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皆さんは幽霊の存在を信じるだろうか?
なんて気取った雰囲気で、この短い話を語るのも面倒くさいので、幽霊を信じていないオレは、そんな幽霊の話を簡潔に語ろうと思う。
オレが彼女、西中と出会ったのは、ある秋の日の事だった。部活が終わり、部のヤツらと別れ、一人帰路についていると、自販機で飲み物を買う為に自転車から降りた時、不意に後ろから、見知らぬ女に話し掛けられたのだ。
「ねえねえ! キミ、タカヤくんだよね!」
テンションがムチャクチャ高い女だった。
んで、身体が透けていた。
その身体の向こうに見える電柱を凝視して、深呼吸。体の向きを自宅の方角へ向けて、自転車に跨り、とりあえずスルー。
「ヘイヘイ、スルーは無いんじゃないか少年! 私一応高二なんだよ! 死んでるけど!」
「はあ、そうなんですか」
「動揺しようよ! もー! 榛名くんなら」
ぐるん。と、思わず顔だけ振り返る。まさか自称幽霊の口から知り合いの名前が出るとは思わなかったのだ。
ハルナなんて女性名に、くんを付けられる人なんて、この辺ではきっと一人か二人しかいない。
そして彼女は自称高二だ。高二なら、まああの人しかいないだろう。
しかし、これが夢だとしたら、オレは榛名をそんなにまで気にしていることになるのだろうか。
吐き気のする事実だ。
「元希サンなら?」
「ふふふ。君が榛名くんの名前に過剰反応することくらい調査済みなのだよ!」
流石は榛名の知り合い。人の話を全く聞かない。
「でだ。私は君にちょっとお願いがあったりしたりしなかったりなんだよ!」
「どっちだよ」
「あるに決まってるでしょ! ないならなんで私は君に話しかけたの!」
いや、知らねえよ。変な言い方したのそっちだろ。
「帰ります」
「ごめんなさい。調子に乗ったの謝るから話し聞いて下さい。西浦高校の子が、話し掛けて振り向いてくれたの初めてで嬉しくて。しかも知ってる人だったからなおさらで」
まあ、幽霊らしいしな。話し掛けられても、気付かない奴はいるかもしれない。
というかむしろ、なぜオレが気付いてしまったのかが謎だ。
「なんなんですか」
「あのね、西浦高校の一年一組に、西中さんっていない? いるよね?」
「いや知りませんけど。オレ一組じゃありませんし」
「とにかくいるの! その子、私の妹なんだけど、今引きこもり化しててね」
イヤな予感がした。
これは、面倒事に巻き込まれる流れだ。
話を聞かずにうちに帰ろうと、身体の向きを変えようとするが、何故か足が動かない。それどころか、ハンドルを握り直そうにも腕も上がらない。
「逃げようとしたって無駄なのだよ!私は幽霊だから、集中すればかなしば」
「あ、パンツ見えた」
「うえええ!? え? なんで? どこ?」
つまり集中を乱せばあっさりと解けるということらしい。
幽霊が今更色気づいてどうするつもりなのかは知らないが、オレはその隙にペダルを全力で漕いでで自宅へと戻る。
で、まあ、彼女は部屋に居た。
ホラーの基本である。
「タカヤくん足早いねえ!幽霊じゃなきゃ巻かれてたよ!」
「なんでアンタそんなテンション高いんだよ」
「とにかく!話は最後まで聞いてもらうからね!」
まずはこっちの話を最後まで聞け。
「話は聞きますけどお願いは聞きませんからね」
「愚痴みたいなもんだから、話せるだけでもいいんだよ、案外そしたら成仏できるやも」
「あっそ」
こんなのが部屋にいるままじゃあ、ゆっくり寝ていられない。
まあ、自分が死んだことを納得出来てない幽霊よりはマシだよな。と、なんとか前向きに考えて、オレは仕方なく彼女の話を聞くことにした。
明らかな判断ミスである。幽霊の話を聞いてしまったら、どんな物語の主人公でも、問題の解決までは幽霊と共に行動することになるのは、お約束な展開だ。そんなわけでオレたった一日くらいの間だけ彼女につきまとわれることになった。
彼女自身ではなく、引きこもりの妹を救うために。
2012/11/02
探偵ごっこの番外編みたいなものです。