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ねぇ、なんでこんなことしたの?
にっこりと笑う彼氏の浮気相手。
なんでって言われても。

「大体お前が人の彼氏とチチくりあってたからだろ」




俺と彼氏との仲は決して良好とはいえないものだった。
元々俺が告白して、向こうがたまたまフリーだったからOKしてくれた。それだけの関係。
彼氏の事が大好きで、それこそ一生一緒にいたいとか言える程に俺は彼氏を溺愛していたわけなのだけれども。
ほら、惚れた方が負けっていうじゃん?
彼氏はOKしてくれただけで俺の事なんてなんとも思っていなかったみたい。
付き合って数日と経たずに始まった浮気がそれを物語っている。

だから俺も考えたわけ。
新しい恋を探した方がいいんじゃないかって。
彼氏のことは超絶好きだけど、俺の気持ちが重いっていうのも分かっている。
セカンドベストなんて言葉があるように、あいつへの気持ちはこのまま胸に仕舞って、軽い関係を築ける相手を探すためにこのバーにやってきた。
男同士のパートナーを探すバーに。
それなのに、なんでこいつがいるわけ。

「僕のせい?僕のせいでこんな性病持ちが集まるような所に来たの?」
「おい…!」

慌ててやつの口を塞ぎ周りを見回す。
よかった。
こいつの暴言に気付いたやつはいないみたいだ。
ほっとしながら手を離した。

「つか、なんでここにいるんだよお前」
「僕?僕はあんたがここに入っていくのをたまたま見かけただけ。ここ、あんまりいい噂聞かないし、危なそうだから声掛けてあげたの」
「……」

なんだこの上から目線。
大学で女王様とか言われてる理由が分かった気がする。
まぁ、女王様ってのは何も言葉遣いだけじゃない。
男にしては大きな目に、長い睫毛、白い肌のこれでもかと言わんばかりの可愛らしい女顔。
ホントに男か?と疑いたくなるその美貌に、俺は負けたわけだ。
思い出されるのは数日前。
彼氏とキスするこいつの姿。

「あー…ありがと。じゃあ俺別の場所行くわ」

なんだか気力が削がれてしまった。
別の場所行こうと足を踏み出し、けれど、腕の拘束は解かれない。

「ちょっと…離せよ」
「嫌だ。このまま手を離したらあんた、別の場所で男誘うんだろ」
「……関係ないだろ」

図星を指され、思わず言葉に詰まったがなんとかそう言って視線を逸らす。
腕の拘束が強くなった気がした。

「んだよ。離せ」
「離さない」
「なんなんだよお前、」

乱暴に腕を振り解こうとするが…なんだこいつ。力強過ぎだろ。
顔が顔だけに簡単に振り解けると思っていたのに、想像を裏切られた。
どうしようも無いから睨み付ける事にする。

「っは…なんだよその目」
「腕、離せ」
「可愛くないよね、本当」
「っ…!」

その言葉に思わず頭に血が上った。
そりゃあ可愛くないだろうな。お前に比べたら。
だから彼氏も盗られた。
でも、それでも。
好きなのに。

やるせない感情がいっぱいになって、自分でもわけの分からないことを口走りそうになった時、「でも、」と口を挟まれて言葉が一旦止まった。

「でも、そんな所が、可愛い」
「…は、」

にっこり笑う浮気相手。
なに、こいつ、今…なんて?

「あいつへの告白の時真っ赤になってた所も、彼氏の事一途に思ってる時も、講義中に寝てた時も、僕とあいつがキスした時の傷付いた顔もすごく素敵だったけど…そんな睨んでる顔も、可愛い」
「なに…言って、」

話が見えない。
しかも、告白の時…って、あの時は誰も居なかった筈なのに。
得体の知れない気味悪さを感じて、けれど、掴まれた腕が後退さりすら許さない。

「でもさぁ、こんな所で誰彼構わず誘おうってのはまぁ…許せないよぉ?」

ぎり、と更に腕に力が込められて、思わず顔を顰める。
こいつ…本当に力が強い。

「っ…離せ!」
「しょうがないなぁ…そんなに相手に困ってるなら、僕が相手してあげる」
「はぁ…!?意味分かんねぇ事言ってんなよ!手ぇ離せ…!」
「あ、大丈夫だよ。僕バリタチだからちゃんと突っ込んであげるし」

ぞわっ、と鳥肌が立った。
冗談じゃない。

「あんた、ネコっぽいけど初物だよね?大丈夫だよ、僕優しくするし」
「気持ち悪いんだよ!どっか行け!」
「あんたの彼氏ともヤってないし…大丈夫だよ?穴兄弟とかじゃない」
「んな事言ってんじゃねぇよ!お前が嫌なんだよ!気持ち悪い!」
「……はぁ?」
「っく…!」

ぐいっと胸倉を掴まれ、息が詰まった。

「誰に向かって言ってるの?頭弱い所も可愛いけどさ、誰が嫌って?僕が君の知らない所で君のために何をしてるか知らないからそんなこと言うの?ムカつくんだけど」
「…っ、」

馬鹿力でギリギリと喉元を締める様に胸元を持ち上げられ、非難の声すら出ない。

「そんな所は、すっごく可愛くない。あんたはにやにや気持ち悪い顔で笑ってる時の方が可愛いんだから。僕が言ってるんだから、本当だよ?ねぇ、僕に可愛いっていわれて嬉しいでしょ?なんで何も言わないの?ねぇ、ねぇ、」

がくがくと揺さぶられて、軽く酸欠みたいになっている俺の顔を覗き込んで、そいつはまた、不愉快そうに眉を顰めた。

「しょうがないなぁ。早くホテル行こう?可愛いあんたの方が見たい。良いよね?たくさん善がらせて上げる。ほら、早く」

無理やり引っ張られて、けれど、振り解けない。
苦しい。

そう考えたのを最後に、俺の世界は暗転した。



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