- 私のルーツをご紹介
榛名くんと孝介が話してる。私の寝てるベンチの前で。
私は起きてないけど、何故か見える。だから多分夢。
「アイツが恋愛とか理解出来なくなったのは、オレのせいなんですよ」
違う。私は勝手にそうなっただけ。
孝介のせいなんかじゃないよ。孝介の私に対する嫌いが本当だって私はわかってたの。
強引に繋ぎ止めたのは私。
独りが怖かったから、巻き込んだ。
友達を階段から突き落としたのは私だ。理由は孝介にかっこいいって言ったから。
「だから責任をもって、別れてもらおうと思って、見せ付けるようにキスしました。でも言った方が早いですよね。アイツと別れて貰えません?」
それで、コイツの頭がパンクするとは思わなかったけど。孝介が苦笑する。
そんな顔させたくないのに体は動かない。起きても意味はない。
「別れねーっつの。つーかバッカじゃねーの、必要ねえんだよそんなん」
榛名くんが、そう言って馴れ馴れしく孝介を小突く。
夢だから、きっと二人がこんな風に普通に話してるんだ。
「アイツはちゃんとオレを好きだ」
そうなの、好き。好きだよ。私の口から言わなきゃ。
言わないといけない、伝えたい。
「お前が責任取る必要も、キスする必要もねー。だから、人のオンナに二度と手ェ出すな」
「……"話に聞いてたより"アナタがいい人そうで安心しました。アイツ、ちょっと変だけど、まあよろしくお願いします」
私、話なんてしてないんだけどな。誰から聞いたんだろ。どんな話を聞いたんだろう。私も聞きたいなあ。
私は榛名くんが好きだから、どんな情報でも知りたいのだ。なーんて。
そんなの、なんの価値もない冗談だけど。
知りたいことは本人から聞けばいいから。
孝介が居なくなったので、私はベンチから身体を起こす。榛名くんが私に笑いかけてくれた。
「大丈夫か?」
それから榛名くんは、ベンチの前で屈んで、心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「大丈夫だよ。もう平気」
そう答えれば、ゆっくりと私達の距離が縮まっていく。全く、ヤキモチ妬きなんだから。
唇が重なった。孝介とのキスを拭うかのように、押し付けられる唇。乱暴だけど不快感はない。
何度も何度も重ねられる唇に、幸せな酸欠状態。でもこのまま死ぬのは嫌です。私、榛名くんともっと幸せになりたい。
「榛名くん、どうしよ私」
「あ?なんだよ」
「なんかもう壊れちゃいそう」
抱き締められたのが、ちゃんと嬉しかった。のが嬉しかった。
「勝手に壊れんなバカ。」
「うん、じゃあ耐える。それで、あのね、話、聞いてくれる?」
榛名くんが身体を離して、私の隣に座った。真剣な顔をしていて、不謹慎かもしれないが、とてもかっこよかった。
「話してくれんなら、聞く。アイツとの話なんだろ?」
大切な事だから、聞いて欲しくて。だから頷く。
話したら、榛名くんも大切な事を話してくれかもしれない。そんな、思惑もあって。
嫌われるかもしれない。そんな不安ももちろんあった。
でも、榛名くんが聞くと言ってくれたから、私はゆっくりと言葉を紡ぎ出す。物語を聞かせるように。
これは、昔々のお話です。
あるところに、とても仲の良い男の子と女の子がいました。
「好きだ」
その日、孝介が私に好きと言ってくれた。私が小学五年生のときのことで、孝介は四年生だった。
孝介の一番は私で、私の一番は孝介で、その告白は、当然だったし、私は幸せで、とても満足感を覚えた。
そして、その翌日のこと。孝介のグローブが盗まれた。
盗んだのはうちのクラスの女の子。彼女は私の親友で、彼女は孝介が好きだった。好きだったから欲しくなったらしい。とても後悔していたから、私はその子も大切だったので、代わりに犯人になってあげることにした。
偽善者で馬鹿だったのだ。私は。
そして、孝介が私を嫌いになった。
なのに、犯人を先生に報告せず、グローブは家で見つかったと嘘をついた孝介は、一体何を考えていたんだろう。私にはわからなかった。
暫くして、私は自分で罪をかぶった癖に、孝介と何食わぬ顔で仲良しを続けている彼女に腹が立った。だから階段から彼女を突き落とした。
これが冗談なら良かったんだけど。
それの犯人は明らかに私だったから、避けられて独りになって、私は、お母さんが周りから変な目で見られるようになってしまったので、悪いことをしたなあ、と思ったりした。
孝介もこれに乗じてグローブの件も五年生の野村さんがやったとか言えば良かったのに、それでも孝介は何も言わなくて。私はだから、全部良くわからなくなって、嫌がらせに孝介にキスをした。
ああ、いや、違うか。嫌がらせじゃなくて、私は良くわからないのが嫌だったから、確実に孝介に嫌われようとしたんだ。多分。
で、孝介に突き飛ばされて花壇の角で頭を打って、記憶が飛んだ。都合の良いことすら覚えておらず。
病院で目が覚めた私に、嘘を教えたのは、孝介だった。
2011/06/06