謝罪とはなにか
何度も言うが、私は榛名くんがどういう人なのかは知らない。
ただ、彼が何をしたのかは知っている。
高一の時、私と冬本と、イジメられっこの長瀬は、同じクラスだった。そして、榛名くんは違うクラスだった。
冬本は体育委員で、クラスの中でかなりの権力を保持していて、クラス委員に、"選ばれてしまった"長瀬は、そんな彼女に目をつけられてしまったのだ。
ドン臭くて、人が良くて、長瀬はそんな子だった。
大好きだったから、助けてあげたかった。
でも、私はとても無力で、長瀬の味方をして、一緒にイジメられてあげることしか出来なかった。根本なところは何も解決する事ができなかったのである。
そして、イジメというのは、精神力の弱い子の方が悪化し、エスカレートする。
冬本は早々に飽きて、イジメをやめたが、周りは飽きることなく彼女をイジメ続けた。
というか、冬本は、傍観の方が楽しいことを察して、それに徹したわけだ。それが後で仇となるのだが。
そして、長瀬が耐え切れず、学校をやめた後、クラスの子達はそれに気が付いたのだ。
自分自身達も、冬本にいいように遊ばれていたのだと。
気が付けば、イジメられっこは、長瀬でも私でもなく、冬本になっていた。
冬本は、まあ、それを気にしてなかった。というか、周りを寧ろ見下していた。そう見せかけることに、半ば成功していた。
イジメを行使しはじめたのが自分自身だったからこそ、時が過ぎれば、終わることだと知っていたのだ。だから、何もしなかった。まあ、もしかしたら水面下で何かことを進めていたのかもしれないが、私は知る由も無い。
そして、何故かそんな時、榛名くんがしゃしゃってきた。
長瀬の事は助けてくれなかったのに、榛名くんは、冬本のことは助けた。
ただ単純に、長瀬は知り合いじゃなくて、冬本は知り合いだっただけなのだろうが、私としては少しどころじゃなくムカついた。
兎にも角にも、榛名くんはあの日、私達の教室にきて、高らかに宣言したのだ。
コイツは、ちゃんと謝った。だから、謝りもしねーお前らよりずっといいヤツだ。今度から、コイツになんかしたヤツはオレが許さねー。と。
それを聞いて、私はすぐに、長瀬に電話をして、確認した。
そしたら、長瀬は、多分電話先で頷いて、その事実を肯定するように、その時の話をしてくれた。
冬本が、土下座で謝った。ただそれだけの内容を何故か申し訳なさそうに、長瀬は詳しく詳しく話してくれた。
その場に榛名くんはいなかったらしいが、彼が何かをしたということには、間違いなかった。
そして私は、その後、冬本と、友達になった。イジメられてるなら、友達になってあげて。と、長瀬に言われたから、というのもあるが、榛名くんが彼女に何をしたのかが気になったというのもあった。今はそんなこと関係なく仲良くやっているわけだが。
且つての敵が今は味方って、少年漫画かよ。
まあ、何はともあれ、そんな感じに、榛名くんは遠巻きに私を踏みにじってくれたのだ。関係のほとんどない私が傷付くというのはおかしな話だが、彼のその行為はとても痛かった。
冬本は未だに榛名くんと何があったかを話してくれないけれど、私は今でもそれを凄く気にしている。
だが翌日、私は、それを思わぬ形で聞かされる事になる。
例の彼女さんが、榛名くんにキレたのだ。
それを私は見ていた。冬本は巻き込まれていて、そこで冬本は率直に、自分が榛名と仲が良いわけを話してくれた。
きっと、私の為に。
2011/09/29