直接対決を試みました


面倒な流れは全て飛ばしてしまおう。

彼女に呼び出され、ここに来て、言い逃れをしようとした容疑者に対して、越石が華麗に証拠を突き付ける……なんていう流れはそもそもなかったわけだが、例えばその容疑者がいきなり"昼休みだというのにも関わらず""鉄パイプを持ってこの空き教室に現れ""こともあろうかいきなりオレに殴りかかってきた"なんて事をわざわざ事細かに説明しても無駄だろうと思うのだ。

自慢ではないが、オレは運動神経も反射神経も悪くはない。つまり、その不意打ちをパニックしながらもなんとか避けることが出来たわけなのだが、しかし越石の方はそうでもないらしく、横になぎ払われたその鉄パイプを思い切り脇腹で受け止めた。

「んぐっ……うぅ……」

そう呻き、その場にうずくまった越石に向かって、容疑者、もとい────西中の親友だった濱村が容赦なく鉄パイプを振り上げた。

それが振り下ろされるのを黙ってみているわけにもいかない。オレはなりふり構うことも出来ず、振り上げられた鉄パイプを右手で掴み、左腕で濱村の身体を取り押さえようとした瞬間、濱村が鉄パイプを手放した。

しゃがみこみ、オレの左腕さえも振り切った濱村が次に取り出したのはカッターナイフで、流石のオレも怯んだ。というか、普通の高校生なら当たり前に怯むだろう。オレはそれに倣ってしまった。

そしてその隙に、濱村は越石の後ろに回り、羽交い締めにした状態でそのカッターナイフを首筋に押し付けた。

「人質のつもりかよ」

「人質じゃない。結局殺すから。ただ、あなたにも逃げられたくないだけ」

「んなことしたら捕まンぞオマエ。捕まりたくねーから西中をあんな死なせ方したんだろ?」

何が気に入らなかったのか、カッターナイフに力が込められ、越石の首筋に僅かに血液が滲む。

「……榛名元希くんさぁ、ソレ本気で言ってんの?」

「どういう意味だよ」

ぐったりしたまま人質にされている越石は、意識はあるようだが、痛みで動けないようだ。その彼女も、微かに意味がわからない。という表情を浮かべた。

「私が優香を殺したいと思うわけないでしょうが」

「は?じゃあなんで」

「私はねぇ。優香にあんたとこの女を殺して貰いたかったんですよ。わかんない?優香に近付くあんた達が邪魔で邪魔で仕方がなかったの。つまり、優香を殺したのはあんた達ってこと」

どういうことよ。と、越石が小さな声で呟いた。

首筋から流れる血で、白い襟が赤く染まっていく。とはいえ、出血はそこまでひどいわけではない。

それでも彼女の息が荒いのは、やはり脇腹を殴られたせいだろうか。

「だからー。優香が言ったの。榛名が誰かと付き合ったら、殺しちゃうかもって。付き合った相手をなのか、あんたをなのかは言わなかったけど、だからどっちが殺されてもいいように、私はあんた達が付き合ってるって、そういうことにしたの。なのに、あんたが、余計なことを言ったせいで」

最後のあんたというのは、越石のことのようだった。首の下に回された腕に力が込められ、彼女が苦しそうに顔を歪める。

「優香が、あんたへの嫌がらせのために自殺選んじゃったじゃない……!」

その瞬間、越石がにやりと笑ったのが見えた。

確認したいことが確認出来たとでも言うように、満足げに、にやりと笑い、呟いた。

「ねえ、山口先生って知ってる?」

「は?」

「ほら、西中の一年の時の担任の。」

「それがどうしたわけ?」

「私の好きな人なんだけどさ、ここだけの話、山口先生は西中が好きなんだよね」

「なにいきなり?頭でもおかしくなった?」

「私より頭のおかしそうなあんたに言われたくはなかったけど。つまり私も、先生の為ならなんでも出来るんだ。その上、先生の好きだった人を殺す直接の原因に、いや、間接的な原因かな?わからないけど、そんな原因になった私の命は、まあ、いらないよね。んで、まあ、お前の命もきっといらない。」

越石がオレを見た。はっきりとオレを見た。

「榛名くん。私はどうなっても構わないから、その手に持ってる鉄パイプでこのヤンデレちゃんの頭をぶん殴ってやってくれない?大丈夫だって正当防衛だよ。ね?早く。ほら───」

───叩けばテレビみたいにちょっとはまともになるかもよ。とおかしそうに笑う彼女。濱村が怯んだのが、怯えたのが、目に見えてわかった。

「あ、ビビったね。死にたくないんだ?」

濱村が怯むわけである。正直に言えば、オレも彼女が怖い。

「さっきの、半分は嘘だから安心してよ。お前の命云々が嘘だとは言えないけど。まあ、とりあえず私を放したらどうかな?榛名くんがお前のこと殴る前に」

濱村がオレを見た。オレは形だけ、鉄パイプをわざとらしく握り締める。

すると濱村は素早く越石を解放し逃走した。あまりに早い決断に、少し呆れ、そして呆けてしまいそうになったが、越石が急に脇腹を抱えて、前のめりに倒れた為、そんな余裕もなく我にかえる。

しかし慌てて駆け寄って見れば、緊張の糸が解けた為なのか、彼女はぐっすり眠っているだけで、オレは少し安心した。

廊下から昼休み終了のチャイムが聞こえた。仕方がないので、オレは五時限目をサボることにする。

さて、彼女が起きたら、オレは一体何から訊けばいいのだろう。



2011/01/05
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