- 愛情がキャパシティを超える
問題は、私には、その一つ以外ミー……榛名くんの悪いところがわからないということだ。
まずはそれを見つけなければならない。
榛名くんは野球以外では特に出来た人というわけではないし、オレサマだし、性格はお世辞にも良いとは言えない上に、見た目からして高圧的ではあるが、悪いところはこれといって見当たらない。ちなみにこれが欠点に目を瞑った結果である。
榛名くんは、まずオレサマだ。それはもう、お前は何様だってくらいオレサマなのである。
あまりにも当然のようにそう振る舞うので、こちらもそれを当たり前として受け止めてしまい、欠点として感じた事はないが、これは確かに欠点かもしれない。
しかし、浅倉が言いたいのは、そういう話じゃないんだろう。私が本当に許せないくらい許し難い、嫌なとこ。多分、そういうのが必要なのだと思う。
強いて言うなら、私を好きすぎるとこがそれに該当して、他には何かあっただろうか。
彼と過ごしてきた中で、私はもしかすると、嫌だと感じられる程の強い感情を榛名くんに抱いて来なかったのかもしれない。
私は、榛名くんを好きではなくとも、嫌いたくなかったから。
わざと、感情を荒立てないようにして、喧嘩を避けたり。
ああ、そうか。
でも、それなら、私はとっくに榛名くんが好きだったんだ。
だって榛名くんの嫌なとこを本当はいくつでも挙げられる。
それを知った上で、私はそれに目を瞑ってた。
好きなところも、今ならちゃんと言えるのに。
その日、こうすけがわたしにキスをした。
猫を埋めた公園。思い出の場所。
榛名くんと待ち合わせしてた。ミー太に会わせるって、コンビニ行くついでに迎えに行くねって。
小さい頃、二人で遊んだその公園で、孝介は。
あの日も、今日も私を嫌いだと言って。
キライダトイッテ?
イッテイッテいって言って言った言わないで言わナイデだからエエええええうういやああ、あ、ああ、あれ?嫌?嫌嫌?嫌イヤイイイヤイヤヤアアアイヤイヤ厭厭厭厭厭否ヤダヤダヤダヤダ嫌わないで嫌われたくない嫌いたくないだって私は、ワタシ、は、みんなみんなみんなみんな好きミー太ミー太ミー太?ダレ?ああ、こうすけ、何が何でどうして誰がどうでミー太で孝介がそうで、だからぁ
あれ?それで、えぇと、トラウマはなんだっけ?
浜田くんと上手くやれなかったことだっけ?
浜田くんと付き合って孝介が離れていってショックだったことだっけ?
早く早く原点に回帰しなくちゃ、最初の最初の最初の最初。初めて始めたのは、誰。
私の友達の何かを隠したのは誰
机に落書き、人殺し、学校に来るな、幼い独占欲、抑えられないのは誰
あのひもキスした
好きだって言ったのに、嫌いって言って、誰も信用するなって、あれ?私が一番信用しちゃダメだったのは誰?
あれは、こーすけが、いったんだ
泣そうな顔で。孝介が言った。
上手く出来ないのは、私じゃなかった。
小学校の階段から私の友達を突き落としたのは孝介で、それは私のせいになって、私は次の日から独りになった。あれ?孝介は嬉しそうだった?
小さい頃から、孝介はちゃんと自分の歪みを伝えようとしてくれてた、自分を信用するなって。
もたれて勝手に依存したのは私。
あの日、キスしたのは、私から。
ユガんだままアイしてってシバりつけたのはワタシ
でもあれ?
ナニカガチガウ
「 」
名前を呼んだら、駆け寄って来てくれた。抱き締めてくれた。
全身から力が抜けた。私が崩れるみたいに倒れそうになるのを彼は支えてくれた。
本当、犬じゃ無いんだからさ。ミー太は、猫のハズなんだけど。
頭が破裂しそうな程痛いから、私は眠る事にした。
だから私は、私の知らないお話をする
2011/06/06