病院内全力疾走


「俺以外にはいないの?」

「何が」

「その、"デュラララ!!"ってののキャラクターに似てるって人」

私の幼なじみじゃない折原臨也がここにきて、もう一週間近く経った。きっと私だけしか臨也が死んだことに気付いていない。





相変わらず、折原臨也に取材などはなく平和だ。そして、臨也でなくなったその身体は、異常なほど健康体になっていた。

有り得ないと医者はいう。

まあ、それ以上の有り得ないことを体験した私は、そんなのどうでも良かったのだが、折原臨也は大変らしい。検査検査で未だに退院出来ていないのだから。

「いない……いや、いるのかな。どうだろう」

「どっち」

「ていうか折原、まだお兄さんに会ってないの?」

「こっちの俺にはお兄さんなんているんだねえ。妹は?」

「いないよ」

折原臨也でも、家族のいない世界というのは寂しいものなのだろうか?折原臨也は、それに関しては、無表情にふーん。とだけいい。で?お兄さんがどうしたわけ?と私に続きを話すことを促した。

「とにかくまだ会ってないんだ?お兄さん忙しそうだしなあ」

「で?」

「あ。でも今日来るって言ってたしさ。そろそろ来るんじゃない?会えばわかると思うよ。私の言いたいこと」

っていうか。彼に、お兄さんが誰に似ている。なんて言いたくないのだ。そもそも今日はお兄さんが来る前に引き上げるつもりだったわけで。

私は予定通り帰ろうと鞄を持ち、椅子の背に掛けていた上着を自分の腕にかけ直す。なんで帰るの。と、ベッドの上で不服そうな顔をする折原臨也は気にしない。

巻き込まれるのはごめんだ。

そう思って病室を出ようとドアノブを掴むと、力を入れる前に、ノブが回り、ドアがひらかれた。

「あ。智恵美」

「じゃあ私そろそろ失礼するね!またね折原!さらば!」

来ちゃったよ。ドアの向こうに姿を現したのは、紛れもなく臨也のお兄さんだった。なので私は急いで病室を出る。

病弱な臨也を大切にしていて、弟を喜ばせる為なら、自分と同じ名前を持つキャラクターの格好をすることも厭わない。彼はそんなお兄さんだった。

彼がその綺麗な黒髪を金髪に染めてきたとき、私は心底驚いた。例の服まで大量に買い込んできて、弟が大好きなところと、短気なところは、確かに、彼にそっくりだった。

「は、シズちゃん?」

折原臨也の方を向けない。背中に感じる、なんで言わなかったんだってオーラがきつい。

「お前が生き返ってから会いに来れなくって悪かったな。臨也」

私の横を抜けて、嬉しそうに折原臨也の頭を撫でる静雄兄。振り返ると、全身に鳥肌をたてた折原臨也がいた。うん、だろうね。気持ち悪いよね。可哀想に。ざまあみろ。

「臨也?やっぱりまだ体調が悪いのか?」

「……だ、大丈夫、だよ。シ……おにい、ちゃん」

「ああ、そうだ。お前来週には退院出来るらしいぞ。家に帰ったらまた一緒に寝るか」

顔面蒼白だな。折原臨也。と、私は影で笑っていたのだが、折原臨也は、静雄兄に、ごめん、お兄ちゃん。俺、智恵美ちゃんに話があるからちょっと行ってくるね。と、言い、ベッドをおりた。

嫌な予感がしたので逃走しようとしたのだが、彼は臨也ではないのだ。逃げ切れるわけもなく、あっさり捕まってしまった。

「あのさあ、智恵美ちゃん?」

「んーなあに?折原」

「どういうこと?」

「静雄兄、臨也が平和島静雄が好きってんで、わざわざバーテン服とグラサン用意して髪を金髪に染めたんだよ。うん。あれはコスプレに近いかな。名前は同じだけど。自販機は投げらんないし」

「じゃなくてさあ。一緒に寝るってなに?あの人ブラコン?それとも弟に嫌がらせがしたいの?」

「イエス、ブラコン。ていうか、臨也はね、久しぶりの自宅ってのをいつも怖がってさ、初日は毎回静雄兄と寝てたんだよね」

黙り込む折原臨也。少し可哀想な気もして、もう一人で寝れるって言ってみたら?と提案してみる。

ていうかね、折原臨也。頼むから私を追っかけないでよ。あのブラコンは、ほんっとーに。私の天敵なんだからさ。あのブラコンに巻き込まれたくないんだよ。

「智恵美よぉ、臨也に手ぇ出すなって言ったよなぁ?おい」

「静雄兄……あのさ、ここ病院だからやめよう?迷惑だからさ」

「ああ?今なんつった?」

「迷惑だからやめようって。臨也も迷惑だよ。ねえ。静雄に」

「いつもいつも手前に兄なんて呼ばれる義理はねえって言ってんだろぉがあああ!」

あああ。追い掛けてきたよ鬱陶しい。いけないこととはわかっていながら、病院内を走って逃げる。平和島静雄ではないとはいえ捕まったらただじゃすまないことがわかっているからだ。

「じゃーね!折原!と、静雄兄!」

「逃げるんじゃねえええ!」

病院の外に出た私達を窓から眺めながら、客観的に見ると俺達はあんなんだったんだねえ。と折原臨也が呟いていたことを私は知らない。



2011/06/26
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -