Mrs.エマーソンの気まぐれ


Mrs.エマーソンこと石神井さんとミー太がお付き合いしていたのは、例のオーバーユースの件の前だったらしい。

彼女が中学を卒業する前。ミー太は彼女に確認をした。二人は小さな頃から仲良くしていて、学校公認のカップルのようになっていたから、ミー太は、「オレ達付き合ってンだよな?」と告白のような確認をしたわけだ。

石神井さんは頷いた。しかし、彼女は、高校に入って直ぐにミー太をフって、二人のお付き合いは終了。

半月板を損傷して、ミー太がくさってても、シニアに行こうが、同じ高校を選ぼうが、彼女はミー太を放置した。見捨てた。

話だけならサラッと流せるような簡単な話だが、時折入るセリフの再現を聞いてると、ミー太が本当に彼女の事を引きずってた事がわかり、その度に私はグラスの半分、ジュースを消失させた。

怪我の報告をしたミー太に、災難だったねえ。としか言わなかった彼女も、シニアの試合を見に来てくれと言ったミー太に、気が向いたら行くぜ。と適当な返事をした彼女も、武蔵野第一に行ってもいいかわざわざ確認したミー太に、好きにしたら良い。と言った彼女も、腹が立つくらいミー太に愛されてて、ミー太は趣味が悪いとつくづく思ってしまった。

多分、下手に優しくした方が引きずるってのもわかってて、石神井さんはわざとミー太に冷たくしていたんだと思う。

しつこかったのはミー太で、多分ミー太が私を大好きなのも、こだわるのも、生来のもので、原因はなかったわけだ。

スッキリしたけど、黒い感情が私の中に渦巻く。

私は、石神井さんに嫉妬しているらしい。

「元希、恥ずかしいんだよ。私にベッタリだったのが。だからこないだもふざけんなって言ったんだと思うよ。怪我したことより暗くもなんともない、ただの黒歴史を彼女である野村さんに聞かれたくなかったんだろうね」

「Mrs.エマーソンは、」

「あはは、もうちはるさんでいいよ」

「ちはるさんは、今の彼氏さんとはうまくやれてるんですか?」

「いや、ぜんっぜん。まあ元希んときよりはうまくやれてるけどさ、相変わらず下手くそでね。でもさ、恋愛には上手も下手もあるけど、下手でも続けられるんだよ。下手の横好きってやつ?勿論冗談だけど」

納得しかけたのが恥ずかしくなるくらいあっさりと彼女は自分のセリフを否定した。

彼女をかっこいいとは思えないが、嫌いでは無くなったかもしれない。

「ま、君は私よりは上手だよ。私に嫉妬出来るのは健全に素敵な恋をしてる証拠だしね」

「アナタに褒められても嬉しくないです」

「珍しくはっきり噛みついてきたね。それでこそ年下だ。ちなみに褒めたつもりはないよ。上手な方が飽きやすいだろ?ゲームだって、難易度が高いから、つまるところ、最初からは上手くいかないから楽しいわけだし」

じゃ、好きなだけ飲んでお帰りなさい。と、彼女はお代をテーブルに置く。

止める理由も無いので、私は手を振って彼女を見送った。

時計を見てみれば、あと少しでミー太の部活が終わる時間だ。あとちょっとゆっくりして、学校に行けばミー太に会えるだろう。

そんなにめちゃくちゃ会いたいわけではないけど、少しは会いたかったから、私はミー太に会いに行くことにした。



ってあれ?ちょっと待て。私それでいいの?ミー太が悪いって結論でいいの?ちはるさんの言うことを全部信じるの?

ちはるさんは、そんなにあっさりミー太をフった?逆じゃないのか。私は思い違いしてる。ちはるさんのように見捨てないで見殺しにしてくれるから私。なんじゃなく、ちはるさんのように見殺しにしてくれるから私なんだとしたら、重ねられてたら。

だってちはるさんは、ミー太が一人だと知っててあの日家に来たじゃないか。全然冷たくない。ミー太は私でいいやって妥協したんじゃないの?

だとしたら、だとしたらだとしたら

「ちはるさん、待って貰えませんか。話、まだ終わってませんよね」

「うん?何?」

私は咄嗟に席を立ち、店を出ようとしたちはるさんの肩を掴んで引き止める。

「足りない言葉があるはずです」

だって、ミー太は、よっぽど見込みが無ければさっさと諦めるだろう。

そんな女々しいヤツじゃ、ない。

「ふむ、災難だったねえ。って言って、元希を抱きしめただろって話しをしたいのかな?」

「へえ」

「それとも、気が向いたらって言って、ほぼ毎試合見に行った話をしたいのか、もしくは」

「もしくは?」

「好きにすれば良い。けど、来てくれると嬉しいって言った話を聞きたいの?」

嫌いでは無くなったかもって前言を撤回しよう。私はここまでタチ悪くないし、流石にこの女と自分が似てるとは思いたくない。

「あなた、ミー太をどうしたいんですか?」

「よくぞ聞いてくれました!言ったよね?私は元希の半分が嫌いなんだよ。つまり、」

「ミー太を傷付ける人を私は許しません。」

ミー太には誰よりも幸せになって欲しいのだ。というのは、恥ずかしいので冗談ってことにするけど。

ミー太には不幸になって欲しくないのは、本当だから。

「じゃあ、勝負しようか。君が勝てば、私は元希に今後一切手を出しません。で、私が勝ったら」

「アナタが勝ったら?」

「君、元希を酷いやり方でフってくれる?」



2011/06/15
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