事実を認めてしまいました


「山本くんおつかれー。惜しかったねえ」

私は今、山本くんの依頼の調査結果を報告しに来ていた。私負けたから特にやることも無かったし、山本くんの彼女さんも今試合をしているので、このタイミングが丁度よかったのだ。

山本くんが体育館からでて、外の通路部分に移動してきたので、私はそれを追って外に出て、話しかければ、山本くんは振り返って、試合の感想を悔しそうに述べた。

「おー。まさか最後の最後でスリーポイント決められるとは思わなかったしな」

「川内さんも勝ってるとこまでは見てたよ」

「逆にどんな顔して会えばいいんだよ」

この話を漫画に例えるなら、相手チームが主人公のいるチームだったのだろう。そんな負け方だった。

最後のシュートを放ったあの子は、運動音痴なのに、ひょんなことから他クラスの不良的運動部員と、幼馴染の女の子をかけてこの大会で戦うことになってしまい、大会に向けて放課後残ってまでバスケの練習していた男の子だった。というのは、ただの私の希望だが、多分あの子はそんな感じの主人公になれるだろう。

「そうそう、それでこないだ言ってた川内さんのことなんだけどね」

「! どうだった!?」

「あのさ、山本くんさ。二月十四日って何の日か知ってる?」

「……煮干しの日」

「ボケなくていいから。つまりバレンタインなんだよね。川内さん、バレンタインのついてでいろいろこそこそやってるみたい。サプライズしたいんでしょうね」

「それはオマエ、黙ってろよオレには」

「私はそういう人情系な探偵ではないの。とにかくそういうことだから、浮気の心配はないです。以上」

「うっわ、乱雑」

「あのねー、三章はラブコメパートオンリーだったハズなのに、どっかの誰かが、タイトル上なんかしらさせないと不味いとか脳内会議で結論出して無理やりこんなエピソードいれることになっただけなんだから、乱雑なのは」

「すいません! これ以上裏話は無しの方向で!」

世界観? なにそれ食えんの? みたいに開き直りかけたところで、山本くんのストップがかかり、私は口をつぐんだ。

そして、話を変えるかのように、山本くんが私の地雷を踏む。

「つーか、今元希も試合だろ? オレんとこずっといて良いわけ?」

「あー。アイツ彼女出来るかもしんないから、邪魔だろうと思ってね」

「ダウト」

「管理人の愛読しているラノベばらすようなネタはやめようか。そして私は嘘を吐いていない」

「無自覚なのが越石の悪い癖なんだな。理解したわ。あのな、越石」

何故か呆れたようにため息を吐く山本くん。私は嘘を吐いたつもりなどないので、その反応が少し不快だ。

「なんですか」

不機嫌丸出しな返事に、山本くんがまたため息を吐く。首にかけたタオルで、顔をぐしゃぐしゃ拭いてから、何か悩むような顔をし、漸く話しだした。

「元希、好きなヤツできたのか?」

「そーらしいけど」

「で、そいつが試合見に来てたわけな」

「……んで?」

「態度見りゃわかるって。オマエそれ単にその子がいるから試合見てたくなかっただけだろ」

「うん。だから、邪魔だろうと思ったって言ったでしょ」

「それが嘘なんだよ。邪魔だろうと思って、オマエはオレのとこ来たわけじゃない」

「はあ?」

「オマエ、その子に嫉妬してるだけだ」

その子。というと、濱村さんだ。私が濱村さんに嫉妬。認めづらいな。理由も思い当たらないし。いや、山本くんの話からしたら、理由はそういうことなんだろうけど。

「違うよ。だって私、榛名を好きとかじゃないし」

「違うなら、なんで試合見てやんなかったんだよ。親友なんだろ」

「それは、山本くんに用もあって」

「タイミング見計らって最後にくりゃあ良いだろ。バスケはバレーと違って時間制なんだから」

「あのねえ、移動が面倒でしょ」

「元希はオマエ見に来てたけどな」

「なんでだからって。来てたのなんか知らないし」

「いーや、オマエは気付いてたね」

「なんで」

「ミサが言ってた。オマエは元希が好きだろうって。好きなヤツが来てるのに気付かない奴なんかいない」

「このバカップルが。なんで彼女無条件に信じるんだ」

「オレも同意見だからだよ」

「なんでよ」

「オマエ、メシより大切なんだろ。アイツのこと」

「はい?」

「学校内の移動より、約束掛け持ちのが面倒だ。って話だよ」

「誘導尋問だね、そんなの。っていうか強引なこじつけだ」

イライラするなあ。大人しくバカップルしててくれりゃあいいのに。なんで余計な口出ししてくんだ。山本くん。

「わかった」

「何が」

「じゃ、話戻すぞ」

「なに」

「そもそもなんで、元希の試合見なかったわけ」

「だから、邪魔に」

「だーかーらー邪魔"したく"なるから、見なかったんだろ」










そうだよ。










「は」

「じゃなきゃ、なんでオマエがただ見るだけで邪魔になるんだよ」

「それは、だから、そう、山本くんに用が、だから」

「最初に言った方先に説明しろよ」

「あれは、適当で」

心臓が、鷲掴みにされているみたいだ。図星だって、私はもう理解している。自分からは逃げられないのに、山本くんから逃げても意味ないのに、何しても、意味ないのに。

「私、ベツに」

「答え、出たんだろ。わかったんだろ」

なんで自覚させるんだろう山本くんは。気付かなければ、私は失恋しないで済んだはずなのに。

本当はわかってた。気付かなくても失恋はするし、気付いてないまま失恋したら、気持ちを切り替えることすらうまくできないだろうということに。

「って、ちょ、泣くなよ!」

「だ、って、あー、もー」

失恋確定なんだからしょうがないじゃないか。

この間、濱村さんとも話をしてみた。勿論榛名についてだ。濱村さんは満更でもなさそうで、寧ろ、珍しく私に、嬉しそうに話をしてくれた。西中さんが死んでからも、たまに笑ってはいたけど、ああやって微笑んでいたのはあの時だけ。あんなに、困ったように、幸せそうに話している彼女を見て、私はなんて思った?何にも、思わなかった?違う。そうじゃなく。

無理やり、よかったなあ榛名って思って、他の感情を遮断した。

泣きやまない私の頭を、山本くんがポンポンと撫でた。榛名ならよかったのに。前に泣いた時、そばにいたのは榛名だったのに。今はどこにいるんだ。なんで、私の隣じゃ駄目なの。

「ごめ、んね。山本くん」

「いや、いいって。しょうがねーと思うし。オレも悪いし。ほら、泣くな泣くな」

目が腫れていたりするのを榛名に見られたら嫌なので、私は深呼吸して、制服の袖で涙を拭う。

なかなか止まってくれない涙に、私はもう自棄になって、確かめるように、自分を認めてあげるために、キチンとそれを言葉にした。

「私――――」

知ってたよ。本当は。私、好きでもない人に抱きしめられて大人しくなんてしてらんないし。これでこんなに泣けるのに、先生にふられて泣かなかったし。

「榛名が、好きだったんだね」

わかったからには、今度こそしっかりふられて楽になろう。せっかくのバレンタインだし。本命をあげて、好きって言って、ちゃんとふられて、それでいいじゃないか。

この話、きっとこれで終わるんだろうな。なんて。終わらないなら、名前変換出来るキャラクターを変えて、私をモブキャラにしてほしいものである。

どうやら私は主人公ではなかったらしい。



2011/10/24
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