質問してみました
「濱村さんバカだね。学年主席なのに」
ファミレスで、席に案内された後、メニューを開いて、彼女はまずそう言った。
「私達恋敵ですよ」
「それはそうだけど」
「私の質問なんか、真面目に考え込まないでよ。もしかしたら私はただ、濱村さんに榛名から身を引いて欲しいだけかもしれないよ」
それは、無いだろう。そう私は思った。
彼女は榛名くんと付き合いたいし、好きだから告白したのだろう。
つまりは、私が邪魔なんだとは思う。
でも、漠然と、アレがそういう意味での質問じゃないと思った。
「えーとですね。黙られると困ります」
「あ、ごめん」
「いや、地の文担当は大変だと思うからいいんだけどね」
うん。だからそう言うこと言うのやめようね、越石さん。この雰囲気に合わないから。
「でさ、それはともかく」
そう言って、話題を本題に戻す彼女に少し安心した。
どこまでも話が戻ってこなかったらどうしようかと
「私はこのミートソースに決めたけど。濱村さんどうする?」
どうしよう。
「つまりさー」
料理が運ばれてくるまでの間。越石さんはドリンクバーで入れてきたジュースを飲みながら、漸く話を本題に戻した。
「榛名は、付き合いたいって意味で、濱村さんが好きだよ」
「うん」
「本人はこれまたバカだから、自分でも気付いてないと思うけどね」
お互いバカバカ言い合ってるなあ。榛名くんと越石さん。私も彼女をバカ呼ばわりしたことあるけど。でもこういう感じじゃないよね。
ああでも、優香には、よくバカって言ってたっけ。
「何言ったのかわからないけど、濱村さんが、まだ付き合いたくないとか、そういう感じだから一歩踏み出せないだけだと思うよ」
「え?」
「だって、私を恋敵だと思ってるなら、榛名とはホワイトデーなんて待たずに、バレンタインだって待たずに付き合うべきだったもの」
「だって、越石さんそれでいいの?」
「私がいいかじゃなくて! これはアンタがいいかって話です!」
その大声に、ファミレス中の視線がこの席に集まった。
店員さんがちらりとこちらを見る。もう一度彼女が声を荒げたら、注意を受けてしまうだろう。
「ちょっと、落ち着いて」
「あのねえ、言い忘れてたけど、西中が死んだのはお前だけのせいじゃないから」
「ええ?」
「こないだの手紙の件覚えてる?」
「うん」
「あれね。私に遠慮して欲しくないってことで死んだってことらしい」
それはつまり、私が嘘を吐いたせいだ。彼女は何が言いたいんだろう。
「私ね。榛名が西中さんの彼氏になってても、深くかかわることになったら、アイツに惚れてた自信あるんだ。だから、遠慮で彼女が死んだなら、どうしたってあの子は死んでたよ」
「それは、なにか違うんじゃ」
西中さんだって、もう榛名くんが自分の彼氏になってたら、そうはしなかっただろうし。
彼女のこれがはったりなのくらい、私でもわかる。
「っていうか。それだけじゃないの」
「なにが?」
「なんか、西中さんが死んだ理由は、他にもある気がしてならないというか、変な伏線張ってたヤツがいたことを思い出したの」
「伏線って……」
これはギリギリセーフな発言だろうか。日常生活でも使わないことはないし。
「私は、今回榛名くんが襲われたのは、その"本当"の部分のせいだと思ってる」
私の言葉を待たず、彼女はどんどん言葉を紡ぐ。
特に私も言いたいことはないので問題は無いけど。
「その本当がわかったら、もし榛名くんと付き合いたいと思えない理由が、西中さんの件での後ろめたさなら、ちゃんと榛名とむきあってあげてね」
潔すぎるセリフにも聞こえたが、当然彼女が引いたりするわけも無く。
「まあ、それまでに榛名が私に惚れちゃっても知らないんだけどね、だって、やっぱりこの話のヒロイン私だし」
「いや、だから、そういうのやめようか」
とうとうその手の発言に突っ込んでしまった私に、彼女は嬉しそうに笑った。
「あはは、流石に自信あるんだね。そうはならない自信が。というか、榛名に対する信頼かな?」
いや、そっちの話じゃないんだけど。なんか越石さん勘違いの多い悪役みたいになってる。
まあ、言ってもわからなそうなので、私はもうつっこみを放棄することにした。
店員さんがミートソースを運んでくるのも見えるし、この話はもうここまででいいかもしれない。
「ま、とにかく考えといて」
彼女もミートソースに気がついたのか、それで話を終える。
結局私は、何を考えればいいのかもわからないままなのだけれど。
2012/09/10