2
西中姉の話によれば、元々性格が暗めではあった妹だったわけだが、姉の自殺によってそれに更に拍車がかかり、遂にはひきこもりになったらしい。
「って、ちょっと待って下さい」
「何?」
「アンタ、死因自殺なんですか?」
確かに、殺しても死ななそうなキャラクターではあるが、自殺はもっとしなさそうだ。
しかし、事故や他殺だったとして、彼女が嘘を吐く理由はないだろう。
唯一考えられるとすれば、他殺で、犯人が西中妹だという可能性。
彼女を救えと言いつつ、それによって他殺だという証拠を掴ませたい。なんて。この話が、そんなサスペンスだかミステリーだかホラーだかわからないような、話なら、その可能性もあり得なくはないが、もちろんこれはそんな話ではない。
同じような話ばかりでもつまらないだろう。これはオレの知らない事情だけれど。
「自殺だよ!私は生前失恋したのだ!」
「失恋?そんなことで」
というのも酷い話か。周りにそういうヤツが存在しないため、気持ちはよくわからないが、死後であってもこんなテンションの高い女だ。ノリと勢いで自殺くらいしかねない。
「詳しく聞いちゃう?」
「いや、いい」
「女の子の聞いちゃう?は聞いてほしいってことなんだよ!」
いや、聞きたくねえし。
相手は、なんとなくだが、榛名なんだろうと思った。
思い出してみれば榛名の名前で振り返ったオレに驚いた顔をしていたのだ。
オレが反応するだろうから、と、出した名前ではなかったに違いない。
「妹の話は終わったろ。帰れよ」
「うええ!?ここまで聞いておいて帰らせるのか君は!」
「そういう約束だろ」
「じゃあ、榛名くんの名前出せば言うこときいてくれそうな人に……」
三橋なら。というか田島あたりなら興味本位でコイツに協力しそうではある。
「その人!三橋くん?に頼んじゃうからね!私が見えなかったら嫌がらせしちゃうんだから!ラップ音とか!」
「なんでアンタ三橋まで知って」
「だって今タカヤくんが思い浮かべたじゃない」
心まで読めるのかよ。幽霊はチートらしい。
「チートじゃないよ!」
「いや、読むな」
ついついタメ口。つーか幽霊に敬語って必要なんだろうか。
「じゃあこれからは読まないけど、三橋くんとこ行っちゃうよ?いいのかなー?」
「チッ」
「舌打ちって態度悪いなあ。でもでも!舌打ちって不服ながらも了承って意味だもんね!タカヤくんよろしく!」
不服なのがわかってるなら巻き込まないでほしい。が、もう仕方ないだろう。
さっさとひきこもりを野に放して、オレはコイツと縁を切る。
「野に放すって……タカヤくん斬新だね!」
「次読んだら、ひきこもりはなんとかしてあげますけどアンタはシカトする」
「いやいやタカヤくん。タカヤくんが心の中で反応しているのが私にはわかるわけだよ?それじゃシカトには」
「じゃ、やっぱりオレは三橋に犠牲になってもらうことにします」
怪我をさせられるわけではないだろうし。いや、ラップ音とかにビビられて寝れなくて体調崩したりされても困るが、そこまではしないだろう。なにせこの幽霊は榛名に惚れているのだ。投手に危害をくわえるとは思えない。
「駄目だよ犠牲にしちゃ!それでもチームメイト!?」
「うるさい黙れラップ音」
「声すらラップ音にされた!」
こいつ生きてる時は相当うざかったろうなあ。と、他人事のように考えつつ、つーか本当に他人事だしな。オレに降りかかる災難にため息をつく。
「タカヤくんごめん!もう本当に読まないから!ううん。読んでも笑わないし、申告しないから!」
「アンタすっげー素直だよな」
そういえばメシがまだだった。そう思い部屋を出ようとすると、西中が慌てたように後についてくる。
「メシんときは、家族いるし喋れませんけど」
「でも、もう一人は嫌だから。無視でいいから」
死んだのは、確か何週間か前のことだと言っていただろうか。
それからずっと誰にも気付いてもらえなくて、よく諦めなかったな。とも思うが、こんだけ喋るやつだ。寂しかったのだろう。
「返事はなくていいから、声小さくするし、なんか、話しかけちゃだめ?」
でも、反応が無いんじゃ。オレに会う前と変わらねーじゃねーか。
「じゃあメシん時はいいです」
「何が?ついてっていいの?」
「心読んでもいいって話。相槌くらい打つんで」
オレのそんな気まぐれに、彼女が嬉しそうに笑う。笑顔はまあ、ウザいけど見れないことはない、生前もきっとそれなりに可愛かっただろう。
オレはコイツに好かれても絶対付き合わねーけど。榛名が彼女をフったことが少し不思議に思える。
今度会ったら、理由を聞いてみてもいいかもしれない。
2012/11/04