- 御機嫌如何?恋敵様
「アンタ、もしかして元希の新しい彼女?」
「そうですけど、えと、どちら様ですか?」
「かつてそうだった女って言えばわかる?」
ミー太には元カノがいる。というのは以前チラリと聞いていたから知っていたけど、それがこんなに素敵な人だったとは聞いていない。嘘だけど。冗談なんてやわらかい言い方しないから。全力で皮肉です。ミー太ってば趣味が悪い。のは私を選んだ時点で明らかになってたよね。いや失敬。
いやだってこの人の回りくどさ私にそっくりだもんね。絶対性格悪いよ。
「しっかしまた、ふーん」
一方的にじろじろ見られるのは気分が悪いので私もペロペロと彼女を見てやる。舐め回すようにってことです。皆様わかりましたでしょうか?
ちなみにここは初めて来たミー太の家のミー太の部屋だったりする。結局まだミー太(三)にミー太(二)を紹介出来てないんだけど、それは私の記憶の障害が取り払われてからにしようと思う。
「相変わらず、元希趣味わっる」
同意見キター!えへへ。顔文字使えないんだ勘弁してね。
ということはやはり彼女も私を自分と同類だと判断したのだろうか。つまり、嫌悪感があるというわけだ。同族嫌悪ってのが強いタチだからね、私達なんて言い方したくないけど、私達みたいなのは。
「ていうかペロペロ見ないでくれる?」
ネタまで被せてくるかこのならず者。ならず者の意味はわからないから適当に使ってみました。今日の私はいつもの三倍適当です。
「あ、ちなみに今のは舐め」
「わかるので結構です。み、榛名くんの元カノさん」
「私には夕暮時雨という名前がある。」
間違いなく冗談だ!何そのアレな名前!中二風味なラノベに登場しそうなんですが!
「本当はなんなんですか?」
「初対面の人にそんな冷静な返事をされてしまうなんて私とした事が。榛名ちはるです。以後お見知りおきを」
まさかの家族だと?それなら悪い印象を与えるわけにはいかないじゃないか!いや、冗談だけど。きっとヤツのも冗談だけど。
ミー太いい加減に秋丸くんとこから帰って来てくれないかな。卒業アルバム探しにどこまで行ってんだよ。そしてちはるさん(仮)はどうやってここに入ったんだろう。鍵開けっ放しで行ったのかな。鍵かける音したと思うけど、というか、鍵開ける音、したよね。
「ええと」
玄関のドアが開く音がした。ミー太が帰って来たのだと思う。廊下を歩く足音が近付いてきて、立ち止まる。多分部屋のドアが開いてるのを不思議に思っているのだろう。ダーリンの行動は手に取るようにわかるのだ。
「あ、元希おかえ、りたっ」
痛いとおかえりが合体しましたな。ミー太の結構痛いツッコミ炸裂である。
「何してンだよてめーはっ!」
「なーによ。おばさんが元希一人で留守番させるのが心配だからって気を利かせてくれたんじゃないの」
「うぜえ。死ぬほどうぜえ。」
「ならさっさと死んでくるように。骨は拾ってやるぜダーリン」
「ダーリンじゃねえ!今すぐ帰れ!」
「しっかし。親が不在の時に可愛い彼女連れ込むなんてなかなかやるじゃないの。」
さっき趣味悪いって言ったのどこのどいつだよ。そして貴様の本名はなんだ。早く名を名乗れー!私も名乗ってないけど。
「野村悪い。こいつちょっと頭おかしいンだよ」
その人を頭おかしいと評価するなら、私の頭も同じように評価していることになるわけだがまあいいや。
「へえ、野村さんって言うんだ。名字みたいな名前だね!」
「ちはるてっめ!帰れっつの!」
なんだよその、私は名前で呼ばれてるのにアンタ名字なんだ?みたいな嫌みは!私をこんなにイライラさせる人間に出会ったのは初めてだ。
というか、名前の方はあっているのか。問題は名字なんだけど。な。
「榛名くん。いいよ、私は大丈夫だから」
「いや、絶対大丈夫じゃねーだろ。相当不機嫌そうな顔してんぞお前」
「彼女さんも大丈夫って言ってるんだし私なんか気にしないでいちゃついてなよ。私はお夕飯の準備に取り掛かるザマスから。お母さんのようにたまに様子を伺いに来てあげるザマス」
「お前は本気で帰れ」
ミー太はそう言って、ちはるさんを避けるように部屋に入り、私の隣に座る。
そして借りてきた小中学校の卒業アルバムをテーブルに置いた。
「もーときぃ?私をあんまり蔑ろにするとどうなるかな?」
「どうなるんだよ。しらねーよ」
「昔話するぞー」
わかりやすい脅しに、ミー太の肩がビクンと反応した。ついでに私の耳も反応。
私はミー太の"昔"を全く知らないからそれが知りたくて。卒業アルバムを見せてもらおうとしてる。
ミー太が私に拘るわけもミー太が話してくれない"昔"にある気がしたから。
でも、こんなにあっさりとアルバムを見せてくれるということは、この中にその重要なことは含まれていないわけで。
きっと、ちはるさんはそれを知っている。
「ふざけんなよ」
私の知らないミー太がいる。私はこんなに不愉快そうなミー太を見たことがない。
「ふざけてないよ。私は冗談が嫌いなんだから」
それこそ冗談だろうが。心の中にツッコミを入れる。
「まあ、帰るけどさ。彼女さんにくらい昔話してあげればいいのに。」
嫌らしい笑みを浮かべてそう言って、去っていく彼女。雰囲気最悪状態のまま放置されて、ミー太が困ったように黙っているものだから、私はその左腕に抱き付いた。
「ミー太」
「悪い、んと、アイツいつも」
「私、ミー太が好きだから、何があっても嫌いにならない自信はあるんだ。無理に話せとは言わないけど、言いたくなったらなんでも言ってね」なんて気の利いたセリフは言えないのだった。代わりにこれ。
「ちゅーしようか」
その一言で、雰囲気"まで"流しちゃうミー太が私は大好きだ。だから、話せとは言わないけど、言うまで待つ気はない。
あの女の存在によって、待つ気は全くなくなった。本人の口から聞くなんて平和に考えてた自分はアホだ。
情報は、そう、奪い取るものなのです。
2011/06/12