残連

ボクはまだ20代前半で、世間一般的には若者扱いされる人間なんだけれど、他人には想像もつかないような長い長い時間を過ごしてきた。それはボクが百目の先祖返りだから。先祖返りでも、生まれ変わったら前世の記憶がないなんてことはよくあることだけれど、ボクは今までのことを全て覚えている。何十年も、何百年も前のことは流石に忘れかけているけれど、それでも、何回も生まれ変わったボクが前世のことを忘れていたなんてことは一度としてなかった。
そんなに長い間生きていたら(1回1回の人生はとても短いものだけれど、それが何回もあるので長い間と言っていいだろう)、そりゃあ好きな人だって出来るわけで。まだ余り生まれ変わりっていうものを経験していない頃のボクは、真っ当な恋愛をしてきたけれど、何回か繰り返す内に気付いてしまう。
どれだけ好きな人が出来たって、ボクが死んでしまったらそこで終わりだし、もしも生まれ変わってまた相手に出会えたとしても、相手は既に年老いていたり大切な人が出来ているかもしれないってことに。
そのことや、先祖返りではない子と付き合うっていうのは案外大変だってことを知ってしまったボクは、何時からか恋愛というものをしなくなった。それはこの先ずっと変わらないと思っていたんだけれど。
「残夏ってさぁ」
ソファに寝転がりながら漫画雑誌を片手にのんびりとした声で話しかけてきたのは、一反木綿の先祖返りである、反ノ塚連勝…ボクの恋人だ。名前からも分かる通り、彼は歴とした男だ。別にボクも彼も根っからの同性愛者って訳じゃない。実際、お互い男と付き合うなんて初めてなのだ。
「なぁに、どうしたのレンレン」
「俺と付き合う前、恋人いた?」
読んでいる漫画から顔も上げずに、そう聞く声はいつもと変わらない。そんな踏み込んだ質問をされるのは恐らく初めてなのではないか。普段の彼はそんなことを気にする質ではない。少し訝しみつつ、此方もいつも通りの声で質問に答えた。
「いたよ、まぁ恋人って呼べるのかも微妙なんだけど」
自分から告白をした訳じゃない。ただ断るのが面倒だったから、そんな理由で付き合っていただけ。それなりに仲も良かったしセックスだってしたけれど、ボクが百目の先祖返りだってことを知られてしまい、そこから音信不通。そりゃ恋人が何でも視えちゃう百目だなんて気味悪いよね。こんな感じの流れは、何回か経験していたからもう今更何も思わないけれど。
「なにそれ」
「ん〜?まぁまぁ、昔のことなんだからいいじゃん☆」
そう言うとレンレンは納得したらしく あぁ、と小さく頷いた。
「でも、珍しいね」
「え、何が?」
「レンレンが、そんな質問するなんて」
何かあったのか尋ねると、普段は割とハッキリと答える彼が珍しくあー、だとか、うー、だとか曖昧な返事を返してきた。そんな反応をされると余計気になるもので、彼の寝転がっているソファへ近寄ると何々何でなの、としつこく問い詰める。漸く観念したらしいレンレンは、漫画雑誌を顔に被せると小さく溜息を吐いた。
「何か、残夏にも恋人いたのかなって考えたら、ちょっと嫌で」
それだけだよ、と続けた彼の顔は、隠していても分かる程赤く染まっている。そんな彼が愛しくて、寝転がっている上から覆い被さる様に抱き着いた。
「レンレーン!」
「ちょ、やめ、」
「やめなーい、レンレン大好き」
ぎゅうぎゅうと抱き着きながら返事を返すと、困ったように笑いながら 俺もだよ、と返ってくる。恋愛をしなくなって随分と経ったけれど、ここまで人を好きになったことなんてあっただろうか。毎日が楽しくて楽しくて、日に日に彼に対する気持ちは募っていくばかり。性別だとか、先祖返りだとか、そういったことは関係なしにボクは彼のことが大好きなのだろう。


淡い色の初恋
(きっとこれが最初で最後の恋)


end.

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10000hit企画、くろみつさんリクエストの残連です。
リクエストありがとうございました^^*
お持ち帰りはくろみつさんのみでお願いします。

title:自慰

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