情報を纏めてみました
「タカヤもわかんねーって」
「誰だよタカヤ」
「タカヤはタカヤだっつの」
「いや、だから誰。コトちゃん知ってる?」
まあ、皆さんもお分かりでしょうが、さや子さんと榛名くんの会話です。
榛名くんは榛名くんで、犯人の心当たりを、自称・優香の知り合いという男の子になにやら話を聞いて来たらしいが、そもそも、タカヤくんなんて私も知らない。一体何者なんだろう。その子は。
とにかく、私とさや子さんは、その報告を教室で聞いていた。
「いや、知らない」
「は!? でもアイツなんか色々知ってたぞ。あーでも、基本的には西中の妹と同じ学校だから、とかっつってたな」
「西中さんの妹? どこ校だっけ」
「あー西浦の子なんだ?」
「おう」
西中さんの妹は、西浦の一年生のハズで、結構暗い性格だったりする。
お姉ちゃんとは真逆な感じで、私が言うのもなんだけど、友達が少なそうな。寧ろいるのかを疑いたくなるような子であった。
そんな彼女の友達……少し気になる。
「つーか、西中の妹と付き合ってんだっつってた」
「え?」
「なんか、告られ? あれ? まだ付き合ってねーンだっけか?」
凄くあり得ない単語を聞いてしまった気がする。
あの子、いつからそんなそんなに積極的な子になったんだろう。
「で、そのタカヤくんも何にも知らないんでしょ?」
「西中の事ではオレが殴られることになるような理由はわかんねーって」
「ねえ、それって榛名さ。あんに西中さんのコトじゃなきゃ思い当たる節あるってことなんじゃないの?」
まー榛名の性格じゃ、確かに至るところで恨み買ってそうだけど。
なんて言いながらも、さや子さんは榛名くんの目を見ようとしない。立派に恋する乙女だな。と、思った。
そして榛名くんは私と目を合わせない。複雑な心境だ。
私、ちゃんとふった方がいいのかな。とか思うけど。榛名くんなら勝手にさや子さん選んでくれないかな。とか。
「他、なんか知ってそうな人いないかなー」
優香と関わっていた人を総当たりするしかない状況なので、私は三人とも関わっていたであろう、優香の知り合いにあたってみることを提案することにした。
タイミングを見計らい、二人の会話に割って入る。
「石神井先輩は?」
「却下」
榛名くんの返答が凄く早くて少し傷付いた。
「あ、わり、でもアイツゼッテ―ただじゃ教えてくんねーし。代わりに何要求されっか……」
「榛名さーそんなこと言ってる場合じゃないでしょ? また襲撃されたらどうすんの? もう一人の身体じゃないんだよ?」
「いや、身ごもってねーから」
「私の好きなモノは私のモノです」
「っとにお前はオレサマだよな」
「タカヤくんなら、あんたにだけは言われたくないと思いますよっていってくれるわ」
「なんでタカヤ知ってんだよ」
「え? さっき榛名が教えてくれたじゃない?」
「そうじゃねえ!」
最強設定ではないけど、割とチートだよね。さや子さんって。
その力を笑いにしか使わないから問題ないわけだけど。
そのやりとりがなにやらおかしくて、つい口角が上がる。久々に声をだして笑えるかもしれない。そう思った時だった。
「で?ミー太はちはるさんには訊きたくないわけだ?」
私とは関わった事の無い、クラスメートの声が聞こえた。私の後ろから。
「み……?なに?誰それ?」
「ごめんなさい。つい昔の癖で変な呼び方しちゃった。ごめんね。榛名くん」
まあ、冗談だけど。とでも言いたげな、その真実味の無い、言い方。だらけた空気。
ほんの少し、石神井先輩に似ている気がした。
「野村さん、だよね?」
「野村あ?あー榛名の元カノか」
「いや、オマエなんでンなこと知ってんだよ」
「情報屋の山本くんが言ってた。で、元カノな野村さんが何の用ですか?」
さや子さんの口調からは敵意が滲み出ていた。榛名くんは微妙に野村さんと目を合わせない。
私は別に構わないけど。でも、でも。優香なら、きっとこの態度は嫌だっただろう。
そして、ここにいる、さや子さんも、それは嫌なようだった。
「んー? 貴方たちが知りたい話、知ってるよってことで話しかけたんだけど。迷惑だった?」
「うん、とっても。私がヒロインってなんど言えばわかんの? って感じ」
「ちょっと、さや子さん……」
だからそういうのやめよう。ただの痛い人だからそれじゃあ。
「本当に?犯人に心当たりがあるんだけどな」
「えーと、なに?ミー太だっけ?はどうしたいの?元カノからそんな話聞きたいの?」
そんだけ不愉快そうな態度で訊いたら榛名くんだって結構ですって言うからね。
榛名くんの言うとおり、彼女はオレサマだと思う。
「あ?条件によんだろ。つーかなんでお前そんな不機嫌なんだよ」
「へー」
榛名くん引かないのか。そういえば榛名くんもオレサマなんだったっけ。忘れてた。
というか、今回に関しては鈍いだけかな。
「ミー太ったら!条件なんて私が出す」
「に、決まってんだろ。なんなんだよ。ジョーケンは」
言わなくてもお前のことなんてお見通し的な会話が気に入らないのか、さや子さんの不快指数はマックスに達しようとしていた。
下手な条件だされたら、キレる気がする。
経験者だから語るけど、キレた彼女はすごく怖い。まあ、野村さんもそれで引くキャラには見えないんだけど。
榛名くんは何故か厄介な人にばっか好かれるな。
「流石元マイダーリン! なに。簡単なお話ですよー!」
「そのテンションのお前には嫌な予感しかしねーけどな」
「ミー太が、私の唇に、自分のそれを重ねてくれればいいだけ。ただも同然だよね! そしてミー太はファーストキスも済ませてるはずだし、失うものは何もないよね!」
「っっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
榛名くんが口を開くより前に、大きく息を吸い込んでさや子さんが怒鳴った。私にキレたのより、ずっと動揺もしている。
冷静な方が怖かったけど。でもこれも怖いよね。耳が痛かった。
「バッッカじゃないの!? ていうかなんなの!? 榛名をなんだと思ってるわけ!?」
「いや、落ち着けって、なんかお前最近沸点低すぎだろ。大丈夫か?」
「榛名はだまってて!」
「ちょっとー越石さんだっけ? これは私とミー太の取引なんだけどな。変な口出しは」
「はあ? するに決まってるでしょ? 榛名は私のシンユウなんだから。悪い虫に刺されたりしないように気を付けてあげないと」
「……なあ、濱村。コイツなんとかなんねー?」
「榛名くんに無理なことが私に出来るわけ無いと思って」
「だよな」
「もう榛名くん判断でキスするかしちゃえばどうかな。そしたらあの子も文句言わないと思う」
「お前はどうなんだよ。オレがキスしてもいいわけ?」
「うん」
「そーか」
ちゃんと、好きじゃないから。とか言えば良かったんだけど。私にはやっぱり言葉が足りない。
というか、こう言ったら榛名くんが勢いで野村さんにキスしてくれるだろうって思った。
私は、優香関係のことなら、やっぱり、なんでも知りたいのだ。今でも優香は私の一番だから。
榛名くんが野村さんの腕を引く。さや子はさんはその瞬間逃げた。
私は見てた。見ても、何も思えなくて。
榛名くんはそんな私の様子を、ちらりと見て、ため息を吐く。
「濱村。こいつから話聞いといてくんねー?オレ、アイツ追っかけてくるわ」
「うん。なんかごめんね」
「いいっつの。オマエは悪くねーっつーか、いたずらにそういう気にさせちまったのはオレだ」
榛名くんが彼女を追いかけるために教室から飛び出す。
野村さんはそれをつまらなそうに眺めていたが、しばらくして、気だるげに私の方を向いた。
「ミー太ってさ、惚れっぽくて嫌になるよね」
「ええと、あの」
「でも私はミー太のそんなところが好きなんだよね」
見透かしたような、現在進行形な言い方。
なんだか先輩と話しているみたいだ。ただ、この人は、先輩と違って、誰でもいいわけじゃない気がする。それだけが救いだった。
私は石神井先輩が好きだったけど。苦手だったから。
「じゃあ、ま、約束だから教えてあげる。犯人の事」
「あ、お願いします」
そしてかつてのヒロインは語りだす。この事件の顛末を。
私達のエピローグまでを見透かしたように。
2013/09/08
これ、保存したのが2011年になってた