5
彼女の墓石の前には、この暗い中先客がいた。
多分、部活が終わった後に来たせいで時間が遅くなったのだろう。
この人の学校は、確か西浦よりこの場所から遠い筈だから、こんな時間になるのにも頷ける。
「タカヤ?」
オレの存在に気づいたその人が言葉を発した。
西中姉は、無表情に、その人の事を見つめる。
オレの推測でしかなかったが、やはり、彼女が失恋した相手というのは、この人、榛名元希なのだろうと思った。
「なんでタカヤがここにいんだよ」
「それはこっちのセリフですよ」
あんた、こいつのことフったくせに、なに呑気に墓参りになんかきてるんだよ。
罪滅ぼしか?西中は確かにウザいけど、妹の為に死んだ後も頑張る良いヤツだ。
なのに、なんで。
そんなことが頭を過る。
「いや、オレの方は、ここに入ってるヤツがクラスメイトだったっつーか」
「しかも、ただのクラスメイトじゃなかった筈ですよね。アンタにコイツはフられた筈だ」
「は?なんでそれ知って……、いや、ちげーよ。それは勘違いっつーか」
コイツ。という表現に、オレはしまった。と思うが、榛名はそんなこと気にもとめず、よくわからない返事をした。
「はあ、じゃあなんですか。勘違いで西中が死んだっつーんですか。人が一人死んでるのに、勘違いの一言で――――」
「タカヤくんストップ! なんか勘違いしてる! 私彼にフられてない!」
「はあ!?」
榛名がいるまえで、つい声をだして彼女の言葉に反応してしまった。
いきなりの大声に驚きを隠せないでいる榛名に、オレは落ち着いて、気にしないで下さい。と告げると、いつも通り脳内での対話をはじめる。
なんですかそれ、どういうことですか。でもあんた元希さんが好きだったんでしょう?
「私ね、榛名くんに告白してないの」
つまり、それは榛名に他に好きなヤツがいた、とか、そういう話なのだろうか。
そう疑問に思っても、彼女は何も答えない。
先程から榛名の頭ん中を読むことに真剣なようだった。
「タカヤ、お前あいつの知り合いなわけ?」
「ええ、まあ」
「そーか、とにかく、オレはあいつん事フってねーからな。いろんなすれ違いのせいで、うまくいかなかっただけっつーか」
榛名のその言い方で、なんとなく、気持ちが察せてしまう。たぶん、西中は、そのことを読むのに一生懸命なのだろう。
だから、イマは、オレの心までは読めない。
「好きだったんすか、あいつのこと」
「まあ、な。なんだよタカヤエスパーかっつの」
心を読まれたようにでも感じたのだろうか。
事実、現在進行形で、読まれているので、そう感じても仕方が無いかもしれないが。
「墓に告白してたんですか。でも意味ありませんよ。あいつ、まだそこにいないから」
「は?」
「いや、なんでも。邪魔するのもあれなんで、オレ、もう帰ります」
西中が咄嗟にオレを見る。
オレは、頭の中で、じゃあな。とだけ言って、一人、墓地を後にした。
最期、成仏する前くらい、あの人の隣にいたいだろう。
いろいろあり、いつもよりかなり疲れたので、うちに帰って、オレは風呂に入り、すぐベッドに潜り込んだ。
あいつからの別れの挨拶は聞きそびれたが、そもそも、そういうのが必要な仲だったわけでもあるまいと、布団の中で思う。
ただ、脳内のプライバシーが保たれている今だからこそ思うが、オレはそれなりにあいつが嫌いではなかったかもしれない。
そうでもなければ、どんなに拝み倒されても、頼み事など聞かなかったようにも思うのだ。
「元希さん、ウザイな」
それだけ呟いて、オレは意識を手離す。
そういえば、まだ明日まで仕事は残っているのだ。
2012/12/24