月曜日は憂鬱でした
球技大会の翌日は、日曜日だった。一日置くことで気持ちの整理がつくかもしれないなんて悠長に構えていたのだが、日曜の夜には落ち着きは消え失せ、明日さや子とどんな顔をして話せばいいのかという議題で一杯になり、脳内会議の結果。
「……ありえねえ」
一睡もできず、結論もでないまま、月曜の朝である。
朝練を終えて教室に行くと、珍しくさや子が既に教室にいた。濱村はまだ朝練から戻っていないようで、その席には誰も座っていない。女バスの朝練は大抵野球部より早く終わるので、それも珍しかった。
そんな感じで、いつもと違う朝。どうにか日常へ回帰すべく、濱村がくるまで教室から逃走し、そこの順序だけでもいつも通りにしようとしてみたのだが、教室を出る直前に悩みの種に話しかけられた。
「おはよう。準優勝くん。最後の空振りは素晴らしかったよ」
「……」
こいつ最低だ。言い方がとある幼馴染に似ていて少しいらっとする。
大体、誰のせいで空振ったと思ってんだ。オマエが珍しくバレーの試合見に来てたからびっくりしたんだっつの。
「一回戦負けに言われたくねえ」
「私四点とりました」
「でも六点取られたら負けんだよ」
「私ノット運動部」
「関係ねー」
「その点濱村さんは凄いね。流石は女バス部長」
「なんでだよ。アイツのチーム三位だろ」
「バカだな榛名は。でも彼女は勝って三位になったんだよ?最後に負けて準優勝より、その方がかっこいいよ」
オレは多分、土曜日に聞き間違いしたんだろう。こいつの態度からは、オレへの好意が全く感じられない。
今回ばかりは自意識過剰過ぎたな。これからは気を付けなければ。
「ところでさ、榛名、チョ」
「榛名くん、ちょっといいかな」
「はよ、濱村。なんだよ?」
さや子が何か言おうとしたところで、濱村の声がそれを遮った。わざとらしい気もしたが、それはそれで少し嬉しいので気にしない。
それに加え、さや子が気にしていない事をオレが気にするのもおかしな話だ。話を遮られた彼女は、何故だか、機嫌がよさそうな顔をしてオレ達のやり取りを見ていた。
というか、濱村が誰かと一緒にいるオレに話しかけてくんのも珍しいんだよな。オレは多分日常に嫌われたらしい。
「榛名くん、トリュフとか好き?」
「とりゅふ?なんだそれ、なんか聞いたことあっけど」
「チョコだよチョコ」
そういえばこの間姉ちゃんが食べてた気もする。確かなんか丸いやつだ。食ったことはない。分けてくんなかったし。
「あー食ったことねー」
「そっか、じゃあ生チョコとかは?」
それは先ほども出てきた某幼馴染がバレンタインにくれた。濱村もさや子も西中も御存じの、石神井先輩である。不味かった記憶があるが、あれは製作者の腕のせいだろう。
「作ってくれんの?」
「まあ、うん」
「じゃ生チョコ食いたい」
生チョコに対する負のイメージを払拭するチャンスなので、オレはそれを所望することにした。何も言わないさや子が何を考えているかなんて検討がつかない。でもとりあえず、やはりアレがオレの聞き間違いである可能性がどんどん上昇している気がした。
というのは、都合よく、事実を誤魔化しているだけに過ぎない。
逆に、コイツが大人しく聞いているだけなんて、おかしいのだ。
いつもの彼女なら、機転を利かせて無意識にそれこそわざとらしく席をはずしたり、自分もチョコあげようか?などと、何かしら一言言ってくるだろう。
黙ってるのはつまり、コイツがいつもとは違う状況だからだ。
この間の会話からすれば、こいつがオレに対する気持ちに気付いたのはまさにあの時で、多分、オレと同じできっと彼女も戸惑っていて。
でも、コイツはオレが知っていることを知らないから、普通を装うことに必死で、失敗にも気が付かない。
「越石さんは? 生チョコいる?」
「生チョコなら食える」
「じゃあ、あと秋丸くんと、三人分作ってくるね」
「丁度来週だもんね。作る練習とかすんの?」
「んーまあ」
"女の子の会話"になって、さや子は漸く口を開いた。オレの事をちらりとも見ないのがまたわざとらしい。それでも、オレの勘違いの線は消えないので、はっきり聞いてみたくもなる。困るのは自分だということくらい、勿論理解はしていた。
なあ、オマエ、オレンこと好きなんじゃねーの?
頭に浮かんだ疑問には、当然、誰も答えてくれやしないのだ。
2011/10/24