愛情がロッカーに侵入


テスト明け。部活再開である。私とミー太はあれからもわりとうまく……いや、下手くそなりにお付き合いをしている。

あの翌日だって、ミー太の誕生日だったのもあり、図書館デートという名の勉強会をした。

ミー太は、学校で普通に明るく笑ってるし、友達と馬鹿やってるし、ああ、でも屈託なくはないことがわかった。誤解は一つ解けて、ミー太は私に対してなんの誤解もしてなかった。

まあ、それはさておき。さておきのさての意味を考えてみようか。

さて、さて、さて、つまり、さてと。とかのさてと同じような意味なのだろう。漢字は『扨』で同じだし。しかしそれではつまらないので、私なりにさておきに意味をつけてみようと思う。

あ"さ"っ"て"のほうこうにあった"お"話をこっちにもって"き"ましょう。で、どうだ。

さておき。と今までの話題を避けるわけではなく、寧ろ新しい話題をこちらに持ってくるという新たな考え方である。考えるだけでも無駄だった冗談だけど。

かんわきゅーだい

そもそも私が何故そんな無駄なことを考えているのかと言うと、ミー太に部活が終わるまで待ってろと命令され、野球部の部室で待たされていて、時間が有り余ってしまっているからなのであった。

部活に入っていない生徒は、部活終了時間の前に強制送還がうちの学校の鉄の掟なので、私は部室で先生達から隠れているわけなのだ。

時間が有り余ってるので脳内寄り道し放題!なんてしてると、話が進まないのでとりあえず私はミー太のロッカーを漁ることにした。

「さてさて、お宝はありますかねー、さてさてさてさて」

さてを乱用してみる。さておきじゃないから私流じゃないのであった。さてと。

ロッカーの数は、いーちにーいさーん……多くて数えるの面倒いな。とりあえずサクッと彼氏のロッカーだけ見ることにしよう。

ミー太のロッカーの中はぐちゃぐちゃだった。言うまでもなく。

ていうか、野球の道具は鞄の中だったり、倉庫だったりするのか、関係ないものしか入って無いし。教科書入ってるし。アイツ、オキベン禁止だからってここに隠してるんだな。朝学校来てから時間割り揃えるなんて、男の子は合理的だ。ちなみに私はオキベンしてます。先生の言うことは日本語じゃないと思うんだ。

「あと、ジャージと、体育着まで入ってるし、え、なんでサッカーボール入ってんの」

お前は何部なんだミー太。まあ、多分、休み時間かなんかに遊んでて倉庫に戻し忘れてってとこなんだろうけど。サッカー部は予算がいっぱいあるからボールが一個減るくらいへっちゃらなのである。

「壊れたスパイクをここに入れておく謎」

なんでとっておくんだ。捨てるべきでしょこれは。つかきたなっ!買ってから洗ってんのかな。私も靴は洗わないで壊れたら買い換えって感じだけど、スパイクって高いでしょ。そうはいかないでしょ。いや、洗ってんのかな。でも汚れ落ちなかった的な。いや、まあ靴洗ったことないから落ちる汚れとか落ちない汚れとかわからないんだけど。

「ちっ、えっちぃ雑誌はないか」

「なに人のロッカー見てンだよ」

「うおお!?ミー太!?」

後ろから不意打ちなのであった。今部室の扉開いた音したっけ?全く記憶にないのだが。

それもそのハズ。ミー太は部室の窓から私に声を掛けたのであった。一生の不覚である。一生の中で一番の不覚ではないし、一生覚えてられないだろうけど。ああ、だから、一生、覚えて、られない=不、で一生の不覚なのか。いや、不覚自体の意味が変わっちゃったけどね。気にしない気にしない。

「で、なんか面白いもんでもあったか?」

「いや、なんにも。てかこのサッカーボールどうしたの?」

「去年、サッカー部のレギュラーになれなかったどころか入部すら出来なかった奴が、やけくそになってした退学の記念にくれた」

「曰く付きじゃねーか」絶対持ってない方がいいと思われる。処分したら怒るかな。

「このスパイクは?」

「あ?それ?ああ、壊れて履けなくなったヤツ。捨てといていいぜ」

ミー太くんミー太くん。そのくらい自分でやろうな。まあ捨てといてあげるけど。

「なんで体育着とかジャージがあんの?」

「あー、なんでだっけ」

理由すらないのがあった。可哀想だろ忘れ去られた体育着とジャージ。

「ああ、サイズ変わったからちっさくなったのそこ入れといた」

入れとくな。てか、男の子なんだし最初から大きめの買っとけば良かったのに。上に兄弟いないのかな?弟っぽいのに。もしくは上が女の兄弟ならそういう習慣なくても……いや、でも中学もジャージとか買うよね?まあ、深く追及するのは止めよう。

「ミー太やっぱりだらしない」

「こういうのイヤなわけ?嫌い?」

「嫌いではないけど」

私もだらしない方だし。

でも相変わらず好きとは言えないのが私なのであった。

言われるのには、なんとかなれた。

「あ、ヤッベ、先輩呼んでっから行くわ」

「うん行ってらっしゃい」


上手いか下手かも実のところわかっていないような私だが、少なくとも、前より余裕を持って付き合えてると思う。それは多分ミー太が自分の気持ちを話してくれたからで。

後は多分。私がミー太を好きになればいいだけなんだと思う。

まだ私は、全部話してもらったわけじゃないけれど。好きでもない人から、それを強引に聞き出すような不躾なことをするつもりはない。そんなの好きになってからきけばいいのである。

そのとき、ガタンと何かが落ちた。ロッカーの扉側に、なにやらポケットみたいなものがマグネットでついていたようだ。それをぶつかって落としてしまったらしい。

中には写真が数枚入っていた。部活で撮った写真ばかりだ。こんなの大事にするキャラだったのかミー太。いや、この汚いロッカーに保管して置くことが大事にしていることになるかはわからないけれど、でもこうやってわざわざ別にしているところを見ると、これは大切な物なのだろう。

「むむ、部活か」

そういえば浜田も野球部の応援団がどうとかって言ってたっけ。

部活にさえ入れば、こうやって部室に隠れることもないわけだし、何か入ってみるのもいいかもしれない。もう二年とはいえ、まだ五月だし。

部活の写真の間に、隠すように挟まれていた私の写真は見なかったことにしておいて、私は土日を跨いで、月曜日から一年ちょっと遅い部活見学を開始することにした。

……ミー太はどれだけ私が好きなんだろう。



2011/05/28
私の計算が正しければ榛名と三橋の誕生日は月曜日なハズなんですよね。
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