- 多分これから続く毎日
翌々日からバカップル一日目が始まった。
朝、今日で榛名くんと目が合えば、にんまりと笑われた。そして腕を掴まれ、教室から拉致換金される。私はどうやらパチンコ屋の景品だったらしいといういつもの冗談はさて置いて。
「勝った」
「知ってる」
のを君は知ってるハズだろ。そして確か昨日はARCってところに負けたんでしょ。と、指摘はしない。私はそんな野暮な人間ではない。私は野暮な人間ではなく、むしろ日暮な人間……つまりその日暮らしな、計画性のない人間なので、もしかしたら野原で暮らすことになる将来も無いことは無いのかもしれない。
それにしても、人気の無い廊下まで連れてきてマイダーリンはなんの用なのだろう。
多分、確認行為なのだろうけど。わざわざする必要なんてあるのだろうか。
「つーか、あのさ、あん時はああ言ったけどよ」
「うん?」
「お前、ホントにいいわけ?」
「今更何言ってんの?」
本当は嫌だよ。なんて今更言えるような鬼畜ではないのである。つまりその質問は無意味だよ、榛名くん。
朝練の後に顔を洗ったのか、榛名くんの顔はさっぱりと小綺麗で、なんとなく私はその顔に手を伸ばした。触れる前に手を掴まれた。警戒心というやつなのだろうか。榛名くん、警戒心強そうだし。
「なんだよ」
「榛名くんって猫みたいだね」
「はあ?」
よく観察して気が付いたのだが、榛名くんは弟より、どちらかといえばミー太に似ている。ミー太はいつも顔を綺麗にしてるし、警戒心が強い。しかもオレサマで、威圧感が凄くて、ボールで遊ぶのが大好きで。
あ、本当にそっくりだ。
「榛名くんはミー太だね」
「話が全くわかんねーンだけど」
「よし、今日から私は榛名くんのことをミー太と呼ぶことにするよ」
問答無用である。返事がなんであろうと私は榛名くんをミー太と呼ぶことに決めた。ミー太となら付き合ってもいいと思った。というのは冗談だけど、ミー太と呼べるのなら愛着がわく気がした。
「は?み……?は?」
「さて、ミー太。そろそろ教室に戻らないとホームルームが始まるよ。行こう」
「待てって、みーたってなんだよ」
「ミー太。私はあなたの彼女だから特別な名前で呼びたいの」
半分嘘。ということは半分は本当なのであった。
教室に向かって歩き出した私の腕を榛名くんが掴んで止める。振り向いて、訂正。
私が止まったことによって緩んだ彼の手に、指に、私の指を絡めて再度繋ぎ直す。
「恋人ならこうだよ。ミー太」
「野村、だから」
「私はちか子。ミー子って呼んでくれても構わないけど」
うちの可愛い猫だと思えば、仲良く出来ると思ったし、好きになれるかも知れない。
一昨日の試合の榛名くんは確かに格好良かったし、彼の彼女だというのはステータスにもなる。
それから、単純な話をしよう。私は、例えば私が榛名くんをフって、榛名くんが別の子を好きになってその子のモノになるのがなんとなく嫌になってしまったのだ。榛名くんの好きな子は私にしておきたかった。恋愛じゃないけど、独占欲。何故だかはわからないけれど。
ポケットから携帯を取り出してチラリと見てみれば、ホームルーム開始まで二分を切っていたので、私は榛名くんの手を引いて早足で歩き出した。
遅れて行って、皆に見せつけるのも有りかもしれないけれど、昨日学校をサボった私が遅刻というのは避けたかった。
「あー、お前さ」
「なに?」
「そういうキャラだったっけ?」
「返品は不可だからね」
訳『今更付き合わないってのは無し』というわけである。返品なんてしねーケド。と榛名くんは言ったが、わかったもんじゃない。理想との差異がなければそんなセリフは出てこないハズなのだから。
それにしても、少し傷付いてしまった、というのは、なんだかマズい傾向な気がする。何が美味しくないのかはわからないけれど、美味しいところがない感じだ。
「ね、ミー太」
「……なれねーなソレ。なんだよ?」
「なんでもない」
繋いだ手が今更照れ臭くなったから、離していい?なんて、逆に恥ずかしい為、言えるわけもなく、私は少しだけ勝手に手を緩めた。途端に強く握り返されて、今のところは愛されてるなあって。
愛されなくなるのが不安なら、大人しくしてればいいことくらいわかっている癖に、私は器用ではあっても大雑把だから丁寧な贔屓が出来なくて困る。
とりあえず家に帰ったら落ち着く為にも孝介に電話して自慢してやろう。
アイツは絶対に彼女なんていないだろうから。
2011/05/07