彼女の墓石の前には、この暗い中先客がいた。

多分、部活が終わった後に来たせいで時間が遅くなったのだろう。

この人の学校は、確か西浦よりこの場所から遠い筈だから、こんな時間になるのにも頷ける。

「タカヤ?」

オレの存在に気づいたその人が言葉を発した。

西中姉は、無表情に、その人の事を見つめる。

オレの推測でしかなかったが、やはり、彼女が失恋した相手というのは、この人、榛名元希なのだろうと思った。

「なんでタカヤがここにいんだよ」

「それはこっちのセリフですよ」

あんた、こいつのことフったくせに、なに呑気に墓参りになんかきてるんだよ。

罪滅ぼしか?西中は確かにウザいけど、妹の為に死んだ後も頑張る良いヤツだ。

なのに、なんで。

そんなことが頭を過る。

「いや、オレの方は、ここに入ってるヤツがクラスメイトだったっつーか」

「しかも、ただのクラスメイトじゃなかった筈ですよね。アンタにコイツはフられた筈だ」

「は?なんでそれ知って……、いや、ちげーよ。それは勘違いっつーか」

コイツ。という表現に、オレはしまった。と思うが、榛名はそんなこと気にもとめず、よくわからない返事をした。

「はあ、じゃあなんですか。勘違いで西中が死んだっつーんですか。人が一人死んでるのに、勘違いの一言で――――」

「タカヤくんストップ! なんか勘違いしてる! 私彼にフられてない!」

「はあ!?」

榛名がいるまえで、つい声をだして彼女の言葉に反応してしまった。

いきなりの大声に驚きを隠せないでいる榛名に、オレは落ち着いて、気にしないで下さい。と告げると、いつも通り脳内での対話をはじめる。

なんですかそれ、どういうことですか。でもあんた元希さんが好きだったんでしょう?

「私ね、榛名くんに告白してないの」

つまり、それは榛名に他に好きなヤツがいた、とか、そういう話なのだろうか。

そう疑問に思っても、彼女は何も答えない。

先程から榛名の頭ん中を読むことに真剣なようだった。

「タカヤ、お前あいつの知り合いなわけ?」

「ええ、まあ」

「そーか、とにかく、オレはあいつん事フってねーからな。いろんなすれ違いのせいで、うまくいかなかっただけっつーか」

榛名のその言い方で、なんとなく、気持ちが察せてしまう。たぶん、西中は、そのことを読むのに一生懸命なのだろう。

だから、イマは、オレの心までは読めない。

「好きだったんすか、あいつのこと」

「まあ、な。なんだよタカヤエスパーかっつの」

心を読まれたようにでも感じたのだろうか。

事実、現在進行形で、読まれているので、そう感じても仕方が無いかもしれないが。

「墓に告白してたんですか。でも意味ありませんよ。あいつ、まだそこにいないから」

「は?」

「いや、なんでも。邪魔するのもあれなんで、オレ、もう帰ります」

西中が咄嗟にオレを見る。

オレは、頭の中で、じゃあな。とだけ言って、一人、墓地を後にした。

最期、成仏する前くらい、あの人の隣にいたいだろう。



いろいろあり、いつもよりかなり疲れたので、うちに帰って、オレは風呂に入り、すぐベッドに潜り込んだ。

あいつからの別れの挨拶は聞きそびれたが、そもそも、そういうのが必要な仲だったわけでもあるまいと、布団の中で思う。

ただ、脳内のプライバシーが保たれている今だからこそ思うが、オレはそれなりにあいつが嫌いではなかったかもしれない。

そうでもなければ、どんなに拝み倒されても、頼み事など聞かなかったようにも思うのだ。

「元希さん、ウザイな」

それだけ呟いて、オレは意識を手離す。

そういえば、まだ明日まで仕事は残っているのだ。



2012/12/24
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