神様の酷い慈悲


私の初恋の相手である幼なじみは折原臨也という。といっても、別にアニメキャラが好きなわけではなく、幼なじみの名前がデュラララ!!の情報屋と同姓同名なだけだ。

幼なじみである臨也は騒いでたりするが、そもそも、私はデュラララ!!という話をよく知らない。小説や漫画は好きだが、いまいち興味を持てず、幼なじみに本を借りた今も、十ページくらい読んだまま放置してしまっていたりする。夜行性である私は深夜にやっているアニメは一応見ているので、折原臨也というキャラのことは大ざっぱには知っているが。

そんな折原臨也と、私の幼なじみの臨也は、名前こそ同じだが、性格は全くといっていいほど違った。

唯一の共通点、それは、臨也が病弱で、ずっと入院してた為に、やることもなく、仕方なく趣味としていた、人間観察くらいだ。

顔は、まあ、二次元と比べてもよくわからないが、似ているといっても差し障りがないくらいには似ていた。しかし、臨也の浮かべる笑みは柔らかく、私を癒してくれるような、優しい微笑みで、私は、どうしても、臨也をデュラララ!!のキャラクターである折原臨也と重ねる事が出来なかった。

当の臨也は、自由に新宿や池袋で遊ぶ折原臨也を羨ましがり、いつも、あんな風になりたいと呟いていたが、私は臨也にそんなことを望んでいなかったし、寧ろ、私はそのままの臨也が好きだったから、そんなことを言う臨也が少し悲しかった。





臨也のお母さんが泣いている。そりゃそうだ。臨也のお父さんは、黙ったまま俯いていたし、臨也のお兄さんは、何も言えずにいる父親のかわりに、自分の母親の肩をを支えるように抱いていた。

うちの妹は、私の袖を引っ張りながら鼻をすすっていたし、弟はわんわんと泣いている。うちの両親は、なにやら知り合いと挨拶を交わしていたが、その面持ちは悲哀に満ちていた。

私は、さして呆然としているわけでもなく、ただ冷静にその光景を見つめていた。

だって、信じられないだろう。リアリティが無さ過ぎる。あの、昨日の昼まで元気そうだった臨也が死ぬだなんて。

ねえ、お通夜ってなんだよ。

臨也のお母さんに、智恵美ちゃん、最期に臨也の顔見てあげて。と言われ、私は、納棺式を終えて、棺に納められた臨也の前に正座をした。泣き止まない母親を連れ、臨也のお兄さんが部屋を出た。いつの間にか、他の人も居なくなっている。

膝立ちになり、臨也の頬に手を添えた。なんて温かい────って、ん?え?遺体って冷たいもの、だよね?

手が何者かに握られた。あれ?臨也ってこんなに握力強かったっけ?つーか痛い。痛いから。

「痛いっつの!離せ馬鹿!」

「女の子なのに口が汚いねえ、君は。痛くしたのは謝るけどさ、いきなり触られたから驚いたんだよ。ていうかここどこ?」

「ていうか、い、生き──」

暗転。

次に意識を取り戻した時、臨也は当たり前のように、私のベッドの傍らで椅子に腰掛け林檎の皮を剥いていた。あれ?夢?臨也が死んだのは夢?そう思ったが、これはおかしい。だって臨也が、こんなに器用にナイフを扱える筈がない。

「あんた誰」

「俺は折原臨也だよ」

「違う、絶対違う。だって、だって私の知ってる臨也は、」

「折原臨也は新宿で情報屋やってた筈なんだけどねえ。全く何が起きたんだか。生き返っただの、愛の力だの、本当意味がわからないよ。ねえ、君はこの意味わかる?」

まさか自分の耳を疑うことになるなんて。私の聴力大丈夫?ああ、もしかして臨也ってば、私をからかってるんだ?なりたかった自分を演じてるんだよね。きっとそうだ。

「とりあえず笑って周りの話には合わせておいたけど。まあ、取材だとかは両親だって人が金に物言わせて関係者に口止めしてくれたみたいで、今のところは平和だけど、俺としては検査入院なんて面倒だったらありゃしないね。……っと、まあ、俺の言いたいことはこれくらいかな。幼なじみの智恵美ちゃん?」

「臨也。今日はからかったりするの、私許さないよ。怒るよ」

「アハハ!君を信頼して話してるんだけどなあ。どうしたら信じてくれる?君の言う臨也の出来なかったことでもすればいいのかな?」

それは、すでにしている。ナイフの扱い、夢じゃないとしたら、あの有り得ない握力。

「ていうかさあ、そもそも、最初に俺を臨也じゃないって言ったのは君じゃないか」

頼むから、臨也の顔でそんな酷い笑みを浮かべないでよ。



2011/06/23
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