- 私と夏と八回の裏
土曜日の午後。ミー太との試験勉強だ。
もう七月に入ったのでかなり暑い。
これじゃあ、別にミー太を誘惑する予定がなくても露出度が高くなるというものだ。
「今日も誰もいないの?」
「いる日なら呼ばねーし」
お邪魔しまーす。と一応言って、あがらせてもらう。
ミー太の部屋は二度目だ。嫌なことを思い出したりもするけど、今日は気にしないで置こうと思う。まあ、今日も来たらどうしよう。とか、考えちゃったりはしますが。
「今日はちゃんと彼女来るからアイツは呼ぶなっつっといた」
「彼女来るとは言っちゃったのか」
普通のカップルでも言うのかな。わからん。ていうか、お家の人がいないときしか呼ばないって隠したいわけじゃないのか。いや、彼女とデートとは言うとか言ってたけど。
「とりあえず何からにする?月曜日は数学あったよね。数学なら教えられるし数学でいい?」
「つーか、月曜は英語もあっけどオマエ大丈夫なわけ?」
テーブルに数学のノートと教科書を出していると、ミー太が痛いところをついてきた。ちか子に六十九のダメージ!そういえばヒットポイントあがったんだよね。七十になった。つまり瀕死。
「まー、多分。最近はミー太がいるから学校来てるし。」
「最近サボらねーのはオレに会いたいからなわけ?」
「うるさい。とにかく今日は勉強なの勉強。」
「自分で言った癖に照れるなっつの」
そんな感じで試験勉強が始まり、三十分後。私とミー太はあっと言う間に勉強に飽きて、休憩をとることになった。
だって意外とわからないところがなかったんだもの。わからないところがわからないわけじゃないよ。ミー太も私もそんなに頭のレベルは低くない。恋愛レベルはむちゃくちゃ低いけど。
「お家の人、いつ帰ってくるの?」
「今日親父が休みだから車で買い物行ってんだよなー。確か八時には帰るっつってた」
「遅くない?」
「彼女来るっつったら、なんか夕飯も外で食うって」
ミー太さんミー太さん。それ完全に気を使われてるよ。
「まあいいけどね」
「何がだよ」
「ベツにー」
ミー太が出してくれたオレンジジュースを飲む。青い模様のついたグラスは涼しげで、今の時期に丁度良い。
これならちょっとミー太とベタベタしても、そんなに暑く感じないかもしれない。氷のようにあっという間にとける冗談だけど。暑い時は暑い。グラスじゃ変わらない。
「あーそういや」
「なに?」
「試合観に来るとき、ちゃんと熱中症対策してこいよ。あぶねーから」
ミー太が私の身体を案じてくれた。もうお前だけの身体じゃないんだからな。的な。身ごもってないけど。そういう行為すらまだだけど。とどのつまり激しく冗談なのでした。
「お前、結構華奢だし」
「そこは否定しよう。筋肉じゃなく贅肉ばかりついているだけさ」
「贅肉ねー……どこにンなもん」
「胸見るなバカ!そこにはついてない!」
言ってて泣けてくる。ミー太の巨乳好きー!
「見てねーよ」
「嘘だ」
「つーか腹にもついてねーじゃん」
「さり気に"も"って言ったよね。やっぱ胸見てたんじゃん!」
私のその指摘に、ミー太は誤魔化すように、「じゃあそろそろまた勉強はじめっか。」と話題を変えた。
「ミー太のバーカ」
「次英語な」
「そう来るか」
うん。普通に出来てる。いつもみたいにベタベタいちゃいちゃも楽しいけど、こうやって落ち着いて会話するのもいいかもしれない。
「わかんねーなら授業中寝んなよ」
「わかんないから寝るんですぅ」
向かい側に座っていたミー太が私の隣に移動する。
私が、先生の用意してくれた試験対策プリントに手をつけはじめると、バカにしながらも教えてくれた。その教え方はお世辞にも上手とは言えなかったけれど、っていうか、いつもあんなにくっついてるのに、今日はなんだかドキドキしちゃって勉強どころじゃないんだけど。
とにかく何やら幸せだった。
「あ、そうだミー太、甲子園行くんでしょ?」
「おお」
「私、七月中だけ知り合いんとこでバイトすることにしたんだ。めちゃくちゃ入る代わりに、七月末には給料先払いしてくれるらしいから」
「は?え?」
「だから、お金はなんとかなるし、甲子園も見に行けるよ。その代わり、七月は、最初の試合と、あと、準決でARCだよね?と、あと決勝くらいしか行けないけど。」
こんな台詞、プレッシャーにしかならないかもしれない。
それでもミー太が、嬉しそうに自信満々に笑ってくれるから。
「なんつーか、サンキューな」
私はただ、その笑顔を信じよう。
夜の六時。所謂十八時ちょっと前。ミー太がいきなり私を押し倒した。
いや、まあ、そう言えばそんな話をした気はするけど。するけど。なんにせよいきなりだった。
だって私は比較的真面目に勉強してたよ。たまにふざけたりはしたけど、しかし男の子の部屋なら仕方ないのかな。
私は、ほら、嬉しいことに彼女だし。
「ねー、あのさ」
「なんだよ」
ヤる前から緊張で顔真っ赤って、ミー太は可愛いなあ。
「もしかして、榛名って呼んだ方がいい?」
「それ普通、オレが言うことじゃねーの?」
そうなのか知らなかった。ていうか、男の子って意外とロマンチストかも。
とかなんとか考えて、私は緊張を紛らわした。いや、全然紛らわせなかったけど。だってミー太の雰囲気がなんかエロい。
ミー太の背中に腕を回して、ぎゅっと抱きしめれば、彼は私の首筋にキスを落として耳元で囁く。
「榛名じゃなく元希って呼べ」
「なんか、それは照れる」
「オマエ可愛すぎ」
ここからは成年指定になっちゃうからカットな方向で。私そんな描写出来ないし。と、何からかはわからないが、私は逃げさせてもらおうと思う。
夏大まではあと十日をきっている。
2011/07/03