ちょっとお休みをいただきました


「はあ!? なにそれ!」

「越石さん声が大きい。落ち着いて」

榛名くんが襲われたらしい。相手は、かつての私が彼にしたのと同じように、鉄パイプで、後ろから殴りかかって来たらしい。

私が言えた義理ではないけれど、犯人も、本気で相手を殺すつもりがあるのなら、もう少し殺人に適した凶器を使うべきだろう。闇討ちであったのならなおのこと。

鉄パイプはなにかと目立つのだ。そして思っているより重い。すなわちそれなりに攻撃力はある。しかし、何と言っても持ち運ぶのに体力を使う上、あの形状では剣道部でも無ければ、上手に扱うことは難しいだろう。

「誰! 誰がそんなこと!」

「いや、さや子、ちょっと落ち着けって。濱村も言ってんだろ」

「榛名と濱村さんはおかしい! なんでそんなに冷静なわけ? だって榛名、怪我するとこだったんだよ?」

「いや、オマエがちょっと騒ぎ過ぎてっから逆に冷静にならざるを得ねえンだよ」

ここで、彼女なら、一章跨いだだけで私ってばキャラクターが変わりすぎ、等というような世界観の崩壊を招く突っ込みを入れるだろうが、私はそんなことはしない。

まあ、とか言ってる時点でアウトなんだけど。

「騒ぎすぎって! 騒ぐでしょ! だって私のシンユウ兼想い人が襲撃を受けたんだよ?」

「なんでオマエは常に爆走中なんだ」

「これは確かに調査が必要だね! もう犯人探すしかないね! っていうか警察だね! タイトルとか関係ないから。プロに任せるべきだから」

まあ、警察に任せる。というのには、私も概ね同意である。ただ、榛名くんがもともとそういうつもりなら、すでに警察に通報を済ませているだろうし、つまるところ、彼は警察に言うつもりがないのだろう。

越石さんもなんやかんやでそれに気付いていたらしく、榛名くんが何か言おうと口を開いたのとほぼ同時に、そのことについて切り出した。

「で、普通は、そうするといいますか。むしろそうするべきだってわかってるはずな榛名くんは、なんで警察に言わないわけ?」

結局、榛名くんは何も言わずに口を閉じる。

「この件が通り魔的な犯行では無い確信があるんでしょ?」

そうでなければ許さないとでも言うような越石さんの口調に、榛名くんは少しだってたじろがない。

というか、私、やっぱり会話するの苦手だ。

「……そいつが、"オマエのせいで、西中は〜"みたいなこと言ってた気がしたんだよ」

越石さんの表情が変わる。傍から見れば、多分私も露骨に反応してしまっていただろう。いつもクラスや部活、委員会では冷静なふりをしている私が、らしくないくらい。動揺してしまった。

ただ、今はその"傍"に、私達以外の人はいない。

なぜならここは、その榛名くんが襲われたマンションの駐車場だからだ。

「なるほどね。だから濱村さんも呼んだんだ?」

「ああ、まあな。いや、っつーかオマエ、昨日のこととかキレーに覚えてねーわけ?そんなに便利な頭してんの?」

「やだなあ、覚えてなかったら思い人とか言わないよ。あ、もしかして二人付き合った系?わーおめでとー、私帰るー」

榛名の嘘つき。とか言わない彼女は、やっぱり凄いなって思う。私なら言う。

もしも、昨日、榛名くんが私に付き合おうって言ったら、きっとそれを理由に拒絶していただろう。

「付き合ってないよ」

だからこそ、私はつい、それだけは否定した。

越石さんは驚いた顔をして、私を見る。しばらく私が喋って無かったからだろう。そして、久々に発した言葉がこれなら、誰でもこんな変な顔をする気がする。

「なんで?」

その言葉に、私は首を傾げた。

なんでって、榛名くんに越石さんのことちゃんと考えてあげてって言ったのは私で、多分彼女はそれを知らないだろうけど。でも。

喜ぶだけで、いいはずなのに。

「榛名。おうち帰っていいよ。夕焼け放送なったから」

「オレはガキか、なんでだよいきなり」

「濱村っちと話したいことがある。榛名がそばにいるだけで、なんか舞い上がってテンションおかしくなって、真面目な話が出来ないんだ」

さりげなく、自分のキャラのおかしさを説明しつつ、そしてふざけつつ、越石さんは真面目な顔をしていた。

仕方なさそうな顔をしてマンション内に戻る榛名くんの背中を見送ってから、彼女は、その表情のまま、私に向き直る。

「濱村さんさ。本当に榛名と付き合いたいって思ってる?」

「え?」

「場所移動しようか。ファミレスいこう。おなか減ったから」

どうしよう。ファミレスで詳しい話をすることになったら。

私の頭の中はそれだけで一杯になる。

榛名くんのことは好きだ。でも。

私は、彼と付き合いたいと思ったことなんて、あっただろうか。



2012/07/19
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -