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目覚ましの音で目が覚めて、すっきりとした朝を迎える。
正直今日の夢はいい夢過ぎて起きるのが勿体無かったんだけど、それでも夢のお陰で幸せな気分だった。

夢の内容はこう。
今人気出てきてるバンド、“ジンクス”のライブに俺はいた。なぜか俺は女、しかも数年前のまだジンクスが売れてない時のライブ。
押して押されてぎゃああてなりながらもライブを楽しみ、出待ちしてこっそり後付けてなぜか直接貢ぎたいとか言ってた。そしてライブの後なのにそのままデート。
…こーゆー都合のいい所は流石夢だなぁ…って感じ。出待ちとかシンとのやりとかはあんまよくわかんない感じで場面変わったし。
俺の近所の町を俺が案内して、数年後にはこの場所にジプシー(シンのお気に入りの服屋さん)の店舗が出来るんですぅとか言って、その後寿司屋で食事。
俺は貢ぎたいし、自分が金出そうとしたけどなぜかシンが金を出してる。よく分からん。
飯食いながらまた会いましょうねって約束したところで目が覚めた。
…謎過ぎる。

それでもその夢で幸せだなぁって思った理由が、実際に俺がジンクスのファンだからだったりする。
言っとくがホモじゃない。貢ぎたいとか思わない。

多分こんな夢を見たのは今日がジンクスのライブだからだろう。
地元で行われるそれに俺はバンギャの友達と参加する。
あー楽しみなんて思いながら準備を始めた。




「ふむふむそれは是非とも正夢にしないとー」
「いやいやいや」

ライブに一緒に行く約束をしてたヨウコさん。
彼女に夢の話をしたら何故かノリノリ。
それならと言ってユニセックスな衣装やら化粧道具とか取り出して俺の姿は瞬くうちに女の子。

「わ、ミズキ君って女形になれるよ」

嬉しそうに微笑むヨウコさん。
はい、何も言えませんね。

諦めてそのままの姿で会場に着た俺。
場所は真ん中より若干前の列。
曲に合わせ踊って、シンきゃああってなって、押して押されて青痣が何個か増えてるんだろうな…的なノリ。
恐ろしいぜライブ…しかし楽しい!

シンの方に声援送ったらシンがこっちを向いてくれてる(気がする)。
ヨウコさんのザ・女の子化粧が完璧だったお陰で女の子として認識されてるんだろうか。だったら嬉しい。
そんな感じでライブは終了しました。

「次はツアーだね」
「そっすね。金貯めないと」
「現実的―」
「俺の家ここの近くだから今回は交通費掛からなかったけど次回はなぁ…」
「次のツアーは全部行くの?」
「いや、大阪と東京だけー」

ライブが終わってキャイキャイ言いながら会場を後にする俺たち。
やっぱライブ楽しいなー。家に帰ってからも暫くはこの熱は冷めなさそうだなんて考えて、楽しい。

「じゃあねー。服は今度返してくれればいいしー」
「ありがとうございます。じゃあまた今度ー」

にこにこ幸せな気分でヨウコさんとお別れをしました。


「ねー」

そして今から帰ろうとしてたところに、後ろから掛かってくる声。

「?」

見れば、ちょっと派手めな服に身を包んだ男が一人。

「君、ライブにいた子だよね」
「え、あー…はい」

なんの用だろ。
ジンクスのファンか何かかな。
え、俺古株さんに目つけられた?
でも男の人だしなぁ…。

考えてる俺の目の前で彼はサングラスを取って、俺の目はこれでもかと言うくらいに見開かれる。

「みーつけたぁ」

なんで。
なんでシンがここにいるんだ。
ライブの後って、よく分からないけど打ち上げとかするんじゃないの?
それかすぐに直帰とか…。

そして何故俺に声を掛けてくる。

「ねぇ、約束覚えてる?」
「約束、って…」

よく分からない展開に俺の脳みそはスパーク寸前。
だれかちょっとこの状況を説明して欲しい。
戸惑う俺の言葉を聴いたシンは途端に表情を曇らせて俯いた。

「…また二人で遊ぼうって言ったのに」
「はぁ?」

いや、確かに夢では言った。
けれどそれは夢の話。
天然と噂のシンの言葉に俺の頭は付いていかない。

「…夢と違う」

ぞく、と俺の背筋に悪寒が走った。
それは彼も俺の夢を見ていたことに対する滅多にない偶然とかそれも少しは会ったのかもしれないけれど、大部分はシンの声。
低すぎる声と、それから俺を見つめる無表情な目にぞっとした。

「約束破ったら、ミズキちゃんのことぐちゃぐちゃにしちゃうかも」

シンの呟きに俺は何も言えず、ただじんわりと嫌な汗が出てくる。
一般人より整ったシンの顔を、直視すら出来ず。

「ねぇ、約束、守ってくれるよねぇ」

だから俺が夢の通り今からシンとのデートに行っても不思議じゃなくて。

男とばれたらどうなるんだろう、なんて。
麻痺していく脳みそでぼんやりと考えた。



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