変化とはなにか
「やだやだやだ! もう冬本さんと喋んないでよ!」
随分とワガママな言い分である。榛名くんは当然、なんでだよ!と怒鳴った。
話を聞いてみれば、榛名くんは彼女さんのしたことに全部気付いてて、全部彼女に指摘していたらしい。
なんで、そんなことする必要あるんだよ。とか、いい加減にしねーと、別れるからな、とか。
言っても、今まで別れなかった彼は、確かに冬本の言う通りの凄いヤツなのかもしれない。
普通の正義の味方なら、さっさと別れるだろう。
まあ、そんなわけで、だからこそ彼女さんは、本当に素直に、たった今冬本と会話していた榛名に、もう話すのやめてって普通に言って、もちろん拒否られて、今に至る。
「あのなあ! オレはオマエんことちゃんと好きだから安心しろっつってんだろ! 確かに最初は、告られたからオッケーしただけだったけど、今は」
「でも! なんで冬本さんとそんな仲良くすんの! 意味分からない!」
「オマエのが意味わかんねーよ! 何がそんないやなんだっつの!」
「何がって全部だよ! ぜーんーぶー! なんで? だって元希くんの彼女は私じゃない! 冬本さんじゃないもん、なのにいつもいつもいつもいつも、もうやだ、絶対いや」
そういえば、そもそも榛名くんは、彼女が出来たら女友達との交流を控えるタイプなのだと冬本が言っていた。
それでも冬本に構うのは、結論から言ってしまえば、冬本が秋丸くんを好きだからなのだろう。
そう考えると、榛名くんがお節介なのが悪いだけな気がするので。
やはり、冬本は間違いなく悪くない。
「だあ! うっぜーな! そんな言うんだったら別れっからな!」
その言葉に、彼女さんが怯む。榛名くんは酷い人だ。彼女、それがきっと、一番嫌なのに。
「うん、じゃあわかった。別れよ」
テンションを落として、彼女さんが冷静にそう言った。
私は、うおお、やるな。と、思った。あの子、やっぱりただのバカじゃない。
彼女さんは違うクラスの子なので、自分の教室に戻る為か、とにかく、ここにいる意味がなくなったのは確かなので、榛名のいるこの空間から出て行く。
急な事に、榛名くんの頭はまだ対応出来ていないようだった。
「は?」
ようやく搾り出したのであろう、その間抜けな声に、冬本がため息を吐く。
「榛名。君は今すぐ彼女を追いかけた方がいい。君も分かっている通り、彼女はとても性格が悪いから、平気で回りに当り散らして、周りを傷付けるよ。彼女は確か、秋丸くんと同じクラスだったね。秋丸くんまで八つ当たりされたらどうする?」
「秋丸はそんなんでどうにもなんねーだろ」
「わかっていないな。彼は納得するしか対処のしようが無い正論を吐くだろう。傷付くのは榛名の彼女……いや、今現在では元カノか。とにかく、あの子だよ」
冬本の中での秋丸くんは相当アレなヤツだ。なんて言うか、見た目あんなんなのに頑固?
クラスのヤツらは、言い争いをしていたときこそ、榛名くん達に注目していたが、今はもう、すっかり自分達のことでいっぱいいっぱいになっている。
まあ、ただ、クラスメイトとの会話を楽しみ始めただけだが。
「オマエはよく、そんなこと言う癖に秋丸ンこと好きでいられンな」
「好きだと思ってしまったら相手の性格がどんなに悪くても好きでいるしかなくなるものだと、榛名は前から知っているだろう。それに、現在進行形で実感しているハズだ」
チラリとこちらを見た冬本と目が合った。
何かの合図のようだったし、私が二人を見ていることの確認のようでもあり、私は結局、見ていてほしいのだろう冬本の気持ちに逆らわず、それを遠巻きに眺め続けることにした。
「榛名、私は君に好きだと言ってもらえたときに、やっぱり、こんな私を好きなんてどうかしていると言ったハズだ」
まて、隠れたストーリーが意外過ぎるだろ。というか、榛名、オマエ女の趣味が間違いなくおかしい。
ていうか、彼の選ぶ子に間違いはないって、軽くナルシスト入ってたのか。冬本も大概である。
「でも、榛名は、それでも好きだって言ってくれたね。だから助けたいって。私はそれが本当に嬉しかった。だから、少しは友達としてでも君に釣り合う人間になりたくなったんだ。榛名
にあんなこと言われなきゃ、私は長瀬さんに謝ったりしなかったし、普通にいじめが落ち着いた後、奴らに報復していたよ」
「なんで急に、そんな話」
「君が言えば、追い掛けてあげれば、彼女だって変わるさ」
行ってこい、親友。と、肩を叩いた冬本はやはり去年の彼女と見違えるほど生き生きとしていている。
成功例がわかりやすく目の前にいるのだし、彼は間違いなく、彼女を追い掛けた方がいいだろう。
私のそんな気持ちとは関係無いだろうが、榛名くんは直後、すぐに教室を出て行った。
彼を見送って、直ぐにこちらに来てくれた冬本に、私は、とりあえず直ぐに不満を漏らしてやることにする。
「なんだい、その不服そうな顔は」
不満をこちらが漏らす前に、そういう事を言うな馬鹿。そうやって変に頭がいいから、イジメなんて非生産的なことを生産的にやっちゃうんだあんたは。
「何を生産できていたのかな、私は」
あんたの悦楽でしょうが。というか何? 榛名くんはあんたなんか好きだったの?
「ああ、長瀬さんが転校して、一ヶ月経ったくらいかな。つまり去年の十二月頃だね。榛名くんは私に告白をしてくれた」
あっそう。それで、長瀬に謝ったの? というか、彼と付き合うって選択肢はなかったの?
「悪いけど、ああいうタイプは趣味じゃないんだ。深い理由すらない。それだけの理由で、私は彼を振った。というか、金原がわかっているかはわからないが、彼は、今付き合っている彼女と適当に付き合ったわけでは無いと思うよ。なぜなら」
あんたの話きいてりゃわかる。榛名くんは好きになれなさそうな、なれる要素がない子とは付き合わない。そんな事がいいたいんでしょ。
「察しがいいね、流石は金原だ。上出来だよ。パーフェクトだ」
褒め過ぎでうざい。
「榛名に紹介したら君のそういうつれないとこも変えてくれるかな。まあ、それは金原が嫌がるだろうから辞めておくけれど」
そんな話をしていると、榛名くんが漸く教室に戻ってきた。
野次馬しに行った男子が、榛名くんがやらかしたことを皆に報告してまわっている。
「榛名は本当に考えなしだな。そうは思わないかい?」
思う。考えなし過ぎる。
「教室でキスするなんて。後で盛大にからかってやらないと。秋丸くんとの会話のネタも出来たし、嬉しい限りだ」
そんな他愛の無いことで、心の底から嬉しそうにしている冬本が少し羨ましい気もした。恋に触れたら皆こんな風になるのだろうか。
「ねえ、冬本」
「ん?どうしたんだい?珍しいね」
「何がよ」
「いや、なんでもないが。どうしたんだい?」
「秋丸くんとやらと上手くやれるよう、手伝ってあげよっか」
もしそうなら、少しくらい傍観者を卒業してもいいかもしれない。
「金原が恋の手伝いか。うん、いい傾向だね、恋愛は、ノンフィクションな小説なんかじゃないことをようやくわかってきたみたいじゃないか。恋愛は、フィクションじみた現実だ」
「あんたの喋り方はフィクションっぽいけどね」
じゃあまあ、とりあえず、仰げば尊しでも歌いますか。
2011/11/15
後書き
やまなし、おちなし、いみなし、な話ですみません!やおいってこれの略なハズなのに、やおい要素無しでこれなんて。私がやおいに手を出したらどうなるんですかね。だしてますけど。
主役になれない子、というか、主役になりたくない子、はたまた、主役になれないことを知りたくない子、の話なのかもしれません。
ところで、私の書く話って、榛名が軽く主人公補正で凄くチートなキャラになってる気がする。猫ときとか、探偵ごっことか、結局彼が凄く優しいから夢主もオリキャラも救われてたりしますもんね。凄い。流石は榛名。私の贔屓が激しい。
あと、榛名の彼女の名前は出すか出さないか、変換つけるか、固定かでかなり悩みました。
オリキャラ増やすのもアレだけど、名前変換つけるのも、徹底的に嫌な子ではないし、かといっていい子でもないし、とか。
だから結局、つけない感じで収まったわけですが。
全五話の短い話ですが楽しんで、って、楽しむ要素がない気もするので、適当に、榛名すげー。贔屓されまくりじゃーんとか思って読んで頂けましたら幸いです。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。