嫌悪感にコンニチハ


人を好きになるにはどうすればいいと思う?

親友の浅倉に聞いてみた。

浅倉は、剣道部に所属している女子で、学年で五本の指に入るような美人だ。ただ、剣道は上手くて顔は良いのに何故だか頭はあまり良くない。お約束とはいかないのである。

「何故そんなことを僕に訊くんだい?」

彼女の変な喋り方にも私はもう慣れた。が、もちろんこのスマイル無料という太っ腹なお店の私達以外のお客さんがそれになれているわけもなく、美人な上にスタイル抜群でまるでモデルのように見える彼女をこそこそと盗み見ていた男共は驚いたような顔をしていた。

「浅倉、彼氏いるじゃん」

そうなのです。実は浅倉さんには彼氏がいるのです。

しかも付き合い初めてもう三年経つという、模範的な長寿カップルなのであった。お付き合いを長続きさせる秘訣を是非とも教えて頂きたい。

「雅紀のことか」

「いや、名前は覚えていないが、多分雅紀のことだ」

喋り方が移った。

「しかし、僕が雅紀を好きになったのは、別に雅紀を好きになろうとしたからではないからな」

「ふむ。それでは参考にならぬかも知れぬが、とりあえず、最近彼を好きだと実感した時を教えてくれぬか」

移るというか改悪するのが私だった。もう何時代の喋り方だよ。みたいになっている。

「実感するのは雅紀と喧嘩した後かな。あくまでも僕はだが」

「して、如何様な理由で?」

「喧嘩すると、まず雅紀の嫌なところが嫌になる。だが、喧嘩して仲直りした後はその嫌なところも愛しく思えるのだ。そして改めて雅紀が好きなんだと実感する」

ラブラブキーワード、その一『痴話喧嘩』

勉強になるな。頭の中の恋愛ノートにメモしておこう。と思ったけど、私恋愛ノート購入するの忘れてたんだった。冗談だけど。

「ちか子ちゃん」

「なんだね浅倉殿」

「君は、榛名くんの嫌なところを言えるのかい?」

好きなところを言えというのも難しい話だけれど、嫌なところというのもなかなかハードルの高い質問である。私は誤魔化すようにポテトに口をつけた。

「嫌なところがわからなきゃ、好きになれない?」

ポテトを飲み込んで、そう訊ねてみる。

浅倉はあっさりと頷いた。

「人を愛するのは簡単だよ。嫌なところには目を瞑ればいい」

それは、なんとなくわかる。私のミー太への愛は、そういうことだ。

「好きを理解するにはね、その人への感情から、ちゃんと理解した上で負の感情を取り払ってみなきゃならないんだよ。嫌なところごと愛するのは、そうやって好きなところを理解してからじゃなきゃ出来ない。あくまで、僕の個人的な考えだけれどね」

浅倉が、頬杖をついて優しく笑った。女の子らしい仕草だ。雅紀って人は、きっと彼女のこういう仕草にときめくのだろう。

私が頬杖をついたところで、こんなオーラは醸し出せないのだろう。とその悲しい事実に、私は心の内部で、浅倉を羨んだり妬んだり、最終的には苦笑いするしかなくて、私はその私にお面を被せてあげることにした。ちなみにひょっとこ。

「でも、嫌なところがわからない内は、まだ相手に入り込めてないとは思う。榛名くんに対して、何か一つくらいないのかい?」

「無いことはない」

本当に、一つだけ。心当たりがある。

ミー太の、私にとっての嫌なところ。

それはきっと、とても贅沢な気持ち。

「何が嫌なんだい?」

「ミー……じゃなく、榛名くんがね、なんだか私のこと好き過ぎるみたいで、」

彼自身に危うさすら感じるし、後ろめたさを感じるから、嫌だった。

「好き過ぎるのは、確かに良いことだけではないからね。」

必要だから好きじゃなくて、私は、好きだから必要と言って欲しいのかもしれない。必要がなくても好きでいて欲しいから。

私がどんどん、ミー太に対して欲張りになって行く。

「逆にね、ちか子ちゃん。彼に嫌われたくなくても、自分の嫌なところを見せてあげなきゃいけないよ。取り繕った嫌なところじゃなくて、君の奥の奥の部分にある悪いところをきっと彼は知りたがっている」

私の嫌なところ。生き物を平気で見殺しにするところ。いつも冗談で誤魔化すところ。独占欲が強いところ。要求ばかりなところ。

そして何より、ミー太を未だに好きになれていないところ。

ミー太をミー太と呼んでいる理由。

私はミー太の望む、見殺しすら、今はちゃんと出来ていない。

「ちか子ちゃんなら、出来るよ。僕が保証する」

「浅倉、ありがとう」

ミー太をミー太扱いするのはやめよう。彼は拾った猫じゃない。見殺しに出来ないくらい、私に懐いた猫じゃない。


だから私は、榛名くんを嫌ってみる事にした



2011/06/04
次辺りにヒロインの頭が壊れるから注意
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