優しさとは何か


冬本が階段から落ちた。多分例の彼女に突き落とされたのだと思う。

それは今朝のこと、冬本が一人登校していたときのこと。

歩道橋を一人で何気なく渡っていると、階段のところで後ろから軽く背を押されたらしい。

冬本はそんな話を、いつもの空き教室で報告してくれた。

冬本は運動神経がいいし、一番上で押されたわけではなかったようで、大事には至らなかったけれど、打ちどころがわるければ、大怪我どころか、死と直面していた可能性もある。

ちなみに朝、榛名くんに、階段から落ちて足を捻ったことを話したら、なにやってんだよ。と、心配されて、何故か怒られたらしい。

秋丸のことばかり考えて、ふらふらしてるからだ、とか。

「私は別に、そんなにいつもいつも彼のことを考えているわけではないんだけれどね。いや、まあ、確かに落ちてしまったあの時は、ちょうど彼の事を考えていたから、榛名は間違ってはいないが」

落ちてしまった、じゃなく。落とされた。でしょうが。

「いや、普段の私なら、落ちることはなかったさ。私は確かに、榛名のいう通り、秋丸くんのことを考えていたから、あの程度で私は落ちてしまったんだ。彼女が悪くないとは言わないが、私が悪くなかったわけではないね」

もしや、あの性格の悪い榛名くんの彼女は、冬本のイジメていた、あの子の友達とかで、だから冬本はやられっぱなしなのだろうか。

その推測を口にすれば、まさか、そんなわけがないだろう。と、冬本に笑われた。

空き教室の、冷たくて気持ちのいい床。私達が今座っているこの床、あの子は、これと同じ床に、何度キスをしただろう。

肉体的なイジメには、冬本は加担してなかったけれど、元凶は確かに冬本なので、彼女に非がないわけではない。あの時の冬本は、確かに悪かっただろう。

でも、今回はそういう意味の落ち度は全く無いのだ。

それなのに、それなのに。

「あの子の友達は、申し訳ないけれど、間違いなく金原以外はいなかったよ。それは私が保証しょう」

嫌な保証だね。嫌っていうか、最低。

「金原が、そうやってはっきり言ってくれるヤツで良かったよ。私は君のそういうところが、榛名と同じくらい好きだ」

秋丸くんには、敵わないんだね。

「長いものに巻かれそうなのに、全くそうじゃない彼はね、榛名や君みたいに、凄く強いわけでもないのに、とても特殊で、素敵なんだ。だからこそ、仲良くなるのにも骨が折れ過ぎて、へこたれそうになっていたりもするが。どうだい?金原も恋愛なんかしてみたら」

遠慮するわ。凄く疲れそうだから。それに私は、見てるだけで忙しいし、楽しいからね。

「あの子を私がいじめてるのは、傍観しなかったのにね。金原の正義はイマイチわかりにくいな」

簡単だよ。嫌がってたら止めるだけだもの。あんた嫌がって無いでしょ。

なるほど、わかりやすい。と、納得するように、笑う冬本。昔の冬本には、どちらかといえば、嗤う、という表現が似合っていたから、まごうことなき笑顔が増えるというのはいいことだ。



さて、そろそろあの頃の話をしてもいい頃かな。

冬本から言わせてみれば、榛名くんが、どれだけ凄い人なのかを

そして、私から言わせてみれば、榛名くんが、どれだけ無差別に優しくて残酷なのかを



2011/09/03
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