存在を認める。


病院にて。私が長椅子に座っていると、いつの間にかうっちゃんが目の前に立っていた。

「臨也のやつ、また倒れたんすか」

「んー」

「会長。もしや、また臨也に惚れちゃいます?」

「いや、もうやめた」

憂はその台詞に、ほんの少しだけ安心したような顔をし、

「……あのさ会長? 隠し事は無しの約束だったよね?」

久しぶりに、声のトーンを元に戻した。

「ぶっちゃけ、臨也になんかあったの? あいつどうしたわけ?」

臨也がいなくなったからか、私達の傷は治りかけているようだ。




静雄と私か決別したあの日。憂は無駄にニコニコしていた。憂はそもそも静雄のことがあまり好きではなかったらしい。

しかし、私に静雄がいないと駄目だということに私より早く気付き、彼女はすぐに自分で自分を壊した。

私のために、彼女は彼女であることをやめたのである。

「とりあえず、憂」

「うん? なあに?」

「私静雄が好きだったみたいなんだ」

「ああ、知ってる知ってる。だから会長ってば静雄に嫌われて、現実逃避に俺に逃げたんですもんねー。しかもそれで、私を壊しちゃいかけたのに気がついて、再度臨也に逃走。原因が誰かも気付かないで、憐れな人だとすら思いましたよ。で、だからこそ俺は訊いたんすよ。臨也どうかしました? って。私達の原因は一体どうしちゃったんですか? って」

憂はやはり憂だ。マイペースなことにマイペースに取り組み、自分勝手なことを自分勝手にする。

「折原が起きたら、本人に訊いてよ。ちなみに憂は、"デュラララ!!"知ってる?」

「ああ、あの病みに病んだ話でしょ? 知ってるけど嫌いだよ。ただ、アレの静雄は好きだなあ。静雄とは大違いで」

「ああそう」

そこで、まるでタイミングでも見計らったかのように、看護師に呼ばれた。臨也が起きたらしい。

身体の状態は思った通り死ぬ前に戻ったようだ。




「身体が臨也の精神も思い出せばいいのに」

「諦めたんじゃなかったわけ?」

折原の顔色は悪いままだったが、多少元気そうに見えたので、とりあえず憎まれ口を叩いてみる。

憂は、私達の会話を不思議そうにきいていた。

「え? なに? もしかして、デュラの臨也なの?」

「あれえ?憂ちゃんいたんだ?気付かなかった。こんにちは。来てくれてありがとう」

「可愛い笑顔浮かべてんなよキモいから。てかうっちゃん。略称まで知ってたのか。嫌いなのに」

「智恵美ちゃんは酷いなあ。なに? つまり憂ちゃんにも事情話した方がいいわけ?」

嫌がらせのようにちゃん付けをする折原をぶん殴ってやりたかったが、身体は臨也のものなわけで、今殴ったらトドメになる可能性もあったのでやめておく。

「あのね憂、まあ、こういうわけなの。この人は臨也であって臨也じゃないの」

「現象についての説明は求めても無駄だろうからしないし、会長の言うことなら信じますけど。今わかってることは話してくれます?わりと混乱中」

「かいちょう。ね」

「会長と私は違うんすよ。名前の呼び方を漫画みたいに意図的にわけるなんて、中二ちっくなこたァしません。ほら話して下さいよ会長」

当て付けのように憂は言う。中二ちっくで何が悪い。中二でぶっこわされたんだから仕方ないだろ。







「まさかの近親相姦? 同性愛に関しては僕も言えたことじゃないからなにも言いませんけど、禁断過ぎやしませんか?」

「やっぱそうなるよねー」

「君たちのいう臨也くんには、なんで普通の女友達がいないんだ。ていうかなんでまずそこにつっかかるわけ?」

「だから俺は最初に現象についての説明はいいっつったでしょ」

あと、臨也に普通の友達がいなかったのは、臨也の野郎が普通じゃなかったからっすよ。と、憂は吐き捨てる。なるほど。憂は折原臨也もあまり好きではないらしい。そのやりとりに思わず笑ってしまった。

そして、ふと思い出した事を口にする。

「あはは、───ああ、折原。最後の質問の答えだけどね」

「ああ、なんだっけ?」

「あんたが居なくなったら、私はやっぱり寂しいよ」

あの臨也でなく、折原臨也でも、私はやはり、誰かがいなくなることに耐えられるほど、頑丈な人間ではなかった。というか、自分がとても弱い人間だということに今更気が付いた。

「あんたは、死んで向こうに帰れるとして、私と離れるの寂しくないの?」

「え? 寂しいよ?」

即答した折原臨也が、何を考えているかなんて私にはわからなかったし、あえて知りたいとも思わない。

「そっか」

私はただ、その言葉を単純に受け止めることにした。

例えそれで足元を掬われたとしても、私は元々、ぶっ壊れてる。転んでで粉々に砕けても、私は構わない。

「ありがとう」

私は、折原臨也をとりあえず認めることにした。

後日、本当に彼が死んだかどうかは、また別の話である。



2012/09/19
続きが中々書けないので、ここで一度辞めておきます。とりあえず、彼女が彼をちゃんと認めてあげられたので、いいかな。と。私が続きを書かなかった場合、イザヤは死んで元の世界に戻れていると思います。
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