腐った兎 | ナノ


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「委員長、上機嫌だね。どったのー?」
「テメェには関係ねーだろ」
「ひどーい」

なんて言いながらちゃっかりじっくり風紀委員長の彼を観察。
チキンなオレは、人の顔色伺うコトに長けてると思うんだよね。
よく言えば人間観察?

ま、それでも大体は想像着くかな。

「最近校内暴力の被害届けが減ったんですよ」

横に居た副委員長サンが教えてくれる。

「そうなのー?」
「はい。まあ、数が減っただけで内容は些か過激なものも多いんですけどね」
「過激って?」
「ええと、」
「おい、それ以上部外者に教えんな」

副委員長とオレの話に入ってくる委員長。
眉間の皺が二割増し。ちょー怖い。
チキンなオレじゃなくてもちびっちゃうよー。

「…委員長のけちんぼー」

ま、良いけどね。
どうせどっかの骨が折れたとか、根性焼きとか、全裸で放置とかだろ?
いくら陰険なオレでも目潰しとか拷問ちっくな趣味はないもんね。てへ。
傷が浅い人は、それはそれで被害届け出す訳にもいかないよねぇ。
悪いコトしようとしてたのは自分たちの方だったんだし?

「そう言えばお前、瓶底眼鏡にカツラみたいな髪型の生徒って見た事あるか?」

ふとオレに声を掛けて来た委員長。
ああどうしよう。
バレちゃったのかな怖いよう。
なんて内心ガクブルなオレ。
でも良い子ちゃんなご自慢の口は「え、見た事ないけど…何その特徴。逆に見たい。見ーせーてー」なんてペラペラと働いてくれる。
よし、あとでラブホから持ち帰った薔薇の香りの洗口液を使ってやろう。

「制裁に呼び出された生徒が助けて貰ったんですって。その彼に」
「へー、ヒーローみたいだねー」

そう言いながらもオレの思考は一昨日助けて上げた可愛い男の子の方へ。
どうせなら喋んないようにロストバージンでもさせとけば良かったかなー。
ん、でも可愛い子だったし処女じゃないかも。残念っ。

「…相楽、そいつを見つけたら風紀に連絡しろよ」
「ぶ、らじゃー!」

勢い良く敬礼して、当初の目的、書類提出を済ませたオレは早々に風紀の部屋を後にした。

そのままゆっくり、ポケットからイヤホンを取り出してお耳にスタンバイ。

『にしても相楽さんが知らないならやっぱり変装でしょうか…?』
『…何にしろ、そいつ自体が危険物だ。風紀の見回りを増やす事も視野に……』

今出て行ったばかりの部屋から聞こえる声におかしくなって笑みが零れた。
馬鹿だよねえ。
そんな事するより監視カメラでも仕掛けてればいいのに。
それでもま、そのカメラの位置とかも風紀委員室で作戦会議しちゃえば無意味。
上手のオレは既にそこに盗聴器と盗撮カメラを仕掛けてるのだうははははー。…なんて。


申し遅れましたオレの名前は相楽優兎(さがら ゆうと)。
馬鹿みたいな制度を作ったこの学園のせいで生徒会会計をやってます。
趣味は、んと寝ることヤる事食べる事…あと最近はちょっとサディスティックな趣味に目覚めちゃったりなんかして。
そんなこんなでちょっとびくびくしながら過ごしてんのね。

始まりはいつだったかな。
たまたま制裁の場面に出くわして、んでもまぁ、オレはチキンだからびくびくしながらこそこそ隠れてた訳。
そしたらリンチされてる子の泣き顔と、リンチしてる子の笑顔が目に止まって。
カルチャーショック。
羨ましい。
あ、オレは別にMじゃないよ。そうじゃなくて…
羨ましかったんだよね、虐げてるのに楽しそうなその子がさ。

だからオレはついふらーっとそっちに近付いたワケ。
で、気付いた時にはその場所の中。
あ、どうしようオレもボコボコにされちゃう!なんて考えてたけど幸いそうはならなくて。
首謀者っぽいチワワみたいな子たちはオレに気付いて慌てて弁解みたいなのしてたなぁ。
人が人を傷付けてるその場面に魅せられただけだから、興が冷めてオレはボコられてた子を保健室に連れてって上げました。ちゃんちゃん。

それでもなーんか、それが忘れられなくて。
オレもあんな事やってみたい。でもそんな事悪い事じゃない?第一報復されたらどうしよう怖い怖い!
なんて、兎のように臆病なオレは軽いジレンマを抱えたワケ。
でも、一度だけ。一度だけって考えた結果。

制裁してる人に制裁を仕返すなんて思い付いた。
変装+変声器で正体隠して。

仕返しなら別にいいよね。悪い事してるお仕置だし。
オレは生徒会なんて入ってるせいで有名人だけど、従姉妹に絶対バレない変装なんて相談したらカツラやら瓶底眼鏡やら送って来てくれたし。
声も声で自慢のフェロモンだだ漏れエロボイスでバレたら怖いから自費で変声器買ったし。
ネガティブ要素をなるべく排除して向かった第一回制裁現場。
…正直、舐めてました。
自分の性癖。

以前から、抱いた子にサディスティック!でもそこがたまらない!なんて言われてたオレ。
…臆病なオレがSなんてないよなんてその時は言ったけど、ごめんなさい訂正します。

オレはサディスティックな性癖を持つ変態野郎でした。

だって何アレ!
人を殴ったり蹴ったりしてる奴を不意打ちで後ろからはった押すのも、その後殴って蹴って、ついでに二本くらい指の骨折った時のあの征服感も!
震えながらごめんなさいとか喚いてるチワワちゃんたちを裸に剥いてトイレの個室にがんじがらめに縛って放置する時の人を見下す感じも!
そんな事をしておきながらこっそり逃した子の所へ行ってアフターケアしてあげる白々しさも!
もう何もかも!

…はい、嵌まっちゃいました。
お陰で噂が噂を読んで制裁の数は少なくなりました。
それでもオレは、悪い遊びを止められずに今でもたまにある制裁の現場に突撃アタックしちゃいます。てへぺろ。

PreV NexT
ToP


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