「あれ?阿部どうしたの?」

一組の知り合いと言えば栄口なので、オレはとりあえず栄口に軽く話を聞いてみる事にした。

巣山でも良かったかもしれないが、巣山より栄口の方が女子については詳しいと思ったのである。

「西中さん?最近登校してこない?」

「おー。そいつそいつ。でさ、その西中ってクラスではどんな感じだったんだよ?仲良かったヤツとか」

「うーん。仲良かった人はいなかったんじゃないかな。来てないの気にしてる人もいないし」

栄口がこの調子なら、巣山に尋ねたところで同じだろう。

仲良かったヤツに説得を手伝ってもらえたら、と思っていたのだが、そもそも仲が良ければオレに言われずとも西中家に赴いているだろう。無駄足を運んでしまった気がする。

栄口と別れ、廊下を歩き始める際、心の中で、先ほどからずっと後ろをつけてくる西中姉に対して、近くにくるよう語りかけてみた。来た。ちなみに今は許可していない。

「なに?なにかなタカヤくん!」

つまり心勝手に読んでるんだなと、やはり心の中で指摘。西中はギクリと反応し、拗ねたような顔をして文句を言ってきた。

「酷いよひっかけるなんてー」

いや、最初から読んでなきゃいいだけでしょう。つーか反応しないでくださいバカですか。

「だって、タカヤくんもほら、何もいない空間に話し掛ける痛い人にはなりたくないでしょ?だから。」

じゃあ、トイレの時以外はずっと横にいてくれても構わないんで、心読んでいいときは最初に何か小声で合図しますから、ずっと読んでるのはやめて下さい。

「なるほど。了解した!で、タカヤくん。一組で何か情報は集まったかね」

アンタも一組のヤツらの心くらいざっと読んでみたりはしたんでしょう?どうだったんですか。

「いや、もうぜんっぜんダメ。あのこ友達いなかったみたい」

そういうことです。じゃあもう心読まないで下さい。

そう締め括り、オレは辿り着いた七組のドアを開き、自分の席に座る。

トイレの時以外とは言ったが、部活の時も横に居られるのは邪魔だから、後で言っておかなければ。

今回ばかりは言うことを聞いて、オレの心を読んでいないようで、西中姉はふわふわと気持ちよさそうに空を飛び、オレにパンツを晒していた。ほら、隠さない。つまり本当に読んでいないわけだ。

「あ、阿部。どこ行ってたんだよ」

花井に話しかけられたので、一旦西中姉から視線を逸らした。途端にスカートの裾を弄るアイツはきっと天下の大馬鹿者だ。少しはこちらを騙す努力をするようになったようではあるが、まだまだ詰めが甘い。

「……だってタカヤくんってば。表情だけじゃ何考えてるかわかりにくいんだもん」

申し訳なさそうに言い訳をする西中姉の覗き癖は、もう仕方ないのかもしれない。

許したわけではありませんから。せめて反応をしないようには努力すること。というか読むなっつってんだろ。

「阿部が教室出るなんて珍しいよな。なんかあったのか?」

「いや、なんもねーよ」

テンションの高い覗き大好き幽霊がオレに付きまとうんだよ。なんて言ったら、頭がおかしくなったと思われかねないので、オレはそう言って、花井との会話を終えた。

始業を告げる鐘が鳴り、次の授業を担当する教員が教室に入ってきたので、花井は少し離れたところにある自分の椅子に着席し、西中姉はと言えば、何故か入ってきた教員の後ろから、付箋の沢山着いた教師用の教科書を覗き込み、死後をエンジョイしていた。

つーか、オレには見えてるのだから、他にも見えているヤツはいるかもしれないわけなのに、どうしてアイツはああやって目立つことばかりしたがるのだろう。

クラスメート達は、そんな彼女をしっかりスルーしているので、とりあえず見えてはいないようだが、だとしたら、アイツが見える人間の数は少なく見積もってもクラスメートの人数分のオレだ。三十何人分の一。多いのか少ないのかは一般的な幽霊がどのくらいの人間に見えるかがを知らないので、わからないけれど。

授業に集中力するために教科書に目を向ける。半年使ったせいで、少し汚れている教科書に特に愛情はないが、オレは約一時間、こいつを見つめ続けなければならない。

たまに教科書から視線を外し、熱弁をふるう先生に目を向けるが、西中姉が先生に余計ないたずら、小学生が友達の頭に後ろから角を生やしたりするアレをするので、呆れて見ていられないのだ。だからオレは教科書が片思いの相手であるかのように見詰めているしかないわけだ。片思いの相手なんか見詰めたことないけどな。

そもそも、片思いの相手がいたことがあるかどうかというのは、オレの思考のプライバシーが零に等しくなっている今は置いておくことにする。

「そーだタカヤくん。」
なんだよ覗き魔

「これは反応していいのだろうかとか一応迷うけど反応しちゃうぜ!あのね!部活終わったらうちに来てほしいの!」

それはオレも思ってた。一番手っ取り早いだろうしな。つーか煩いから声のトーン下げろ。

「はいはーい!ラジャーなのだよ!」

いや、全然下がってねえし。

ということで、オレは放課後、見ず知らずの女子のうちへ訪ねることになった。

コイツのことは、妹も見えなかったからオレのところへ来たのだろうし、本当のことを伝えたところで怪しまれるだろう。

なのでオレは、放課後までに何を口実に会いに行くかを考えて置かなければならないわけだ。

肝心の西中姉は、こういう思考に関してはスルーだしな。オレ任せにし過ぎではないかと思う。

黒板に書き足された文字をノートに書き写し、オレは仕方ないので、この授業が終わったらもう一度一組へ行くことにした。

休んでいる人間のうちに訪ねるのに、一番ベタな理由を使うことに決めたのだ。

即ち、配布物の宅配である。



2012/11/07
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