腐った兎 | ナノ


5


やっぱよーこちゃんはすごいなぁ。
なんて。

オレはしみじみと考えた。

噂の王道ボーイ。
天使様(ってか堕天使?)の予言通り、一ヵ月もしない内に美形を次々に落としちゃいました。
爽やか君に一匹狼にホスト教師に…恥ずかしながらオレ以外の生徒会役員皆。まぁ、会長は興味半分って感じだけどね。

オレはオレで、こそこそ王道くんに会わない様に隠れてる。
とは言っても仕事はちゃんと自室に持って帰ってるし、授業もなるべく出る様にしてるし。
オレの学校は成績とスポーツ、それからお金持ちかどうかでクラスをきっちり縦に分けてるから運悪く王道くんと同じクラスなんだけど。
幸い王道くんは役員やら取り巻きやらの所にばっかりいるし、親衛隊の子にも声を掛けて目立たない様にしてるから、今の所はこれといった接触も無く無事に過ごせていた。
チワワちゃんといちゃいちゃちゅっちゅは出来ないけど、別にいいよね。
人間誰しも自分が大事。

そんなことを考えてたせい?
今日とうとう未知との遭遇を果たしてしまいました。




「今月の資料はこれで最後かなぁ」

生徒会室でまとめながら時間を見る。
うん、後は持って帰ってまとめるだけ。
一週間もすれば終わるでしょ。

「みんなは…あれ?そう言えば最近仕事した所見てないなぁ…」

まぁいっか。
会長とかオレみたいに部屋に持って帰ってるのかも知れないし、もししてなかったとしてもオレには関係ない。

忘れた頃に来るのかも知れないし。
そう考えてればがちゃりとドアの開く音。
タイムリーだなんてそちらに目を向ける。

「あー優兎久し振りー」
「久し振りー」
「久し振りだねぇ、元気してた?」

部屋に入って来たのは書記の双子。

「おや、いたんですか?」

片眉を上げて人を馬鹿にしてる様な表情なのは副会長。後ろには庶務も見えて……

「ここが生徒会室か!」

大きな声で入って来たのは瓶底眼鏡にモジャモジャ頭の不審者もどき。

「…えーと、誰?」

口がひくつく。
普段の笑顔が崩れるオレを珍しく思ったのか、訝しげな顔をした副会長は「…編入して来た稲生光(いのう ひかる)、同じクラスでしょう」と説明してくれる。

…知ってるよ。だけどそんなの知りたくなかった。

「あれ?お前…同じクラスの奴だよな?眼鏡掛けてないから分かんなかったぞ!」

真面目なオレは授業中の眼鏡掛けてるからねぇ。
それでも、オレの事知ってたんだ。最悪。

「一般生徒はこの部屋に入っちゃ駄目なんじゃなかった?」

確かオレに以前会いに来た親衛隊の子をそう言って追い出してた皆。
腑に落ちなくて、顔を険しくしてそう言えば「光は僕たちの特別なんです。一般生徒じゃありませんよ」と、それはもう見惚れる様な笑顔を浮かべる副会長。
反吐が出る。

「俺は光、お前の名前は?」
「……」

空気を読めていない転入生。
黙ったままのオレに、副会長や双子、庶務は少しだけオレの不機嫌を感じ取ったらしい。なんとも言えない顔をしている。

「おい、お前無視するなよ!」
「相楽だよぉ」

うるさい彼に、どうせオレが教えなくても皆がチクるだろうと考えて教えてあげた。オレってやさしー。

「さがらって…苗字か?名前は?」
「光、もう良いでしょう。これ以上彼と喋っていると妊娠しますよ」
「そうだよー!優兎手が早いんだからー!」
「食べられちゃうよー!」

オレがあまり転入生と接したくないと察したのか早々にオレとの会話を止めさせようとする皆。
黙ったままの庶務は…ただオレをじっと見つめていた。

「なっ…食べられるって…」

言いながら顔を真っ赤にする転入生。
自意識過剰だよね。誰が食うかっつーの。

「オレ書類取りに来ただけだし、みなさんはごゆっくりー」

少しでもこの場に居たくなくて、オレは早々にこの場を立ち去ろうとした。けれど。

「ちょっ、待てよ!話終わってないぞ!」
「…ねぇ、何この手」

オレの腕を掴む転入生を、軽く睨み付けてしまう。

「俺は…その、体とか無理だけど、友達ならなれるぜ!」

何、この、寒気。
もう駄目、殴りたい。

オレは転入生と仲良くしたくない。
だって仲良くしたらオレがやってるイケナイ事がバレちゃう。
楽しい趣味を失いたくない。
皆に怒られたくない。怖いもの。

でも殴ったら、それはそれで皆に怒られる。
停学なんてなったら…あぁ、怖いよう。


がちゃり。


「どうしたお前ら勢揃いで」


ドアの開く音と共に、我等が生徒会長が入って来た。

「あっ、龍也!」
「光?なんでここにいるんだ?一般生徒は立ち入り禁止だろ」
「うっ、龍也に…会いに来たんだよ……」

顔を真っ赤にして俯く転入生に、「やっぱお前は面白い奴だな」とかのたまう会長。
出来の悪い昼ドラ見てるっぽい。
阿呆らし。帰ろ。

それでもオレの腕を握ったままの転入生はオレの動きに気付いて「あっ、逃げるなよ!」と言って来る。

「無理。オレはねぇ、君とこれ以上話したくないの」

にっこりと笑って見せれば「相楽…?」と、会長も皆みたいに戸惑った顔。

「そんな事言うなよ!体の関係とか…寂しいからそんなことやってるんだろ!俺はお前と友達に…」

あ、限界。

「あのねぇ、転入生くん?オレは人の心にずかずか土足で入って来る様な奴が大っ嫌いなの。
オレの事知りもしないくせに勝手な事言わないでくれる?」

無理矢理転入生の腕を振り払って生徒会室を出て行った。

…怖かったよう。ガクブル。

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