友情とはなにか


冬本と榛名くんは、まあ、確かにただの友達には見えないくらい仲が良い。

しかしそれはあくまでも、冬本が彼に恩を感じていて、その上で榛名くんは冬本が秋丸くんを好きだと知っているから、手伝ってやる気満々という、相互関係があるからで、二人の間には、友情以外成立しないと言ってもいい。榛名くんは他に好きな子がいたら告白されたからと言って別に彼女を作るタイプではないらしいし。全部冬本から聞いた話だけれど。

しかし、それでも例の彼女さんは、冬本の存在が気に入らないらしい。

そんなわけで、一週間後の昼休み、二度目の呼び出しで、冬本は彼女にひっぱたかれた。

ここ一週間で色々な……例えば、気持ちの悪い手紙が下駄箱に入っていたいたということから始まり、最近では虫の死骸が上履きに詰まっていたりとか、とにかく、そんな陰湿な嫌がらせを受けた上での出来事である。

「しかしあの子は凄いね、私を平気でひっぱたいた」

あんたが去年起こした事件を知らないんだろうね。

「まあ、最後には、クラスでの私の威厳なんてなくなっていたからね。私を恐れないのは仕方がないだろうし、私はただちょっと腕っ節が強かっただけの、元いじめっ子にすぎない。それでも、まあ、自分より強い相手に噛みつけるのは、それ程榛名が大切だってことなんだろうね」

そう、冬本が、自分の気に入らないヤツをイジメはじめて、周りがそれに賛同したのは、彼女が圧倒的に強かったからなのである。

だからこその圧政だったし。冬本は決して、いい人じゃなかった。嫌なヤツをイジメてたわけじゃない。というか、気に入らないヤツとすら思っていなかったかもしれない。彼女からしたらどうでもいい部類に入るような、そんな人をイジメていた。

とてもいい子をイジメていたのだ。彼女は普通の子だった。普通に、イジメやすそうな、そんな子。

にこにこ笑いながら、冬本はその子をイジメてた。私はその子とも友達だったから、冬本が嫌いだった。今も許してるわけではないけど、冬本は、榛名くんのお陰で、転校したあの子に土下座して謝ったのだ。

思い出せば出すほど、榛名くんってすげーな、とは思う。いい人だとは思わないけれど。

「しかし、この頬をなんて言い訳したものかな」

普通にあの子にはたかれたって榛名くんに言えば?榛名くんだって、あんたのいうことなら信じてくれるでしょ。

保健室で貰ってきたのだという湿布を、空き教室で貼ってやりながら、そう提案してやるが、冬本は、いいや。と、その提案を拒絶した。

「あの子は馬鹿じゃないよ。言い訳を用意してあるか、もしくは、言い訳を用意せず、榛名にこれがバレる覚悟を持って私をはたいたかのどちらかだと思うね。そして、どちらかといえば、後者の可能性が高いとも思っている。それはそれで、わざとバラしてあげても良いが、私はあくまでも、ドSのいじめっ子だからね。うまくやれたらいいと思うが、簡単にはいかせないよ」

あくまでも説明役に徹しようとする冬本だが、ちらりとドアの外に目をやると、顔を赤く染めて、すぐに目を背けた。

彼女も充分、可愛らしいヒロインなのである。

「榛名はね、凄く彼女を大切にしてるよ、そして彼女も、彼女なりに榛名を大切にしようとしている。それは素敵なことだ。だから、もう少しそれを見ていたくもあるんだ」

だからはたかれても我慢?なんかおかしくない?

「私も性格が悪いから、独占欲したくなる気持ちはわからなくもないんだよ。簡単にいってしまえば、そんな話さ」

ふうん。とだけ答えて、私は、秋丸くんと共にこの教室の前を通り過ぎて行った榛名くんをパタパタと追いかける例の彼女を眺める。

動きだけなら可愛いし、恋する乙女としては可愛いのかも知れない。性格悪いけど。

でもまあ、冬本の言うとうり、性格の悪さなら、冬本も私も負けないわけだし、そこは問題にする方が間違ってるのかもしれない。

「まあ、金原は巻き込まれないようにただ傍観してくれていればいいよ。それだけで私は安心する」

あいあいさー。

まあ、それでも、性格悪くても、私は冬本のが好きだよとは、ガラでは無いから言えないのであった。



2011/08/23
「#年下攻め」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -