残連

「残夏、」
俺の前を歩くその背中に向かって声を掛けると、残夏は此方を向かずにのんびりした声で なぁに、と返事をした。
「俺の部屋行こ。」
そう誘いを持ちかけてみると、バッとでも効果音が付きそうな勢いで此方を振り返る残夏。
その目は少し見開かれていて、そんなびっくりしたのかと少し笑えた。
「…珍しいね、レンレンから誘うなんて。」
いつも通りの笑顔で ふふ、と笑う残夏は、どうやら今日が何の日か全く気付いてないらしい。
まぁそっちの方が有難いからいいけども。

何も喋らない残夏と二人、エレベーターに乗り込み俺の部屋へ向かう。
ちらりと残夏の方を見るけれど、何を考えてるのかなんて俺にはさっぱりだ。
俺の部屋がある階へ着いたらしく、がこんと音を立てて扉が開く。
少し歩くとすぐに部屋の扉が見えた。
先にその前まで行き、どうぞー、と部屋の扉を開けてやると、ありがとうと言いながら残夏が中へ入ったので俺も後へ続く。
適当に座ってて、なんて言わなくても残夏は既に自分の定位置と化した場所へと腰を下ろしていた。
備え付けの冷蔵庫から、缶コーヒーを2本取り出す。
「はい、コーヒーでいい?」
「ありがとー。」
残夏にコーヒーを渡しつつ、隣へ座る。
プルタブを開け一口飲むと、口の中に苦味が広がる。
「ねぇ、何でボクを部屋に呼んだの?」
此方を見る残夏の目は、態ととかではなく本当に疑問に思っているようで。
いつもは何でもお見通しのくせに分からないんだ、と少し優越感。
「視てないの?」
当たり前の疑問を口にすると、残夏は少し口を尖らせた。
「視えないの!レンレンが隠してるから。」
「そっか。」
その様子が可愛くて思わず笑ってしまった。
「何笑ってんのさ。」
それが気に入らなかったらしく、残夏から軽く肩パンを喰らう。
「べっつにー。ねぇ、ほんとに分かんない?」
「分かんないよ。」
「今日は何月何日でしょうか。」
そう問いかけると、残夏はポケットから携帯を取り出し日付を確認し始める。
「…8月29日だけど。」
まだ分かってないのか、だから何、とでも言いたげな表情をされた。
「正解…ってわけで、お誕生日おめでと。」
そこで漸く理解したらしい残夏の顔が、何故か赤く染まる。
「え、何で知って、え、」
「何その反応…こっちまで照れるんですけど。」
大の男2人が揃って顔を赤くしている光景は、傍から見たら異様だろう。
残夏は、だってだって、と言いながら顔を両手で隠している。
「ねー、プレゼントあるんだけど欲しい?」
そう声をかけると、手の隙間からちらりと残夏が此方を見た。
「…欲しい。」
小さな声で、そう返事が返ってきたので、俺はプレゼントを用意するために机へと向かう。
その上に置かれた赤いリボンを取ると、ちょっと待ってね、と残夏に声をかけ準備に取り掛かる。
まぁ、準備と言ってもただ首にリボンを巻くだけなんだけれど。
たどたどしい手付きでリボンを首に一周させると、前で蝶々結びをする。
準備が終わり、残夏の方を向く。
「プレゼントは俺☆…みたいな。」
これやってから気付いたけどすげぇ恥ずかしい。
残夏は口開けてぽかーんとしたかと思うと、くすくすと笑い始めた。
「貰っていいの〜?」
「いいよ…まぁ、俺はとっくにお前のもんだけど。」
後半部分は本当に小さな声で言ったのに、残夏には聞こえてたみたいで。
「…レンレン今日可愛いね。」
「今日くらいはな。」
そう返すと、いつの間にか近付いてきていた残夏に優しく抱き締められた。
「ありがと、レンレン…こんなに幸せな誕生日初めて。」
「そりゃよかった。」
俺を抱き締める手が少し震えているのも、何度も何度も繰り返すありがとうの声が震えているのも、気付かないフリをしよう。


誕生日おめでとう
いつも自分のことを疎かにする君にとって、
今日という日が少しでもいいものになりますように。


end.

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よかった間に合った。
残夏誕生日おめでとう!!
フリーなのでお持ち帰りはご自由にどうぞ〜。
纏まりのない内容でごめんなさい。

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