腐った兎 | ナノ


16


「相楽?電話は終わったのか?」

羊子ちゃんへのラブコールを終えてリビングに行くと、委員長が声を掛けてきた。
会長は…黙々とパソコンに向かっている。
オレの仕事も会長の仕事も粗方終わってるし、庶務の仕事は細々としたものが多いけど、問題は副会長、書記の仕事。
通常なら、オレと会長がいればなんとか回せる量だけど…残念ながら溜まりに溜まった書類はそんな生易しいもんじゃない。

歴代の会長と比べてもとっても優秀な会長が目の下に隈を作るくらいには、大変なんだ。

「うん、遅くなってごめんねー。あ、会長、こっちはオレがするよー」

ちゃっかり簡単そうな書類を見繕って会長の向かい側に座る。
委員長は何か言いたそうな顔でこちらを見てたけど、結局何も言わずに部屋の外へ出て行った。
…どうしたんだろ。
ま、いっか。

早々に考えることを放棄して書類に目を通し始める。

「…相楽」
「なぁにー?」
「その、体調はもういいのか?」
「うん、龍硫くんが看病してくれたからねー。もう、元気すぎるって」

にこにこには皮肉も織り交ぜて。
そういえば。

「龍硫くんと会長って従兄弟なんだよね?」

さっき委員長に龍硫くんの事を聞き出そうとしたけど会長が邪魔しちゃったから。
できなかったこと、つまり龍硫くんの情報収集をするために会長には変化球。

「ああ、俺の母親とあいつの父親が兄弟なんだ」
「へぇ…」
「昔はもっと可愛かったんだぜ?初等部の時は特に、男からの求婚がすごかったしな」
「へ、へぇ…」

まぁ確かに、龍硫くんって眼鏡で隠してるけど顔整ってるもんね。
普通の時には男前だけど、穏やかに笑ってる顔は可愛らしい雰囲気だし。

「確かに、ここに入学した時ってもっとチワワちゃんな感じがしてた気がするー」

オレの言葉に会長がククッと笑った。

「まぁ、俺にとっちゃ可愛い妹分だったんだがなぁ…ここ来て暫くした時に喧嘩教えてくれなんて言われた時にはビビったぜ」
「…え、龍硫くんが?!」

オレが龍硫くんと関わるようになったのは同室になってからだけど、でも龍硫くんと言えば風紀副委員長で、真面目で、家庭的で、たまにブラック。
喧嘩なんて龍硫くんのイメージとかけ離れてる。

「ああ。なんでも入学してから制裁に巻き込まれたことがあるらしくてな。よっぽどその制裁が心に残ってたのか知らんが、相手をぼこぼこにするほど強くなりたいといってきた時には…あれは唖然とした」

どこか遠い目をする会長。
うん、よっぽどショックだったみたい。

「まぁ、それでも風紀委員になるって言った時に比べたら…阿子島の風紀入り以来だな。あんな委員」
「…?委員長?」

オレの頭の中にははてなマークがいっぱい。
確かに風紀って生徒間の揉め事を対処するのが主な仕事だからか、体育会系のごつい人たちが多い気がするけど…それでもたまには龍硫くんみたいな大人しい子もいる。9:1くらいの割合で。
阿子島…風紀委員長だってちょっと線は細い気もするけどそこまで違和感はない。
オレの疑問符に気付いた会長が、ぎょっとしたような顔でオレを見てきた。

「お前…まさか、知らねぇのか?」
「?だから何を…」

周りの事に関心がないオレ。
そんなオレにとっても、その後会長が告げた言葉は衝撃的だった。

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