残連

今日は蝉の鳴き声が煩い。
ただでさえ暑いのに、この鳴き声を聞くと余計に暑くなる気がする。
元々暑さには強くない。
蝉の鳴き声にプラスして、今日の最高気温は36度らしい。
渡狸は夏休みだし、外出しなければならないような用事がなくて本当によかった。
もう今日は何もせずに、ずっと部屋にいよう。


暫くして、ドアをノックする音が聞こえた。
誰だろう、余り動きたくないんだけどなぁ。
仕方なくドアへ向かおうと、立ち上がる。
するとぐらりと揺れる視界。
やばい、そう思った時には既に遅くて、呆気なく床へ倒れてしまう。
それと同時に襲ってくる激しい吐き気。
とても立ち上がれるような状態じゃなくて、かといって相手を待たせるのも悪いのでドアへ向かって声をかける。
「ごめーん、勝手に開けて入ってきて。」
声にも元気がなくて、相手に届いたか心配になったけれど、ちゃんと聞こえてたらしい。
静かにドアが開けられた。
「お邪魔しまーす…って残夏!?」
…本当ついてない。
暑さにやられて倒れたり、そんな情けない姿を恋人に見られたり。
「レンレン〜…大丈夫、ちょっと倒れちゃっただけ〜。」
「いやいや、どうみても大丈夫なんかじゃないだろ…ベッド行くぞ。」
返事をする間も無く、簡単に持ち上げられる体。
持ち上げるというより、これは…
「お姫様抱っこはちょっと恥ずかしいなぁ。」
「誰も見てないって。」
そういう問題じゃないけど、自力で歩けないだろうし文句は言えないか。
「レンレン男らしすぎでしょ…」
「…ん、なんか言ったか?」
「なんでもなーい。」


その後すぐにベッドにたどり着き、優しく寝かされた。
「何で倒れてたの。」
「んー、暑さにやられちゃった。」
「今体調は?何か飲むか?」
「ちょっと吐き気がするだけ〜。何もいらないよ。」
そう言ってるのにレンレンは備え付けの冷蔵庫を開けると、常備されているミネラルウォーターを渡してきた。
「それでもやっぱ飲んどけって。」
「…じゃあ飲ませて☆」
冗談半分で言ったのだけれど、レンレンは本当に飲ませてくれるつもりらしく、キャップを開け始めた。
ペットボトルを傾け、自らの口に水を含むと、すぐにボクの顎を掴んでくる。
口が塞がれ、少し温くなった水が入ってきた。
ボクがそれを飲み込むと、レンレンは小さく よし、と頷いた。
その頬が少し赤い。
「レンレンほっぺ赤い〜。」
「こんなことしたの初めてなの。」
「初めて奪っちゃったぁ。」
「わざとそんな言い方するなよ、絶対元気だろお前。」
呆れたようにそう言うレンレン。
酷いなぁ、まぁわざとなんだけど。
「えー、元気じゃないよぅ。あ、でもレンレンが膝枕してくれたら元気出るなぁ。」
「いや普通の枕で寝た方が元気出るよ。」
「膝枕がいい〜。」
そんなことを言ってみると、調子乗るなよとか言いつつレンレンがベッドへ座った。
「…今日だけ。」
「ほんとに?」
「嫌ならいいけど。」
あれやっぱ今日ついてるな。
倒れてよかった!
「じゃあ遠慮なく〜。」
レンレンの脚に頭を乗せると、意外にも筋肉質で少しどきどきした。
「固いね。」
「そりゃあ男ですから。柔らかいのがいいの?」
「レンレンのじゃなきゃやだなぁ。」
「変なの。」
ひどーい、と口を尖らせると、レンレンは優しくボクの頭を撫でてきた。
それが心地好くて、目を閉じる。
「…吐き気、しなくなったら言えよ。」
「うん、分かった。」


夏っていいものですね
(もう大丈夫なんだけど)
(暫く言わないでおこうかな)


end.


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5000hit企画、くろみつさまリクの残連です。
リクエストありがとうございました!
甘さってどうやったら出るんですか…もう。
お持ち帰りはくろみつさまのみでお願いします。

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