容疑者を絞りました


この間教室で無理をして笑っていた友達の方が西中とは仲が良さそうだったし、実際、西中があの友人を親友だと言っていたのを覚えている。

つまり、オレは未だに越石が何を考えて真相を追求しているのかがわからなかった。

まだ、西中の親友が、それを追求するならばわかる。逆に、越石が西中の親友だったのならわかる。

だがしかし、彼女は、基本的に友達に深入りしない奴に見えるし、西中に対してもそうだった気がするのだ。単なる、端から見ていての感想だが。

ただの友達でも死ねば泣くし、悲しむのは普通だ。無理して笑うこともあれば、不機嫌にだってなるだろう。

しかし、"自殺"でしかないその死に対して、何も出来なかったことを悔やむことはあっても、そこから何かしようと思う"ただの友達"なんているだろうか。




あれから土日を挟んで、月曜日の昼休み。オレは越石と共に、空き教室でメシを食べていた。

今日は学食じゃないのかと聞いてみたら、学食では、おかずに唐揚げを買ってきたらしい。

弁当箱いっぱいに詰まっていた白米にオレは驚いたが、どうやら彼女はそれで満足なようだ。

「私さ、自殺って嫌いなんだよね。ていうか、自殺する人間ってヤツが嫌いなんだ。理由がなんであれ、ね」

「カトリックかよ」

「榛名くんからそんなツッコミが入るなんて……いや、あのさ、ツッコミどころが違うんじゃない?」

「……西中はどうなるンだよイミわかんねー。それこそ"理由"を突き止めたところで、西中は」

自殺者だろ。とは言えなかった。言いたくなかった。未だに現実が受け入れられないわけではなく、受け入れてしまったからこそ、口に出すことすら嫌なのだ。嘘だ。

口に出した途端、死そのものが現実味を帯びる。本当はそれが嫌だった。現実を受け入れていようが、高校生のオレが、執拗に死を意識したくはないだけだ。つまりは、自己保身。

箸から転げ落ちて、ジャガイモが弁当箱に戻る。越石はそれを見て、セーフだったねえと笑うと、ため息を吐いて話を元に戻した。

「……西中さんは、それ知ってたんだよね。それでも自殺したってことは、私より榛名くんが大切だったってことか……ったく、照れないでよ馬鹿。」

「照れてねっつの。続き話せよバカ。」

「私より榛名くんが大切だったってことか、私への最後の嫌がらせか、その両方か。どれなんだろうって話がしたかったの」

「お前、西中に嫌がらせされるような心当たりがあんのかよ。つーかあの西中が嫌がらせなんてするとは思えねンだけど」

「ないんだけどね。あのさ榛名くん。西中さんだって人間だよ?小さな嫌がらせの一つくらいしたくなるかもしれないじゃない?少なくとも、西中さんは無邪気ではあっても無垢ってわけじゃなかったと思うな。」

女の子に夢見すぎだよ。と笑った彼女に、見てねーよと即座に言い返せず悩んだオレは、少しは女というものに夢を見ていたのかもしれない。女そのものにというか、好きな異性ってものに対してなのだが。

「例えば、私がさ、西中さんの気持ちを知っていながら、榛名くんと仲良さそうに話してました。女の子ならちょっとは嫌がらせしたいと思うよ」

「ちょっとって規模の嫌がらせかよ。大体、オマエとオレが会話したことなんてねーだろ」

「ものの例えだよ。」

それにしても、わざとつけてるの?それ。と言って、彼女が急にオレの顔に手を伸ばした。

そして、オレの唇の端についたご飯粒を取ると、それをそのまま口に─────

"オレ"の口に押し込んだ。

「っにすんだよ!普通ならオマエが食うだろ!」

「カップルならね。バのつくカップルならね。」

「だからって普通は食わせねっつの!それなら普通に捨てろ!」

「普通普通って、私はどうみても普通じゃないでしょ?というかね、一粒のご飯粒には一億人の神様が乗っかってんだよ。それを捨てるなんて私にはできない。」

普通じゃない多さだった。

「まあ、私と榛名くんがバのつくカップルになるかどうかは置いておいて、あのさ」

「ンだよ?」

「そろそろ容疑者しぼろうかと思うんだけど、いい?」

真面目な顔になることなくそう言った彼女は、やはり何か無理をしている。

そんなに辛いのならこんなこと止めれいいと思いつつも、オレは言わなかった。オレは、犯人が知りたいし、彼女がいなければ犯人を見付けることはきっと出来ない。つまりオレは彼女を利用しているわけだ。

先ほど落としたジャガイモに、ぷすりとオレの物ではない箸が刺さった。それをあっさりと自身の口へ運ぶ彼女は、オレの気持ちをわかっているのかわかっていないのか、ああ、気にしないで。と笑う。

「気にしないでじゃねえ!人の勝手に食うなよ!」

「唐揚げ足んなくなったの。そのくらいでうるさいな。本当、小さい男なんだから」

「そのくらいじゃねっつの!なんでオマエそんなに女王様なんだよ!」

「女王様なんて……それほどでもあるかも、なんか照れるね。でも、うん。さてさて、本題に入りましょうか。」

彼女はいつの間にか白米オンリーの弁当を食べ終わっていたらしく、その蓋を閉める。ちらりとみたが、人にアホなことを言っていただけはあり、米粒は一粒も残っていなかった。

「重要なことなんだけどね、あの子の好きな人知ってるのは、私以外には一人しかいないんだよね。三人だけの秘密ってことで話してたことだったし。」

「じゃあ現場見に行ったのになんの意味があったんだよ。容疑者が一人じゃ犯人はそいつにほぼ間違いないだろ」

「私が確認したかったのは、西中さんがただの構ってチャンだったのか、本当に死にたかったのかだよ。構ってチャンなら、犯人捜し止めようと思ってたんだ。あと漫画をわざわざ取りに行くのが面倒だった。足が必要だった。」

「人に自転車漕がせたかっただけかよ!」

寧ろ前半より後半の方がメインのようにも聞こえた。

しかしまあ、確かに昨日、彼女はそんなことを確認していたし、そんなことをオレに説明していたと思う。

「でね、これ以上は考えてもわからないから、本人を呼んどいてみたんだ」

「は?」

最初のモノローグを訂正しよう。オレは越石がなぜ真相を追求しているのかがわからないんじゃない。オレにはコイツが、何を考えているのかがわからない。



2011/01/01
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