蜻残

時間軸は2章、蜻蛉が残夏のSSというパラレルです。

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「残夏。」
ラウンジで椅子に腰掛けぼんやりしていると、後ろから名前を呼ばれた。
振り向かなくても、それが誰かは分かる。
「蜻たん。どうしたの〜?」
返事をしながら振り向くと、やはりそこにはボクのSSでもある蜻たんが立っていた。
「何をしているのだ、こんなところで。」
いつもの蜻たんならば、我がM奴隷よ!くらい言うんだろうけど、何故か今日は大人しい。
心なしか、表情も険しかった。
でも敢えてそれには触れずにおく。
「何も〜。ぼーっとしてただけ☆」
いつも通りの笑顔で答えたのだけれど、彼の険しい表情は変わらなかった。
寧ろ、更に険しくなったような。
「見ていたんだろう。」
「何を?」
彼の言いたいことは大体予想はついている。
それでも、分かってないようなふりをした。
それは、遠回しな拒絶。
「卍里達を、だ。」
そう言うと、蜻たんは離れた位置にあるテーブルを見た。
そこでは、渡狸とカルタたんが楽しそうにお喋りをしている。
「いつも、貴様の視線の先は奴だけだな。」
その声が、余りにも弱々しくて。
彼らしくなくて。
それでも、ボクは何も言えない。
蜻たんはボクの返事を聞かず、更に言葉を紡ぐ。
「私を見てくれることは、ないのだな。」
それは間違っている。
蜻たんは、大きな勘違いをしているだけ。
ボクは、ずっと…前世からずっと、君だけを見ていた。
渡狸を見ているのは、そう、保護者の様な。
何をやらかすか分かんなくて、心配で見守ってるだけ。
勿論渡狸は好きだよ、でもそれは恋愛感情とかじゃない。
ボクが好きなのは、蜻たん、君だよ。
それを直接本人に言うことはないけれど。
「見てるよ、ちゃんと。」
本当に、見ていた。
前世の君が死ぬことも、視て知っていた。
「気休めはよせ。」
「そんなんじゃないんだけどなぁ。」
軽く肩を竦めると、蜻たんは何も言わずにラウンジから出ていった。


一度、蜻たんに聞いたことがあった。
何でボクのSSになったの、って。
彼は今までSSをしたことがなかったのに、急にボクのSSになるなんて言うから。
確かその時蜻たんは、ボクのSSになって思う存分ボクを調教するためだー、みたいなことを言っていたけど、それは嘘。
ボクを守りたい、って思ってるんでしょ、視えてるよ。
そんなこと考えてるなら、尚更好きだって言えないや。
だって、また百鬼夜行が起こって蜻たんが死ぬかもしれない。
起こらなかったとしても、ボクは病死するだろう。
そうなった時、どうするの?
きっと優しい蜻たんは、自分が死ぬってなった時も最後までボクを置いていく自分を責めるだろう。
ボクが死んだなら、きっと深く傷付くだろう。
そんな思い、させたくない。
…なんていうのは、只の綺麗事。
本当は、蜻たんが離れていくのが怖いから。
だから、言えない。
ボクは恋人が死ぬ辛さより、恋心を押さえ付ける辛さを選ぶ。
ごめんね、蜻たん。
大好きだけど、


言えないよ
(これはただの、ボクの我儘)


end.


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5000hit企画、水。さまからのリクエストです。
予想以上に暗くなってしまった…
リクエストありがとうございました!
お持ち帰りは水。さまのみでお願いします。

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