最後の問題にぶち当たりました
「どうして、勘違いさせることが出来たんだと思う?」
目を覚まして、越石はまずそう言った。
なんのことかすぐにはわからなかったが、つまり彼女は、濱村が何故、オレとコイツが付き合っているということに出来たのかがわかるか。ということを言っているのだろう。
「……わかんねーけど」
「簡単な話だよ。とっても簡単な話。女の子なら簡単に思い付くし、引っかかる。だからこれ以外有り得ないと思う。」
「なんだよそれ」
「『越石も榛名が好きで、でも優香も榛名が好きなの知ってるから、榛名とは隠れて付き合ってるみたい』って言えば簡単でしょ?そうすると知らぬ間に私は西中さんを裏切ったことになるわけだね」
「そんなん本人に確認すりゃあ」
「そんなに、深い仲にはなれてなかったんだよねきっと。西中さんと濱村さんは中学からで、私は高校からだもん。濱村さんの言うことの方が、信憑性があった。それだけ。」
バカみたいだね、私。と呟いた越石は、いつもより弱々しくみえた。怪我をしているせいかもしれないが、多分、そうではないと思う。
ふと時計を見れば、あと五分で六時限目が終わるところだった。彼女もそれに気付いたのか、強引に身体を起こす。脇腹はやはりまだ痛いようで、それを庇っているのが見て取れた。
「それに、私本当に裏切ってるし。あながち、嫌がらせする対象は間違ってないよ。西中さん。」
「ンだよ、オマエ西中になんかしたわけ?」
「私がついた嘘。山口先生がどうって覚えてる?山口先生は、妻子持ちで、しかも愛妻家。どう考えても西中さんが好きなんて有り得ない。」
「山口先生が愛妻家なんてオレは知らなかったけどな。」
「去年うちのクラスだったヤツらは皆知ってるよ。ちなみに濱村さんも別のクラスだったから知らなかったかもね。まあ、とりあえず、あの嘘は半分は本当って言ったよね、私。なら、山口先生って名前のとこを誰かさんに変えてみなよ。」
薄々勘付いていたと言えるほど、オレは鋭くないが、そこまで言われて何もわからないほど鈍感でもない。
「真相調べ始めたのは、半分は下心だった」
「あー、のな、オレは」
「いや、全部下心かな。最初は、話し掛けるきっかけが欲しかっただけ。質問した理由が、本当に西中さんが失恋したのかが知りたかったからなのか、付き合っている人がいるのかを知りたかったからなのかは、今となっては自分でもよくわからないけど、返事聞いたとき、あからさまに酷い顔してたから、私がこの事の真相探り始めれば、それに付き合ってくれるんじゃないかと思って」
意図的に、特定の人物の名前を抜いた台詞。
そんな真相、オレは知りたくもない。
遠くで、六時限目の終わりを告げるチャイムが鳴った。五分を授業中より長く感じたのは初めてだ。
「……部活行くんでしょ?」
「なんつーか、サボったの先生になんて言い訳すっかな」
「濱村さん庇ってあげるつもりなら、高校卒業までに、一度は授業ふけてみたかったんです。でいいんじゃない?下手に体調云々は言わない方が身のためだよ。榛名くんはわりと品行方正だし、部活頑張ってるの皆知ってるし、お説教も長くないと思う。私はそうはいかないけど。」
越石はそれを一気に言うと、続けて、じゃ、私は保健室行くから。と、脇腹を痛そうに抱えながら、空き教室を出て行った。
残されたオレはため息をついて自分の教室へと向かう。わずか二日間で、随分振り回されたものだ。そもそも好きな相手に対してあんな態度ねーよな。とか、そんなことを考えながら廊下を歩いていたら、六時限目の科目の担当の先生に呼び止められた。
「あ、山口先生」
「『あ、山口先生』じゃない。お前さっきの授業どうした。体調でも悪かったのか?」
「いや、高校時代に授業ふけた思い出があってもいいかもしれないと思いまして。」
「はあ?何言ってんだお前」
まあ、当然の反応だとは思う。というわけで、オレは話題を変える作戦に出た。
「つーか先生。奥さん元気ッスか?美人って噂聞いたンスけど」
「奥さんん?誰だそんなこと言ってたのは」
「あ、いや、風の噂といいますか」
「俺には奥さんなんていないよ。自慢じゃないが、生まれてこの方三十六年、一度も出来たことがないし……これからも作る予定は、ない。」
アイツまた嘘か。とか。なんなんだその間は。とか。いろんな事がごちゃごちゃとオレの頭を駆け巡った。
なんにせよ、どこまでが嘘でどこまでが本当で、嘘ということすら嘘である可能性が出てきた今、オレに出来ることは一つである。
2011/01/05