしてくるとか、卑怯だよなぁ。
「うっせ、誰の所為だと思ってんの。」
「さぁな。」


***


あれからスポーツショップで新しいバッシュを見たり、ゲーセンへ行ったり映画を見たりと比較的学生らしい健全なデートを楽しんだ。
まぁそんな楽しい時間は、過ぎるのが早いもので。
「そろそろ帰るか、高尾。」
「…そだね。」
もう辺りはすっかり薄暗くなっている。
送ってやるという真ちゃんの申し出に応じた俺は、人が疎らな住宅街を真ちゃんと二人で歩く。
デートももうすぐ終わりという寂しさが、俺の胸を締め付ける。
お互い無言のまま、それでも手だけは離さずに進む。
その速度はとてもゆっくりで、真ちゃんも帰りたくないのかな、なんて自分に都合のいいように解釈してしまった。
少しだけ右手に力を込めると、すぐに強く握り返される。
「…帰りたくないわー。」
小さい声でそう呟くと、もう一度手を強く握られた。
「学生の身分で外泊など、まだ早いのだよ。」
そんな真面目発言が、真ちゃんらしくて思わず吹き出してしまう。
俺が笑ったのが気に食わなかったのか、真ちゃんがむっとしながらじとっとした目で睨んできた。
「俺だって」
「ん?」
「帰りたくない気持ちは俺だって一緒なのだよ。」
今日の真ちゃんはおかしい。
いつもならこんなこと絶対に言わないのに。
手を握るのだって、いつもは俺からなのに。
「…真ちゃん今日どうしたの、いつもと違う。」
「今日くらいはいいんじゃないかと思ってな。それとも、こんな俺は嫌いか?」
そう言った真ちゃんに見つめられ、少しの間時が止まったような気がした。
「…嫌いなわけ、ないじゃん。」
絞り出すようにそう答えると、真ちゃんがふっと笑った。
初めて見るその表情は、夕日に映えてとても綺麗で、俺の顔が赤く染まっていくのが分かった。
「ねー真ちゃん。」
呼びかけると、真ちゃんがすぐにどうした?という顔をして此方を見てくる。
「今日さ、楽しかったね。」
「…そうだな。」
あー俺幸せだな。
このままずっとこうしていたい、そう思っちゃうくらい。


終わらない恋になれ
(真ちゃん大好き)
(…知ってるのだよ、そんなこと)


end.

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キリリク12000番せあさまへ、緑高で甘々休日デートです。
デート要素…あれ…

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