身近にある幸せ


「大体なあ! オレ見殺しとか言ったか?」

「言った。見捨てるとか見殺しとか、見捨てないとか押し付けないとか」

「普通にずっと傍にいろって風にとれねーわけ?」

「言い方が病んでんの。バカだよね。榛名くんバカだよね」

「そういや元希って呼べよ」

「どの口が言うわけ?」

榛名くんと自転車で二人乗りしながら、私は自宅の近辺を巡回していた。お母さんもお兄ちゃんも、仕事から帰ってきたお父さんもミー太を探してくれている。

こんな家族だから、きっとあの子も助けられたよね。なんて今更だから、私は今のことを考えようと思う。

「あの子頭が良いから、帰ってこないってやっぱり何かあったのかも」

「あのな。悪い想像ばっかすんなっつの」

「悪い想像しておく方が意外と大丈夫だったりすんの」

「あっそ」

ミー太がいなくなったのは、お昼頃の事。お母さんが昼間、玄関先で長話していたら、お母さんの横をすり抜けて出て行ってしまったらしい。

しばらくは弟に留守番を任せて、お母さん一人で自宅の周辺をしばらく探し、近所の公園やら、あの子を拾った場所まで行ったとか。

それでも見つからず、私が彼氏に会いに行っているということを考慮して、帰って来てから話そうと、私の帰りを待っていたら、私より先に幸宏さん、もとい、お兄ちゃんが仕事から帰って来て、彼がお母さんに、あんま時間経ってから言うとアイツ怒るぞ。と助言をしたらしい。幸宏さんは流石私のお兄ちゃんだ。よくわかっている。

まあ、幸宏さんはお母さんの再婚により、昨年出来たばかりのお兄ちゃんだから、あまり流石って感じはしないけど。

むしろ凄いって感じ。

「つーか、このスピードで探せんのかよ。相手は猫だろ」

「いや、お母さんさがしてんの」

「は?」

「確認事項があって」

「携帯で訊けば?」

「あの人、うちに携帯置いてきてるみたい」

「携帯の意味ねーだろソレ」

「それだけ焦ってるんでしょ。まあ、あの人の返答によってはその焦りも全部無駄になるかもだけど」

「無駄って、なんでだよ」

「榛名くんって、小さい頃、ゲームしちゃダメって言われて、外に行くのもダメで、一人で留守番頼まれたときどうしてた?」

「は?」

「まさかとは思うけど、宿題なんかやってなかったよね?だってこれだけ大きくなったのに、ちはるさんに世話お願いされちゃうくらいだし」

「なんの話だよ。失礼なヤツだな」

「確認した方が早いね。もううちに向かってくれて構わないよ」

榛名くん。あの頭のいいミー太が帰ってこないってことは、間違いなく何かあったってことなんだよ。

だから、榛名くんの言うとおり何もなかったんだとしたら、あの子がいるところなんて決まっているじゃないか。


私の自宅マンションに着く。榛名くんを連れて、うちの前に向かうと、当たり前みたいにうちの玄関のドア恥ずかしげもなく全開になっていた。

この緊急事態に留守番を頼む理由なんて、どうしても誰かが家にに残らなければならない事情がない限り、ないに決まってる。そうでなければ皆で探すだろう。

弟がうちで留守番している理由は、頭のいいミー太が自分で帰ってきたときの連絡役。お母さん携帯忘れてたけどね。あの人抜けてるから。

そんなわけで、家の中に用のある私は榛名くんと共にうちにあがった。榛名くんは少しあがりにくそうにしていたが、私が『上がって』と一言声を掛けるとすぐに私の後をついて来た。悪いけどやっぱりミー太にそっくりだ。

「ここが私の部屋」

「おお」

「ご覧の通り、ドアが開いています。私はちゃんと閉めて行ったはずなのに」

「そうだな」

「しかも、何故か隙間が開いてるだけ」

もう一度言うけど。親バカかもしれないけど。うちの子は頭が良いのだ。

ドアくらい普通に開ける。つまり、ミー太はこの中にいる。

お母さんは抜けてるし。お父さんもお兄ちゃんも弟も勝手に私の部屋には入んないから、だから誰も気付かなかったのだろう。

「ミー太ぁー、いるー?」

「なんかすげー微妙な気分になるな。それ」

声を掛けながら部屋に入ると、ベッドの下から鳴き声が聞こえた。ほうら、やっぱり。そう思ったけれど、安心で目が潤む。

「流石は飼い主だな」

「というか、家族だからね」

「つーか弟はなんで気付かなかったんだよ?確か留守番してたんだろ?」

「寝てたのよ。ほら、夏休みの凄く暑い日。宿題はやりたくないけど、やらないと外で遊んじゃいけないし、ゲームもダメって言われて。しかもお母さんに留守番なんか頼まれちゃって、そんだけつまらなかったらもう寝るしかないでしょ?榛名くんも小さい頃寝ちゃってたんじゃない?」

「つーか元希な」

「だから、どの口が言うのそれ」

「うっせ、ていうかなんだよ。弟は猫心配じゃなかったわけ?」

「そりゃ、最初は心配してたと思うよ? でも心配だろうが、探しにいけなかったら退屈で寝ちゃったとしても全然おかしくないでしょ」

「本当、よくわかるよな」

「家族だからね」

なんか疲れた。そう言って榛名くんに抱き付けば、榛名くんは頭をポンポンと撫でてくれた。

本当なら試合や練習の後である榛名くんの方が疲れているに決まっているのに、こんなくだらない結末に付き合わせて悪かったかもしれない。

「泣かなくていいのかよ」

「ちょっとうるって来たけど、ミー太生きてたし。泣く必要ないじゃない」

「またオマエが泣くの見損ねちまったな」

「死ぬまで一緒に居ればその内見れるよ。それとも今度一緒に感動モノの映画でも観に行く?」

抱き合ったままそんな会話をしていると、猫以外の視線を感じた。

僅かに開いたドアの隙間から、弟がこちらを見ている。全く、これだから小学生は。

「……あんたね。こんな時間に寝てたら夜寝れなくて明日朝起きらんないでしょ?お母さんに言うからね」

「いや、誰と話してんだよオマエ」

「じゃあおれ、ねーちゃんがオトコといちゃついてたって言う」

「勝手に言えばいいでしょ」

「いや、それはオレがすげー困ンだけど」

「大丈夫。うちは放任主義だから」

そう言って榛名くんから離れて、ミー太を抱き上げる。柔らかい。というより、気持ち悪いくらいぐにゃぐにゃした猫の身体が私は好きだ。

「じゃ、巻き込んじゃったし、家まで送りますよ。はる、あー、元希くん?でいいの?」

「いきなり呼ぶなよビックリすンだろ。つーか、イラネーよ、女に送られてたまるかっつの」

「そう呼べって言ったのは元希くんなのに……。イラネーじゃないの。ほら良いから行くよ」

ミー太を弟に任せてうちを出た。自転車を押しながらだらだらと私の後ろを歩く元希くんが、なにか大きめの声でごにょごにょ言ってるけど無視。

だって人には言うくせにアレなんだもの。

「だーかーらぁ!待てっつってんだろちか子!何度言ったら止まンだよ!」

「そ、それでいいの、それで。わかってる癖に」

少し立ち止まって、私に追い付いてきた元希くんと並んで歩く。

ここからが始まりだとか、そういうことは言わない。いつだったかの冗談の通り、私は多分元希くんとこうするためにあの学校を選んだんだろう。

産まれてきたときから、きっとそう。私は今の為に生きてきた。そして、未来の為に今を生きるのだ。なんてね、冗談だけはやめらんないわ。

「あ、そういや話変わっけど、オマエ兄ちゃんなんていたんだな」

「……あーのさ、元希くん。そういう余計なこと言わない方がいいよ?」

さて、では問題です。この話はドロドロ系というのがテーマなわけだけど、続きはあるでしょうか。

見事正解された先着三名様にはフリーリクエストの権限をプレゼント!ってのが、なんのなのかはさっぱりわからないし、まあ、そんなの言うまでもないから、冗談なんだけどね。

私達は生きてるから。話は死ぬまで続きますよ。



2011/07/28
一応完結です。いつも通り一応。きっとまた続編書きます。お兄ちゃんの話書きますよ。泉とももっと絡ませたいし、浜田をあまり出せなくてつまらなかったし。
しかし予定は未定。
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