狡い、なんてね


「君さ、なんでシズちゃんにあんなに嫌われてるの?」

「私、静雄兄のこと、最初は普通にからかってたんだけどね」

「なるほど。わかった」

「まだ理由全然説明出来てないんだけど」

私が静雄兄に決定的に嫌われたのは、私達が中学二年の頃の話だ。しかし詳しいことはまた今度。とりあえず、もっと根本的な話からしよう。




静雄兄が私を嫌う理由はいろいろある。そもそも、その"静雄兄"という呼び方からすでに、彼にとっては嫌がらせ以外のなんでもなかったりする。なので今回はそんなところから話していきたいと思う。

彼がちっちゃい頃から私と遊んでくれていたお兄ちゃん。ということなら自然かもしれないが、そんなわけはなかった。私は静雄兄、というか静雄と同い年で同じ学年なのだから。

つまりその呼び方は、静雄の溺愛している弟と私が結婚することを前提とした呼び方であり、その呼び方を静雄が毛嫌いするのは当たり前のことなのだ。

「前からちょっと思ってたんだけどさあ、智恵美、もしかして性格悪い?」

「折原だけには言われたくなかったよ。ていうか、ちゃん付けにしてね。身体は多分、私のが年上なんだからさ。呼び捨てはいかんよ」

「精神年齢は俺の方が間違いなく上だろうけどね」

「黙れ。永遠の21歳」

ちなみに、私は昨晩漸く臨也から借りたデュラララ!!を完読した。

この折原臨也が小説のどの辺りの折原臨也なのかはわからないが、敢えて聞きたいとも思わないので、それははっきりとさせていない。

ただ、一番最初に、新宿で情報屋をやってただとか言っていたし、来神時代の折原臨也ではないと思う。しかし折原臨也の身体は高校生くらいにも見える。

それなれば身体は臨也のもので、精神だけが折原臨也になっているのか。とも思ったが、もしそうならなんでいきなり健康体に?という疑問が残ってしまうわけで。

と、まあ、そもそも有り得ないことが起きているわけだし、そんな細かいことを気にしたって仕方がない。と、それ以上は考えないようにしているのだが、時間があれば考えてしまう。

その健康体、それはいつまで続くのか。臨也が、臨也の精神が戻ってきたら、それはどうなってしまうのか。なんて。

「ていうか、君ちゃんと学校行ってるわけ?毎日来てるけど。確か十七とか言ってたよね?」

「行ってるよ。たまに」

「つまりちゃんとは行ってないんだね」

「んーまあ、折原が来てからは一度も学校行ってないね」

「なるほど。だからちゃんと学校に行ってるお兄さんは中々お見舞いに来れないわけだ」

「ていうか、あれはその上生徒会だから忙しいんだよ。そろそろ文化祭だしさ」

「へえ。お兄さん凄いんだねえ。ちなみに君は何委員なの?」

「生徒会。で、もちろん静雄兄と同じ学校だよ。私のせいであの人が忙しくなって見舞いにこれないなんて素敵過ぎるよね」

「やっぱり智恵美ちゃんは性格悪いよね」

だからお前には言われたくないんだよ。と言おうと口を開いたのだが、カーテンの開いた窓から見えたある人物に言葉を失う。

「あーあ、二日連続かよ。あのブラコンめ」

「うーん。あのイラつきようは君を捜しに来たんじゃない?昨日、晴れて君のサボりポイントがわかったわけだし」

「かもねー。そういや、折原、私の妹には会った?あれはあんたの身体と同い年なんだけど」

「初日に会ったっきりかな。ちゃんとは話してないよ。しかし君に似てるのに似てないねえ、彼女」

「ちょっとしか話してない癖によくわかってるね。さて、じゃあそろそろ私は逃げるよ。バイバイ」

病室を出ると目の前に静雄兄が立っていた。待ち構えられていた。やばいっていうか。うざいっていうか。鬱陶しい奴だ。と思う。

「文化祭が近いのはわかってるはずだよなぁ?なのに何サボってんだ?ああ?」

「静雄兄も複雑な人だよねえ。学校で私に会う度イライラしちゃうのに、サボると怒るんだもん。新手のツンデレ?」

なーんて冗談でキレるんだから嫌になっちゃうよね。

聞こえる筈のない、ブチッという音が聞こえた気がした。後ずさりをし、私は別れの挨拶を口にする。

「んー、まあ、じゃあね?静雄お兄ちゃん」

後は方向を転換し、病院の玄関口に向かって全力で走る。いつもの看護師さんが、病院内で走らないでっていってるじゃないですか!と私の背中に向けて叫ぶが、いつも通り私は無視をした。

あのブラコンはいつ、臨也が死んだことに気付くんだろう。なんて思いながら私は走る。私だけ辛いなんて狡いじゃないか。静雄の馬鹿。



2011/07/06
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