全てが明かされました


「あなたたちの信じている真実は、まあ、間違ってるらしいよ。それはわかってるんでしょ?」

「なんとなくは」

「西中さんは、アンタのせいで死んだわけじゃないし、越石さんの為に死んだなんて、二の次、三の次の理由なわけ。冗談じゃなくね」

「野村さんは、その理由を知ってるの?」

「私、というか、うん。私の知り合いがね。彼女とそのこと、話したことがあったらしくてね」

多分、優香の前向きな死ぬ理由をだろう。

前向きな、ネガティブじゃない。自殺の理由。

そして、まさに話はこれからというところで予鈴が鳴った為、野村さんは、めんどくさそうにため息を吐いた。どうやら後五分で終わる話ではないらしい。

「授業始まるけど、どうする? 放課後あいてるなら放課後でも良いんだけど、濱村さんバスケ部だよね? 待ってようか?」

「あなたに借りを作りたくはないです」

「私としては、ミー太が……じゃないじゃない。榛名くんがもう一回私にキスしてくれるだけでそのくらいチャラにしてあげるつもりではいるんだけど」

冗談だろう。なんとなくそんな気がする。

本気で相手にすると、疲れだけが残る、そんな感じ。先輩と同じだ。あの人は、いつだってそうだった。

でも、さや子さんは、それがわかってても本気で相手にするんだろう。榛名くんが、大切だから。

「冷静で客観的な人なんだね、濱村さんって。まあ、それは冗談として。でも、この話って皆で聞きたいでしょ? 好意で言ってるんだから甘えなよ」

「じゃあ、甘えてあげます」

「いいねー、その上から目線。そういうの私は好きだなー。じゃあ放課後、そうだなー。近所のカスト分かる? あそこで待ってるねー」

野村さんはそう言って不器用に微笑むと、すぐに自分の席へと戻って行った。

榛名くんとさや子さんはまだ戻ってこない。

廊下に少し目をやり、私は私で自分の席へ着く。

教科書に書いてある問題の答えがどれだけわかっても、人の心の動きというのはわからなくて。それがいけないことだと解れただけでも、私にとっては成長で。

でも、私はもう少し考えるべきだったのかもしれない。

榛名くんがキスした本当の理由のことも。自分の本当の気持ちについても。

その授業の間には、榛名くんたちは戻って来なかった。




「アイツ、こねーって」

待ち合わせ場所に現れた榛名くんはそう言って、カストの駐輪場に自転車を止めた。

あの後、教室に戻ってきたさや子さんはすこぶる不機嫌で、私は当たられても面倒だったので、このことについては、榛名くんに伝言をお願いしたのだ。

で、彼女はこないと言ったらしい。

まあ、目の前であんなもの見せられたら、女の子なら誰でもそうする気がするけれど。でもまあ、あの子のことだから、そういうのではないんだろうな、とも思ったりして。

榛名くんは私よりずっとあの子と仲がいいのに、いまいちあの子のことをわかってない気がする。

「おー、早かったねえ」

店に入ると、入口近くのドリンクバーにジュースをとりに来ていた野村さんが、私たちにそう声を掛けてきた。そして、とっておいたのであろう席を、かっこつけて親指で指すと、まあ、座んなよ。と、楽しそうに笑う。

それから私たちは、席に座り、食べ物などを注文をして、飲み物だけ彼女と同じようにドリンクバーでとってきてから、本題に入った。

「まず。犯人の名前からでいい?」

「相変わらずめんどくさがりだよな、お前は。なんでいきなりそこなんだよ。小さい名探偵でももっと勿体ぶるだろ」

「だって証拠云々の話じゃないんだもの。トリックもアリバイ工作もないんだから、犯人の話以外することないでしょ。動機なんてそのあとの話だし」

小さい名探偵って、そんなにもったいぶってたっけ?と私は疑問に思いながらも、二人の会話に耳を傾ける。まずい。私もちょっとふざけてきてしまっている。

「まー、とにかく。犯人ね。図書室によく来てた冨永くんって知ってる? あの子らしいよ」

「は? なんでだよ?」

「だから、証拠とかアリバイって話じゃないからそこは言えないんだってば」

「じゃねーよ。動機の話だっつーの。西中絡みでなんかあるわけ?」

つまり彼は、自分にはその"冨永くん"とやらに狙われる理由がないと言いたいんだろう。

野村さんは、そんな榛名くんの台詞を、なぜか申し訳なさそうに聴きながら、ジュースをすする。

「冨永君とやらは、西中さんの自殺の、本当の理由を知ってたんだよ。で、西中さんは榛名のせいで死んだからってこと簡単な話でしょ?」

「オレのせいってなんだよ? オレが、さや子と付き合ってるって勘違いして、っつー」

「私も悪いんだよ、ミー太」

そう言いながら、野村さんが榛名くんの分のジュースに手を伸ばす。言動と行動が恐ろしく不一致である。

「おい」

「なんで止めるの。ミー太は最近は女王様キャラに萌えていると聞いたのに」

冗談だけど。という声が聞こえた気がする。

「早く理由ってのを話せ」

「ミー太が秋まで私のこと引きずってたから、それに気付いた西中さんは死にました。オッケー?」

「は?」

「西中さんはミー太に好かれてるって気付いてたよ。でもいまいちミー太を信用してなかった。だから」

「だから、なんだっつーんだよ」

「だから、ミー太が自分を好きで居てくれる内に、死のうと思った。現状の幸せの維持のために死んだわけだよ。わかる?」

「なにをだよ」

「私とおんなじ。ミー太は変わらないね」

榛名くんが、動揺した。野村さんが私に目をやる。

どうしろと言うんだ。さや子さんなら、どうしたと言うんだ。

私が変なこと言っても傷つくだけかもしれないじゃないか。というか、それは、私の嘘に素直に騙されていても、同じ道を選んだかもしれないじゃないか。

ねえ。私にそんな期待しても無駄ですよ。



出入口が開いた音が、やけにはっきり聞こえた。



「あーあ、真打登場だって。貴方も私もついてないね。今ならまだ、チャンスあったかもしれなかったのに」

「貴方って、私?なんの話」

わかってるよ。でも、私は身を引くって決めたのだ。

榛名くんが目の前の元カノさんとやらにキスしたのがあくまでも私の為で、そこまでしてくれる彼に、私が少し、またほんの少し好きになったとか、そういうことがあっても、そんなこと関係なく。私は私に誓ったのだから。

「榛名、行くよ」

店に突如登場した真打ことさや子さんが、こちらにつかつかと歩み寄り、榛名くんの右腕を強引にひいた。

「な、どこにだよ」

「冨永くんのとこ。話は先生に聞いてきた」

「行って何すんだよ」

「決まってんでしょ、あやまらせんの。そんで謝りなさいよ。このままが嫌なら、自分が悪くなくても謝りなさい。私なら死んでも謝んないけど、アンタは謝れる人でしょ」

そこまで勢いよく言って、さや子さんは深呼吸をして、榛名くんの腕を離した。

野村さんは、運ばれてきた料理が誰のものであるかを店員さんに説明している。

「今日は迷惑になるからアレだけど、明日は山本くんが昼休み図書室の当番で、山本君は冨永くんと少しは絡みあったみたいだからなんとか呼び出してもらう。だから榛名は明日の昼休みに図書室に来て、ちゃんと話しなさい」

「命令文かよ」

「私がお願いするのはおかしいでしょ。私のことフッてくれたんだから、このくらいの仕打ちは受けて当然だと思って」

榛名くん。なんでその重要なことを言ってくれないの。伝言とか、私思い切り空気読めないことしてしまったじゃないか。

なるほど、教室に戻ってきた彼女の機嫌が悪かったのはそういうことか。

「じゃ、私帰る」

「……おお」

「私、諦めてないから」

そう言って、店から出ていった彼女の背中を何故か店員さんまで一緒に見送り、彼女の姿が見えなくなったと同時に、榛名くんが息を吐いた。

それはため息のようでもあったが、なにより安堵を表していた。彼の表情がそれを表していた。

つまり、やっぱりどう転んでも、私はあの子には敵わないのだ。だから私も安心した。

「あいつ、人にどうこう言うくせに先生んとこやたら行くよな」

榛名くんはとりあえず、人に好きとか言う前に、その不服そうな顔を鏡で見てきたほうがいいと思うよ。



2013/09/08
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