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「石目君が好きなんだ」

はにかんだように笑った顔を、俺は一生忘れない。




「クラスのさぁ、布良鈴留(めら すずる)って知ってる?」

登下校の時間、高校になってつるむようになった昴に声を掛ければ、あいつはぎょっとした顔でこっちを向いた。

「ん?知り合い?」
「いや…」

面識は無いけど、知っているって感じか。
それなら。
自分の暗い心を知られるように明るく笑う。

「あいつってさーいっつも暗い顔してるよねー」
「俺も思ったー」

同調してきたのは、昴とは別の友達。
こいつはいっつも強者に付き従う、小物臭が漂う奴。
でも嫌いじゃない、こういうときは特に。

「なんつーか、いっつも勉強してるしさぁ…オタク?がり勉?よくわかんねーけど。しっかもいつも俺らの方じっと見てさー…きもいっつの」
「昴もそう思うよねぇ?」

同意を求めるように話を振れば、顔を逸らしながら「ああ…」との返事。
俺の口元に笑みが浮かぶ。

「じゃあ、次はあいつにしよーよぉ」

今度は信じられないといった顔で、こちらを見てきた。
それでも俺は知らないふりで、話を続ける。

「あーゆー奴、マジでキモいんだよねぇ。ねぇ、いいでしょう?」

嘲笑は隠して、媚を売るように。
そうすればこのバカは、

「…ああ」

本当の、バカだ。




俺は見た目優等生。
この外見のせいか周りにも友人は多い。
昴は見た目不良。
その外見のせいか周りには悪友。
俺らは正反対だけど、妙に趣味が合ってすぐに友達になった。

それでも昴がやっているいじめ、には共感出来なかった。
つい、先日までは。

「布良が石目たちにトイレに呼び出されたってー」
「マジ?じゃああの噂本当だったのかよ」
「次は布良かぁ…」

通り過ぎる奴らの声に、俺はほくそ笑む。
石目は昴の苗字。
昴たちが暇さえあればサンドバックをみつけてリンチやら脅迫やらしていることは知っていた。
今回はその標的が、布良。
自分で差し向けた展開に、笑いが収まらない。

鈴留。
鈴留が悪いんだよ?
こんなに俺が思っているのに他の男なんか見るから。
でも俺は優しいから。
鈴留にもチャンスをあげるんだ。

「布良…?」

トイレにびしょ濡れで放置されていた鈴留を見つけて、わざとらしく驚いた声を出す。
鈴留は上半身裸で、全身に水を浴びていた。
横にあるホースで頭から水を掛けられたんだろう、可哀想に。

「委員、長…?」

男にしては可愛らしすぎる目がこちらを向いて、俺の胸に喜びが広がる。
けれどそれを表面には出さない。
だってさ、そんなことしたら台無しでしょ。

「お前…大丈夫か!?」

慌てた様に、鈴留に近寄る。
ずぶ濡れのその体を労わる様に抱き上げた。
その体が震えてることに気付いて、自分まで苦しくなる。

「布良…お前、」
「だ、大丈夫だよ!」

取り繕うように声を出す鈴留。

「大丈夫って…何言ってんだよ。誰にされた?石目、か?」

昴の名前を出せばびくんと震える鈴留の体。
可愛い、けど、面白くない。

「石目くんは、そうじゃない…僕が、」

それきり言葉を詰まらせる鈴留の体を抱きしめた。
可愛すぎて。
…嘘。
他の男の名前を口にする鈴留にハラワタが煮えくり返って、それでもそれがばれないように。
鈴留の体は男にしては華奢でいじらしくて。
つい反応しそうになる自分自身に苦笑を零しそうになった。




昴の鈴留に対する苛めは、それはもう悲惨なものだった。
校内での無視、リンチは当たり前。
酷い時は家まで押しかけて部屋の中を荒らしたらしい。
全く、不器用すぎる男に苦笑しか出てこない。

今では鈴留に喋り掛けるのは俺だけ。
まぁ、前からそんなに友達が多いほうではなかったから仕方ないのかもしれないけど、それでも、そんな俺の行動は昴には目障りだったらしい。
今日とうとう、昴に呼ばれた。

「どういうつもりだ」
「?話が見えないけど…何が?」

堂々としらばっくれる俺に、昴のこめかみに青筋が浮かぶ。

「布良のことだよ!てめぇが布良を標的にしようっつったんじゃねぇか!」
「…何のこと?」

あっけらかんと言う俺に、石目の拳が飛んでくる。
…しょうがないなぁ。
その拳を甘んじて受け入れる。
まぁ、実際にこいつのことは友達だと思っていたし。
このくらいしょうがないよね。
勿論半分は打算的な思考が働いてたわけだけど。

「ざけんなっ!なんでてめぇが参加しねぇんだよ!!」
「それは、今に始まったことじゃないでしょう?」

俺の言葉は半分嘘。
実際今まで苛められた奴らにも俺は声を掛けて親身に接していた。
そして最後の最後に、ネタ晴らしをするわけ。
実は俺、君で遊んでました。
実は俺、君を苛めていた石目君の友達でした。
あれ、君みたいなゴミに、俺が本気で友達してると思ったの?って。
苛めで荒んだ心に、俺が最後の彩を添える。そんな感じ。

多分今回も、俺がそんな行動をすると思っていたんだろう。
けれど、いつまでたっても鈴留を見捨てない俺にイラついたらしい。
自分ではなく俺とだけ楽しそうに喋ってる鈴留にこいつがどんな気持ちを抱いたかなんて。
今までの奴らよりも徹底的にボコられる鈴留を見ていればおのずと答えは出てきた。

「なんだよ昴う…俺に八つ当たり?大好きな鈴留ちゃんを傷付けるの、そんなにつらい?」
「樹…お前…!」

唖然とした顔。
昴にそんな顔は似合わないよ。
昴は威張り散らしてお山の大将気取っとけばいいんだから。

「俺が知らないと思った?ホントさぁ…昴はこんなに正反対なのに俺とすごく趣味合うよねぇ。好きな子まで一緒、ってのはびっくりしたけれど」

笑いながら続ける俺を見てどんどん青くなっていく昴の顔。
おかしくなって、笑いが止まらない。

「鈴留ねぇ、言ったんだ。俺が告白したとき。自分には好きな人が居る、だからつき合えないって。
俺が誰なの?って聞いたら…鈴留、なんて言ったと思う?」

『石目君が好きなんだ。だから委員長とはつき合えない』

あの時の鈴留のはにかんだような笑顔。俺は忘れない。
死んでも、忘れない。

「ばかだよね、昴も鈴留も。お互いさっさと告白しちゃえば、俺なんかに先を越されることは無かったのに」

俺の言葉に何を言うでもなく、昴は立ち尽くしていた。


…本当に馬鹿だ。
俺なんかを呼び出す暇があるなら、鈴留に会っていれば良かったのに。
自分の気持ちをちゃんと認めて、それに向き合えばよかったのに。
そうすれば鈴留が輪姦なんてされる事、なかった。
鈴留の状況を思い出して、やっぱり笑いは止まらない。

今日、昴の悪友を呼び出して計5人で鈴留をマワすことになった。
発案者は勿論、俺。
先に鈴留を縛り付けてもらって、目隠しをして、鈴留の処女を貰った。
初体験が俺以外、なんって許さないし。
一発ヤってからは、他の奴らで適当にマワすように言ってある。
あんなに殴られても蹴られても、それでも昴を嫌いになれない鈴留はこうでもしなきゃ駄目だから。
男なのに男に掘られて。
好きでもない奴らの精液浴びて。

…でも、俺は鈴留を見捨てない。

そろそろ奴等を適当に帰らせて、昴に殴られた頬を見せれば、鈴留は俺が身を挺して自分を助けたんだと思い込むはず。
汚くなってしまった鈴留の体を綺麗にしてあげて、もう一度好きと言ったなら、鈴留はどんな顔をしてくれるだろう。
もしかしたら消毒とか言って鈴留を抱くことすら出来るかもしれない。
目隠しのお陰で、俺がレイプした張本人とはばれていないはずだし。

それとも、今の状況から逃げ出すだろうか?
放任主義な鈴留の親も、荒らされた室内を見て鈴留の現状を知ったらしい。
別の学校への転入手続きをしていると、俺に話してくれた事を思い出す。

まぁいいんだけどね。
俺は鈴留を逃がさないんだから。
ついでに鈴留を汚した奴等も、逃がす気なんて無い。

暗い笑みを浮かべて、鈴留の家に向かう。


4人が病院送りにされて、昴が後悔に捕らわれて、鈴留と俺が転校することになりました。なんて。
嬉しすぎるハッピーエンドはすぐそこ。

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