そして本音を吐かせました


保健室のドアを乱暴に開けば、越石は、先生に脇腹を見せながら、驚いた顔をしてこちらに振り返った。

「ありゃ榛名くん、どうしたの?」

「テッメ!人をからかうのも大概にしろ!山口先生には奥さんなんていねーじゃねーか!」

「うっわ、バレんの早かったなー。そいや六時間目山口先生だっけ?まずったなー。」

保健の先生は、オレ達の会話には全く興味が無いようで、大丈夫だとは思うけど、一応病院行きなよ。あと喧嘩するなら外でね。と、彼女にシッシッと手を振った。

それに対して、彼女は、はいはーい。と返事をし、オレの横を抜けて保健室から出ると、外からオレの腕を引っ張って、少し離れた人気のない廊下へ向かった。



「で、榛名くんは何がムカつくの?私が好きだから嘘吐かれてムカついた?違うよね?」

「オレは、」

保健室に向かうまでの間、オレは何がムカつくのかをずっと考えていた。

当然、コイツが好きだからとか、そんな理由でムカついていたわけではない。コイツが誰を好きだろうが、オレには関係ないし、山口先生が西中を巡る元ライバルだったところでオレは知らない。

「オレはな」

「ん?」

「嘘ばっかで、自分の気持ち誤魔化して、独りになったのが寂しい癖に助け一つ求めねーオマエにムカついてんだよ。」

西中が死んだ。濱村とあんなことがあった。つまりコイツは独りなのだ。

それなのに、ショックだと泣くこともせず、こともあろうかオレまでも、困らせることによって突き放そうとしたコイツがムカついてならなかった。

あのまま、コイツの嘘か本当かわからない言葉を信じていたら、オレはきっとそんな事実にも気付かないまま、コイツを独りぼっちにしていたに違いない。

「別に、私が濱村さんとこんなんになったのは自分の責任だしさ、だから」

「それがなんだっつの!だから独りでも大丈夫。なんて言わせねーかんな!西中が死んだのがフツウに寂しくて、濱村と親友になれなかったのがフツウに残念で、オマエは結局普通でしかないのに!自分が悪いし、自分は普通じゃねーから大丈夫だとか、そんな風に一人で勝手に自分に酔いやがって!なんなんだよ、バカかオマエ!オマエがそんな理由で独りでいるなんてオレが許すわけねーだろ!」

辛うじて、自分が西中の死をはっきり認めたことだけわかった。それ以外は自分でも意味がわからないことを叫んだし、彼女も多分意味がわからなかったと思う。

なのに彼女は泣いた。目を潤ませてはしても最終的にはいつも泣かなかった彼女がようやく泣いた。

自然と、オレの腕が彼女の身体に伸びる。抱きしめてみれば、彼女の身体は普通に女らしく柔らかい。

オレが好きだから真相探りたかったなんて嘘だ。山口先生が好きだってのもきっと嘘だ。それについては自信がないが。

きっとコイツは最初から犯人がわかっていて、でもそれを信じたくなかったから、自分の結論を否定する為にこの事について調べようとした。

一人じゃ自分の予想が事実だった時どうしたらいいかわからないから、怖いから、誰かに傍にいてほしくて、なのに結局、西中に悪いだとか、なにより、西中の死んだ意味ってのを尊重して、オレに頼らず、オレさえ突き放して、一人を選んだ。

こいつはそういうバカなヤツなんだ。

「なんか、うん。西中さんが榛名くんを好きになった理由がわかった気がする。」

「ンだよ、いきなり」

「性格悪くても歪んでても、榛名くんはまっすぐ受け止めてくれるんだね。」

そう言って彼女がオレから離れた。それから、オレ達はろくな会話もせず。別れの挨拶だけして、お互いバラバラに教室に戻った。

その後オレは、部活に普通に出ているのを担任に見つかり叱られて、こってりしぼられてからうちに帰ってメシを食って寝た。

そして後日談。



「……なんでお前ら普通に話してンだよ。イミわかんねーよ。」

「あ、おはよー榛名くん。そりゃ女の子の特殊能力ってヤツだよ。全く、女の子ってこわいよねー」

「うん。特に越石さんは怖いかな。キレたときとか」

「なに言ってんのさ。鉄パイプ女のが怖いって」


日常ってやつはわりと厄介で、染み付いた習慣ってのはなかなか抜けない。そのせいか、女子の喧嘩なんてちょっとしたことなら、次の日にいつもと同じように話し掛けることによって、たった1日で解決してしまうらしい。今回のことが"ちょっとしたこと"だとは思わないが、オレはそう説明された。

逆にちょっとしたことでも譲れないことなら、いくらでも陰湿にお互いの足を引っ張りあえるというし、女子の社会ってのは難しいものだ。

しかし、そんな難しい事情云々より、つまるところ、濱村も独りだったということなのだろう。

「そうだ。あのさ、榛名くん。昨日言い忘れたんだけどさ」

「ああ?なんだよ」

「いろいろ、ありがとうね」

ありがとうはこっちの台詞だ。昨日の部活は久しぶりに楽しかったし、それは間違いなく越石のお陰なのだ。

まだ完全に傷が癒えたわけではないが、それでも傷を癒やすきっかけを彼女はくれた。いや、上手に傷付くことすら出来なかったオレを彼女は上手に傷付けてくれた。それは、思ったよりずっと難しくて幸運な事なのだと思う。

「こっちこそ、いろいろありがとな」

小さな声で呟いたその言葉が彼女の耳に届いたかはわからないが、彼女の、僅かに緩んだ表情から察するにバッチリ届いてしまったのだろう。

その時、タイミングよくクラスメートがオレの名前を呼んでくれたので、オレはさっさとそちらへ向かうことにした。

「元希!ったく、お前、昨日の五、六時間目越石とどこ行ってたんだよ?」

「ああ?なんで越石?」

「いや、二時間連続で二人ともいなかったら誰でも一緒だと思うって。で?どこ行ってたんだよ。」

どうしたものかとイライラしつつ困っていれば、越石が濱村と何やらケラケラ笑っているのが聞こえた。

もうどうにでもなれば良い。イロイロと、気が抜けて面倒くさいのだ。

「ベツに、二人で探偵ごっこして遊んでただけだっつの」

「は?」



2011/02/05
歯切れが悪い上、簡単にはくっつかないのが私の書く話です。実は続きやら何やらも書いてたりします。更新するかは未定です。
テーマは友情。と見せ掛けて、特にありません。私は想い人を失った榛名が書きたかっただけです。
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